夜のお仕事を始めてからというもの、いつもの「ラジオ・シティ」で知り合った若手サラリーマンとつき合いを始めても、まったく金銭感覚が違ってしまい、うまくいかなくなってたわけです。
「それじゃ、ホテルへ行こうか」
ってことになったとき、タクシーを降りる際に、彼のサイフの中身がパッと見えちゃうんですね。万札が二枚くらいしかないわけですよ。二人でディスコへ行って八〇〇〇円、タクシー払って一五〇〇円、残り一万とんで五〇〇円で、
「それでダイジョーブなの?」
なんて心配しちゃうわけですね。一万とんで五〇〇円で、ホテルをやりくりしなくちゃならないサラリーマン君を見ていると、アワレっぽいし、ショボいし、もうイヤんなってくるわけですよね。
「アタシが出したげよか?」
といいそうになっている自分に気づいて、
「これではイケナイ」
と思いとどまって、思わず、意味のないことを口走ってしまったりもします。
で、実際にホテルに行っても、ミカちゃんの場合は、一泊一万五〇〇〇円くらいのレベルのラブホテルがいいのに、サラリーマン君は、七五〇〇円あたりの部屋で我慢しちゃうもんだから、どうしても不満が残るわけです。
セックスも、こういった若手の場合は、朝までかかって、回数だけは多く、四回くらいするんですね。ところが、当然のように、自分だけ気持ちよくなってしまうセックスですから、数ばっかりコナしても、ミカちゃんは感じないまま、結局、何もかも盛り上がらないままに、夜が白々と明けてくるんです。
そういう状態だったわけですから、「レディース・クラブ愛」は、ミカちゃんにとって、夢の殿堂に思えてしまうんですね。
ワイシャツの袖のカラーが一五センチくらいもあって、それで叩《たた》くと、顔なんかパックリ切れてしまいそうなやつを着てる「角川博」が、裏地に「虎」の絵が入ってるようなスーツを着て、エラくやさしくしてくれるんですもんね。ミカちゃんはコーフンしてしまうわけですね。
「これこそ、私が求めていた男性だ!」
で、よせばいいのに、二〇万円くらいするボトルをとって、三日とあけずに通い始めることになります。月に百万の収入があるのに、ここのお店の払いが、一か月で七〇万くらいになってしまいます。住んでるマンションの家賃が一〇万円ですから、ホストクラブへ通う他には、もう、なーんにもできない生活になるんですよね。それでも、やっぱりお洋服とかも買っちゃいますから、せっかく貯めていた貯金も、残高がドンドン、なくなっていくことになります。
しかも、一般にホスト業界は、高卒社会なんですけど、たまたま「青学を中退」なんていうのが混じっていると、もう、ミカちゃんは、
「彼は大卒だわ」
と思い込んでしまい、イレあげてしまうんですね。
その中退少年には、結構、銀座のホステスねえさんなんかのお客がついていて、まあまあ成長株のホストなんだけれども、イレあげられると、多少トウの立ってきてる銀座のねえさんよりは、まだ若くてピチピチしたデパートガールあがりのミカちゃんのほうに、目がくらんでついつい、本チャンのおつき合いになったりします。
こうなると、完璧なドロ泥で、ミカちゃんがホストクラブへ通って「一本二〇万」のペースでお金を使い、中退少年がソープランドへ通ってチップをはずむ、という「経済のサイクル」ができあがっちゃいます。これを「性産業の食物連鎖」と呼びます。
ソープランド嬢とホストのカップルですから、だれがどう考えたって、
「金の切れ目が縁の切れ目」
なわけなんですから、二人が末長く幸せに暮らすなんてことは、ほとんど不可能なんですね。ホストなんて、長いことできるわけありませんし、ミカちゃんも、
「生涯一ソープランド嬢」
とかできませんから、遠からず破局は訪れちゃうんですね。この場合、ただの恋愛関係の終局、というだけではなくて、「経済の破綻《はたん》」という側面もありまして、うっかりすると、人生においても「再起不能」になる場合も少なくないので、とても悲惨です。