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父子鷹03

时间: 2020-09-26    进入日语论坛
核心提示:遊山無尽《ゆさんむじん》 刀を渡して金を受取った時は、流石の小吉もからだ中、にちゃ/\と脂汗がにじみ出ていた。 世話焼さ
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 遊山無尽《ゆさんむじん》
 
 刀を渡して金を受取った時は、流石の小吉もからだ中、にちゃ/\と脂汗がにじみ出ていた。
 世話焼さんは万事心得て、やがて笑顔に送られて、松平屋敷を出て、思わずほっと生き返ったような心地がした。愛宕山の緑が眼にしみて、さっと吹いて来る風が涼しくふところを抜けて行った。
「恐ろしいものだ」
「何にがでござりますか」
「人に物を売って儲けるというのはよ」
「はっ/\は。勝様は生れておはじめてでございますからね」
「これはおれには出来そうもないな」
「何あに、馴れて見ると案外面白いものでございますよ。三、四回目をつぶって、わたくしについて歩いて御覧なさいまし」
 うなずいたが、小吉は、まだ何んだか夢でも見てるような気がしている。往来も忘れてふところを一ぱいひろげて、扇子でいそがしく風を送り乍ら、そのまゝ世話焼さんについて築地の売主の又兵衛のところへ来た。
 又兵衛がまた大喜びで
「これは少々乍らお鰻代でございます」
 といって五両くれた。
「有難う存じます」
 世話焼さんのそう礼をいって受取るのを、脇から小吉がぼんやり見ていて、あわてて
「やあ」
 とぶっきら棒にいってこくりとお辞儀をした。
 日がくれて岡野へ戻って来た。玄関から、そっと平川を呼出した。植込の暗い中で
「ほら、二十両——おい贋金じゃあねえぞ。いやもう寿命を縮めて拵れえた金だ。これで当分屋敷の遣繰《やりくり》はつくだろう」
「はあ」
 平川のそういうのを聞き流して、小吉は、ふっ飛んで自分の家へころがり込んだ。
「おい、お信、道具市の世話焼さんというは偉え人間だ。あゝいう人がいる。本所というは、いいところだなあ」
「何んでございますか」
 狐につままれたような顔をしているお信の鼻っ先きへ、庭先から着物を投りぬいで井戸端へ駈けて行くと、ざあ/\と水をかぶって
「おれは、世話焼さんに頼んで道具市場のお仲間入をする事にしたわ」
「はい? なんでござりますか」
 水をかぶり乍ら云うから小吉の早口な言葉がお信にははっきりわからない。
 暫くしてやっと近くへ来たからお信がにこ/\しながら
「先程おっしゃる事が一つもわかりませんでござりました。何んでござりましょう」
「馬鹿奴、おれは死んだ雲松院《おやじ》ではねえぞ。何んで呂律《ろれつ》が廻らねえものか」
「そうでは御座いませぬ。水をかぶりなされ乍らでございますから」
 小吉はじろりと見て
「おれは道具市の仲間《なかま》にへえるといったのだ」
「道具市?」
「栄助とっさんが面倒見てくれるのよ」
「まあ」
 といって、お信はすぐ小吉の前へ来て
「御苦労様ながら、そうしていたゞけば、勝の家も助かりましょう。四十俵の小高で借金が三百五十両半になりました」
「えーッ?」
 小吉はびっくりして
「そ、そんなに借金が出来ていたか。お、お、お前、どうしておれにそれを云わねえ」
「こんな事を申上げては、あなたが、あなたらしくないお方にお成りなさるのが気懸りだったからで御座います」
「ふーむ」
「でも無理にお利得をなさる事はございませぬ。わたくしは、何んに事を欠きましても辛抱は出来ます。それよりも、あなたがあなたらしくなくなるのが一番|辛《つろ》うございますから」
「お信」
 と小吉の目がうるんだ。
「お前、よく辛抱してくれるねえ。有難てえよ」
 泣声であった。
 丁度、麟太郎が帰って来た。
「父上、今日は道場へ面白いお方がお見えになりました」
「修行者か」
「はい、車坂の井上伝兵衛先生がお一緒で目のくぼんだ頬骨の高い怖いお顔のお方でございました。わたくしの先生と、竹刀をとってお立上りなされたまゝ、少しの間、じっとしていられましたが、お手をつかれて、面をとられ、俄かに大きなお声を上げてお泣きなされました」
「うむ? 精一郎の竹刀の前に坐って泣いたか」
「はい」
「何処の人だえ」
「豊前中津のお方だという事でありました」
「年頃は?」
「わたくしにはよくわかりませぬが、先生よりは少しお若いように思います」
 小吉は、にや/\して
「いくらかは遣える奴らしいな」
 といった。
 麟太郎はまた
「これは、先生から父上へ差上げよということでございました」
 きっちりと厚い紙に包み、紐をかけた書物らしいものを小吉の前へ静かに押し出した。
「そうか」
 小吉は、何気なく胡坐のまゝで、その包の紐を解こうとしたが、ふと気がついて、ぴたっと坐り直して、開いた。書物が二冊出た。
「おゝ、これはつい先頃一刀流天真伝の白井亨先生がおあらわしになったものだな——兵法|未知志留辺《みちしるべ》か。先生はおれの木剣からは輪が出るぞと口癖に仰せられるという古今の名手だ。こら麟太郎、これは尊い、しかしおれがようなものが読んでも何んの役にも立たぬ書物だ。お前が成人したらよく/\拝見しろ。恐らくは内観丹練の法が詳しいだろう」
 押しいたゞいて、そのまゝ麟太郎の方へ押してやった。
 麟太郎が床へ入ってからも、小吉は庭の中をあっちへ行ったり、こっちへ来たり、縁側へ腰を下ろしたりして、夜空を眺めていた。
「三百五十両の借金とは驚いた」
 時々そんなことをつぶやいた。お信はそれを聞く度に、しッと手で制するような恰好をした。麟太郎に聞えてはいけないという顔つきである。
 次の日から、小吉は世話焼さんに云われた通り、|せり《ヽヽ》市場へ出て行った。世話焼から早くも、ずうーっと話が通っていたので、儲かりそうな刀が出ると、みんなその刀を小吉のところへ持って来た。
 市の一番高いところに大きな座蒲団が出て、小吉はこれへ坐って市の模様を黙って見ていればいゝ。刀を買い求める資金も世話焼さんが工面をするし、売る時は、頃合を計ってこれを|せる《ヽヽ》から、家へ帰る時には、必ずいくらかの儲けが小吉のふところへ入っていた。
 小吉は、それをそのまゝ、ぽいとお信へ出して
「今日の儲けだよ」
 とにやっと笑う。
「だん/\見ていると、おれは道具市場の用心棒よ。世話焼さんはそんなつもりじゃあないが、みんながそうして終っている」
「さようで御座いますか」
「おれもはじめてきいたが、破落戸《ごろつき》という奴はどんなところにもいるものだねえ。市へ|だに《ヽヽ》のように咬みついて、毎日三つや四つの騒動を起こし、これを銭にしている奴があの市だけでも七、八人もいるそうだ。それが、おれが行ってからは、ぴたりと来ねえ。はっ/\、御旗本の用心棒だ。市のものはみんな喜んでいるよ」
 きょうも暑い。東の方の白い雲の峰が、銀の塊を重ねたようにぴか/\光って、吹いて来る微風も、むうーっとする。
 小吉が出かけようとしているところへ、近頃暫く顔を見せなかった水心子秀世がやって来た。
「この暑いのによく来たな。お前がところの麻布の今里は涼しいというが、川のこっちは水が近けえというにあべこべに江戸一番の暑いところだ。どうだ、ひどかろう」
「そんなでもありませんよ。ところで今日参りましたのはねえ。尾張屋の親分が今度心の知れた友達と、遊山無尽を拵えましたんでね。最早、大概は揃いましたが、どうしても勝様に会主になっていたゞこうという訳でしてね」
「大層結構な話のようだが、おい、水心子、馬鹿も休み/\いうものだ、おれがような貧乏が遊山無尽どころの話かえ」
「それはそれ、これはこれで御座いますよ。実は尾張屋の親分が、何にやらお茶会の事で車坂の井上伝兵衛先生とお近づきになりましてね。この無尽の事を申しましたところ、おれも入れて貰うが、会主はどうしても勝先生にせよ、そうでなければ断るし、折角お入りなされた剣術の方のお方々はみんなお止めなさるという」
「井上先生はあゝいうお人だから、そんな事をおっしゃるが、おれはこの節はわけても困窮だ、飛んでもないことだ、切に断る」
「先生それはいけませんよ。先生がお断りなさると、皆様がお楽しみになさっている無尽が出来なくなるのでございます」
「おれは掛金もないのだよ」
「皆様が、会主になっていたゞけば、勝様の掛金などはどうでもいゝというんですから、それで宜しいではありませぬか」
「こ奴はとんと困ったなあ」
 小吉は頭をかいている。
「とにかく御加入なさいまし」
 と水心子は
「それでおよろしいということにして、わたくしは、これで御免いたゞきます」
 来たばかりなのに、お茶一ぱい飲まずにあわてたように帰って終った。
 一日おいた次の日にまた水心子がやって来て帳面を出して金を五両置いた。
「初会《はつかい》は会主取りでございますから」
「ほう、何にやら妙な具合の話ではないか。妙見の刀剣講で飛んだ無理を云ってあるからお前に来られてはおれも閉口だが、お前もこんな事で麻布くんだりから川向まで出てきていては仕方あるまい」
「大丈夫ですよ。これから先きは用件には加入の人達が参ります」
 といって、また忙がしく帰った。
 この事を世話焼さんに話したら
「勝様、それでいゝのでございますよ。妙見菩薩の御|利益《りやく》です。尾張屋の親分が何んとかして勝様に御礼を申さなくてはと大層、気を遣っていらっしゃると、秀世さんから度々《どゞ》伺って居りました」
 とにこ/\した。
 二、三日後ちに、東間陳助と道具市へ行く途で逢った。小吉は
「男谷が道場には休まずに行っているだろうな」
 といった。
「は。参ってます」
「車坂の井上先生の手びきで豊前もんで滅法荒い奴が来たそうだな」
「いやもう凄い強気でしてね。道場の者は誰も皆々ぶちのめされます」
「ほう、何んという奴だ」
「島田虎之助。しかし、流石に先生には打込むことも出来ない。まだ竹刀が一度も先生の道具にさわった事がないと、本人も沁々申して居りました」
「そうか。その中にはおれも一度|遣《つか》って見ようかの」
「さあ。いかに島田も出来るといってもあなたのお対手まで参って居りますかな」
「東間、お世辞をいうな。おれはな、この頃は、道具市の用心棒で銭《ぜに》を稼いでいる。剣術などは見向きもしないから、いやもう、段々と下落で、駄目だ」
 東間が、そんな事はないでしょうといった時はもう小吉は向うへ行って終っていた。
 市へ行ったら世話焼さんが待っていて
「今日は一つ、神田へ参りましょう。いゝ市が立つそうでございますから」
「そうか。幸い遊山無尽で貰った五両、あれがある。資金《もとで》はこれでいゝかな」
「結構でございますとも。足りなければ足りないでまた算段がありますから」
「頼む。お前がお蔭で、おれが家もこゝのところ大きに|らく《ヽヽ》になった。この分で三年もしたら、三百五十両の借金は無くなるだろうとお信がいったよ。礼をいうよ」
「いや、わたくしなどの力ではございません。みんな日頃、勝様のわたくし共へ親身におかけ下さる御情が妙見菩薩の御利益によって、お手許へ戻るのでございますよ」
「こっちが世話になるばかりで、何んのお前らへ情なものか。面目ねえよ」
 その夜の神田白壁町の市には刀剣が沢山出て、一口々々、小吉の前へ持って来て鑑定《めきき》を頼んでは、売買の度にいくらかずつ紙へ包んだものを持って来て、へこ/\して差出した。
 やっぱり大きな蒲団が出ていて、それへ坐っている自分を見ると、小吉は自分で自分がおかしくなって、時々、ぷッと吹出してはびっくりして四辺を見廻した。
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