ニュートラ・ファッションが、安易に可能であることは、さっきも書きました。ファッション感覚が、ゼロでも、ピンクのセーターと紺のスカートを「パルコ」のなかにある「オックスフォード」で買ってくれば、だれだってニュートラ少女に変身できるわけです。
まったくセンスのない女のコに、生きる望みを与えたニュートラは、日本の戦後服飾史にサン然と輝くホームラン王といえるでしょう。
そうした理由からなのか、大衆レベルでは、このニュートラという代物は、いまだに根強い人気を誇っています。が、さすがにファッション感度の高い女のコの多い、白百合女子大や東京女学館短大あたりでは、
「エーッ、ニュートラなんて恥ずかしくて、もう私、そんなカッコ、できなーい!」
というコが増えています。
とにかく、原色のスカートとブラウス、シャツの組み合わせなわけですから、実は、ファッション業界では、
「アメリカの農協オバサン格好」
と定義されています。
もちろん、アメリカに農協があるわけないんですけど、アメリカの田舎町に住んでる人たちというのは、花柄のパンツに真っ赤なシャツで、「ランバン」やら「セリーヌ」のスカーフをするのが「とってもオシャレ」と思っているところがあるんですよね。
こうした、ワイオミング州やケンタッキー州の畑のなかの一軒家に住む�農協オバサン�たちは「アンナ・ミラーズ」で売っているようなパンプキン・パイを、キッチンにあるオーブンで作っています。
ま、そんなことはまず置くとして、渋谷派、銀座派、新宿派の�三派系�で成り立っているニュートラ派とは、具体的にはどこの女のコが支えているのでしょうか? 思いつくままに、イメージをまとめてみましょう。
まずタイプ㈵として、偏差値の高い都立富士高、西高、もしくは定時制にはスーパーかわいいモデルのコがいるのに、全日制はごくフツーな駒場、青山あたりから青山学院大学、立教大学に入りました、のコたち。
タイプ㈼としては、バス停から学校までがエラく遠い都立府中西、桜のきれいな並木道沿いにある都立深沢、自転車通学がやたらと多い都立|千歳《ちとせ》高なんぞから明治学院大、成城大に入りましたって、女のコたち。
タイプ㈽は、広尾にあって、なかにはかなりかわいいコもいることで知られる順心女子、横浜の花月園競輪場のすぐそばという、きわめていい環境の法政大学付属女子高などから、東横学園短大、もしくは成城の短大に入りました、というコたち。
タイプ㈿はですね、豊島園の北のほうの田園地帯、春日《かすが》町にある都立練馬、大竹しのぶも出た都立小岩、あるいはサンシャインシティのふもとにある豊島岡《としまがおか》女子、比較的おとなしいコが多く、駒込の古河庭園のそばにある女子聖学院、なんていうところから青短(青山学院女子短大)、赤短(山脇学園短大のことですが、赤坂にあるので、こう呼ばれます)に入った女のコたち。
タイプ㈸として、あの松本伊代も途中まで通った東京のはずれにある森村、山脇、そして、東京女学館の中三くらいのころから慶応や立教の大学生とルンルンしてた東京女学館の女のコ、結構張り合って遊んでいたコも多い目白の川村学園、といったところから、それぞれ、やはりそのまま上の短大へ行った女のコたち。
とまあ、以上の五タイプが考えられます。とはいっても、これはイメージ上、こういう人たちです、という参考のために列挙しただけで、タイプ別に、はっきりとした違いがあるわけでもありません。一応、念のため。
髪の毛は渋谷の公園通りにある「クロード・モネ」でレイヤードカットにしてもらい、「オックスフォード」の一万二〇〇〇円のサマースカート、「クリスチーヌ」で買った六七〇〇円の、モルタルの壁の表面みたいな編み方になっているサマーセーターを身につけ、いまだに「サンローラン」や「エマニュエル・ウンガロ」のウェッジソールか横浜「ミハマ」のシューズをはいて、持っているショルダーバッグは、あいかわらずのブランドもの。
こういうニュートラの基本パターンは、決してオシャレな女のコが、競い合ってするファッションではなくなりましたね。そして、当のニュートラ派のコだって、ちゃんと知っているんですよ。
ですから、たとえば『JJ』なんかの読者モデルとして登場したときに、
「大好きなお洋服は、アルファ・キュービックです。お休みの日に、彼のBMWに乗って南青山のフロム・ファーストへ行って、アルファ・キュービックを見て歩くのが楽しみです」
なんてコメントしています。
しかし、そういうことをいっているニュートラ派は、実は、四万円の「アルファ・キュービック」のサマードレスを、一着だけ、ママにおねだりして買ってもらって持っている、というのがほとんどです。
バッグにしても、「ルイ・ヴィトン」はまだ許せるとしても、「デイォール」「フェンディ」「クレージュ」のマーク入りをブラ下げて歩くことは、エレガンス派からすれば、
「ダサい」
とされています。「ラ・バガジェリー」や「マルベーリ」「ゲラルディーニ」あたりのポシェットを、肩から斜めに下げるほうがススンでいるのです。
もちろん、ニュートラ派でも、そんなことは承知のうえです。承知してはいるんですが、そうしたポシェットを持つとなると、今度はお洋服のほうまでエレガンス派に近いものへと衣替えしなくちゃならなくなるわけですね。
ポシェット一個のために、ニュートラからエレガンス派へ、全面転換を余儀なくされちゃうわけです。しかし、それは予算の関係上、無理がある。それで仕方なしに、ニュートラにとどまっているんです。
つまり、ニュートラ派の心理的な基盤を解説するなら、
「ファッションには目覚めているのだが、いまイチ、自分の経済力、センス、容姿ともどもに自信がなく、かといってお金を大量に稼ぐためにマントルやホテトルに勤める勇気もない」
というところでしょうか。
最もメジャーな層であるニュートラ派の女のコたちは、意外や意外、結構お金に関してはシビアな状況にある、ということがいえるわけですね。