どうです? ここまで見てきて、デートコースがあなたなりに、イメージできたでしょうか?
すでにお気づきだと思うんですが、デートコースや、二人で行く旅行で訪ねるところは、名所旧跡ってわけじゃありませんし、立ち寄るお店は、必ずしも権威があって、しかも値段の高いところばかりではありません。旅の楽しみ方でいえば、大急ぎで名勝、景勝をグルッとまわって帰ってくるやり方、じゃなくて、わりとゆったりした感じのいいホテルがあって、そこでのんびりとする。近くにはあなたの目を楽しませてくれるような庭があって、そこらあたりを彼と一緒にブラブラする、という楽しみ方なわけですね。
デートの場合も同じ考え方なんですよ。要は、「いい気分になれる場所」を二人で訪ねて歩くわけですから。
デートコースを考案しようとするときのために、男のコ諸君にアドバイスしておきますが、一番、心にとめておいてほしいことは「ワンパターンではあきがくる」ということです。女のコたちは、何も毎回毎回、高級で華やかな場所ばかりに行きたがっているわけではないんですね。そんな女のコの気分は、ボクの小説でいえば、こんな感じなわけです。
≪これまた外観に似合わず、日本料理が大好きな彼は、半年ほど前に買い換えたばかりのフィアット・パンダに私を乗せて、人形町とか神楽坂《かぐらざか》の小割烹《しようかつぽう》へ行く。誰に教えてもらったのか、石畳の路地を入って行ったところにあるお店で、はものお刺身や、帆立貝のすり身で作ったシュウマイ、目板ガレイを三枚に下ろして唐揚げにしたお料理などを、食べる。六本木や西麻布あたりの、グルメ雑誌ではお馴染《なじ》みなものの、ウエイターの態度が尊大で、味の方も今イチなフランス料理やイタリア料理のお店へ連れて行ってくれては、「ねっ、おいしいだろ」みたいなことを言う遊び人の大学生の男の子より、魅力的だ≫(『晴海国際貿易センター』)
わかりますか? ですから、根本にある「気分」を大事にしてほしいわけです。その「気分」さえ踏みはずさなければ、デートコースなんて無限に作れるわけです。二人でいつも、新鮮なデートを楽しめちゃうはずです。
≪千駄木まで一枚の千代紙を買いに行く。その気力を大切にしたかった。
クレージュの夏物セーターを、クレージュのマークのついた紙袋に入れてもらう。そのスノッバリーを大切にしたかった。
甘いケーキにならエスプレッソもいいけど、たまにはフランス流に白ワインで食べてみる。そのきどりを大切にしたかった。
クラブのある日には、朝からフィラのテニス・ウェアを学校に着ていってしまう。普段はハマトラやスポーティでも、パーティーにはグレースなワンピースを着て出てみる。その遊びを大切にしてみたかった。
高輪へ行ったら東禅寺を訪れてみる。南麻布へ行ったら光林寺を訪れてみる。その余裕を大切にしたかった。(中略)
こうしたバランス感覚をもったうえで、私は生活を楽しんでみたかった。(中略)
無意識のうちに、なんとなく気分のいい方を選んでみると、今の私の生活になっていた≫(『なんとなく、クリスタル』)
どうです、『なんクリ』の主人公、由利のこのことばの「生活」ってところを「恋愛」に置き換えてごらんなさい。そのまま、ボクが理想とする「恋愛」の形になるとは思いませんか?