サーファー派の行動原則は、なんといっても、サーフィンをやる、というところから出発するわけですから、男のコとつき合うときも、デートするときも「サーフィンをしながら」ということになります。
この場合、男のコとの待ち合わせ場所は、世田谷《せたがや》にある「デニーズ八幡山《はちまんやま》店」になります。
金曜日や土曜日の夜になると、「デニーズ八幡山店」には、三々五々、サーファー少女やサーファー少年たちが、集結してきます。
サーファーは、たとえば六本木や渋谷でデートするときにも、男二対女二、あるいは、男五対女二、といったバランスで、グループで遊びに行くケースが多いんですね。海に行く、なんていうときは、平気で、男女あわせて総勢一〇人にもなっちゃいます。
これは、サーファー派の女のコが、
「恋愛に関して淡泊なつき合い方を好む」
という傾向から発している現象と考えられます。
「彼と二人っきりでベタベタする」
なんていうのよりは、みんなでガヤガヤ、ワイワイやっているほうがいい、と思っているらしいのですね。
ハタから見ると、サーファーのコなんて、
「どうせ湘南海岸公園のパーキングに車を停めて、夕方からルンルンしてるんでしょう」
とか思い込んでいるようですが、これは間違った認識です。サーファー派は、好みとしてはどちらかというとショーユ味よりは塩味、サウザン・アイランドよりはフレンチ・ドレッシング、といった気分を好むものなんです。
セックスにしても、田中康夫の小説に出てくるような、
「高圧電流が体の下部にビビーンと走って、エレベーターが急降下して行くみたい」
なものとは違って、片岡義男の世界みたいな、
「二、三分で終わっちゃう、ベッドのなかの出来事」
ですませられたらいい、と思っているんですよね。
で、なぜ「デニーズ八幡山店」か、というと、環八沿いにあって車の便のいい利点だけではなく、同じ世田谷の「ロイヤルホスト馬事公苑《ぱじこうえん》店」とか目黒通り沿いの「デニーズ碑文谷《ひもんや》店」と違って、リラックス気分になれるからです。
このテのお店ですと、すぐ近くの世田谷区や目黒区に住んでいながら、なぜかアカ抜けない風な少年少女が、サーファーたちの横っちょのテーブルに陣取ってしまい、そうした人たちは、ホントは自分たちも「サーファーとつき合いたい」と思ってはいるけど、自分たちに自信がなくて、モーションをかけられない、あるいは、
「自分もサーファーになったらモテるだろうなァ」
と、心のなかでは思いながらも、それぞれの運動神経に「いま三」くらい不安があってなれないでいる、といった人たちなので、大声でサーフィンのポイントの話をしているサーファーたちに、ジェラシーの視線をビシバシ当てるわけです。
これでは、せっかくのサーフィンが、スタートから暗いものになってしまうんですね。
みんなで海へ行くときに集合するのが「デニーズ八幡山店」なら、帰りは「デニーズ葉山店」です。サーフボードやウエットスーツにはお金をかけても、洋服や食べ物にはチープシックなのが、サーファー精神ですから、サーフィンの帰りに寄るのは、やっぱり「デニーズ」。まかり間違っても「ラ・マレ」には入りません。こうした値段のはるお店は、BMWに乗って東京からやって来た日本医大のマールボロ少年と日本女子大のレノマ少女にまかせるのが、サーファーの心意気です。