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父子鷹08

时间: 2020-09-26    进入日语论坛
核心提示:天の理法 割下水を大粒の雨が叩く。水の面から銀色の小粒が吹出してでも来るように見えている。「人を踏みつけにするもいゝ加減
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 天の理法
 
 割下水を大粒の雨が叩く。水の面から銀色の小粒が吹出してでも来るように見えている。
「人を踏みつけにするもいゝ加減にせよ。これは一体どうしたという事だ」
 こういって小吉に怖い目で睨みつけられて玄斎は縮み上った。
 事実は玄斎もその時まで何にも知らない。小吉が思っていたように、この人もやっぱり願いの趣は駄目だったのだと考えていた。
「先生のお顔を潰しては大変だ。早速わたしが懸合いましょう」
「おのしはとっくに確かめてある筈だ。第一おれがところへ話を持って来たはおのしだ。が断って置くが、おれが礼の事などをいっているのじゃあないよ。紅井さん、瀬山さん、阿茶の局、そっちを約定通りにしなくては、唯事では済まない」
「わかって居ります」
「秩父屋は飛んだ狡い男だ」
「貧すれば鈍するでしょうかな」
「いや、あ奴あ性根が悪いから衰えたのだ。全く、引っかゝった」
「一途にそうおっしゃらずに、少々の間、わたしにお任せ置き下さい」
「先日|しか《ヽヽ》と確かめると申してそのまゝほったらかして置くおのしだ。信用は出来ないな」
「まあ、そう云わず勝様」
 玄斎は剃った頭につぶ/\の汗をかいた。
 その夕方から雨が止んだ。
 丁度三ツ目の道具市の日で小吉は、そこに行っていると、玄斎がふだん威張っているのにひどく恐縮の面持で腰をかゞめてやって来た。
「あの男は狐のようだ。貫札の下り次第などといった覚えは毛頭ない、どうしても三百両御用仰せがある迄は礼金は出しかねるといってきかないのだ。わたしもいろ/\な人間を見たが、あのような図々しい奴ははじめて——勝様わたしが憎いと思召したらわたくしを、また秩父屋を憎いと思召したらあの夫婦を、思う存分にして下され。わたしは覚悟をして参った」
 といって、とう/\ぽろ/\泣き出した。
「これ、玄斎先生、そういうのを、下世話では尻《けつ》を捲くるというのだ。おのしや秩父屋を斬っ払って見たところで、おれは三文の徳にもならないよ。え、秩父屋はね、もう貫札は下ったし、御用は仰せつかったし、今更貫札を取上げられ御用達を外《ほか》へやられる事はないと多寡をくゝっているのだ。おれや、おのしが腹を立てて、手を引いてくれるが、あ奴の目当《めあて》よ。まあこちらはおとなしくしていよう。悪い事をしていゝ報いが来るという理法が天にあるならば三九郎の思う通りなるだろう」
「それでは余り忌々しい」
「まあいゝわ、肥溜の蛆虫《うじむし》を対手にするも気味が悪い。おのし、もうこの一件は心配されるな。その暇に、病人を一人でも多く癒してやる事だ」
「わたしを許して下さるか」
「許すも許さぬも、悪いは、おのしではないではないか」
 次の日は雨の後のいゝ青空で、小吉は早朝から御城へ出て行った。
 紅井さんに逢って、実は秩父屋がこう/\だ、わたくしはそなた様には誠に申訳もござりませんとそのまゝをいったら、紅井さんは頬をぴく/\させて
「そうですか。秩父屋は、もう貫札も下《お》り御用|仰《おゝ》せもあったからこゝ迄来ては真逆お取消はあるまいと思っているのですね」
 といった。眼が吊上っていた。
 小吉は瀬山さんにも逢って詫を云い、阿茶の局にも逢って詫をいった。
 局は静かな声で
「そなたの気性は彦四郎どのからようきいて悉く知っている。もう二度とあのような商人《あきゆうど》を対手の働きはなさらぬがいゝぞ。わたしは今日もなお麟太郎には目をつけている。機会《おり》を見ている。そなたは、間違ってもあの子の行末に迷惑をかけるような行跡をなさらぬがよろしゅうござりましょうぞ」
 と、こゝは少しきつい声でいった。
「はあ」
「学問は致させて居りまするな」
「はい」
「もう世の中は流れるように変っている。御城の奥深くいるわたくしにも、それが聞こえますぞよ。そなたも心がけ、また麟太郎には篤々《とく/\》心掛けさせなくてはなりませぬぞ」
「はい」
「彦四郎どののお子精一郎どのの噂は、もう御奥深い辺りに迄聞えて居ります。剣術ばかりではない、近頃は阿蘭陀《おらんだ》学もなさるとか」
「精一郎が阿蘭陀学?」
「知らなんだか」
 そう云われて小吉は汗をかいて引退った。
 屋敷へ戻ってお信の顔を見て先ず第一に云った。
「おい男谷の精一郎が阿蘭陀学をはじめたとよ」
「さようで御座いますか」
「近くにいてこっちは知らなかったが、阿茶の局どのから伺った」
「精一郎どのなら、そうありそうな事でございます」
「阿蘭陀学なあ? おれも一度精一郎に訊いて見るわ」
 次の日、道具市へ行って大きな座蒲団へ坐っていると、表口にちらッと秩父屋夫婦の姿が見えた。
「ふゝン、態あ見やがれ」
 内心そう思って小吉はわざとそっぽを向いていた。
 世話焼の栄助が側へ来た。
「是非お目にかゝりたいと、手を合せて拝んでますからお逢いになっておやりなさいましよ」
 低い声でいう。
「逢わねえ、いつ迄まご/\してれあ斬っ払うといってやれ」
 秩父屋夫婦は一度姿を消したが、ものの半刻もたってまた市へやって来た。
 元来気のいゝ世話焼がほんとに気の毒がって
「玄斎先生のところへ行って詫を入れていたゞこうとしたが駄目だったといって泣いてますよ。可哀そうですからさあ。勝様、逢っておやんなさいましよ」
 と自分事のようにして頼む。
「嫌やだ。真っ平だ」
「御立腹は御尤もですけどね。通町《とおりまち》の秩父屋と云えば、先ず知られた商人《あきんど》です。それがあゝして」
「天へ唾を吐けあ、おのれが面《つら》へ引っかゝる。それが理法というものだ。そう云って追いけえせ」
「困りましたねえ」
「世話焼さん、おれあね。無法者は許すが狡《ずる》い奴は許さねえが性分だ。狡いが一番嫌えなんだよ」
「へえ、へえ、御尤もです」
「秩父屋にそういってやれ」
 暫く経ったがやっぱり帰らない。とう/\市場の往来の地べたへ、夫婦揃って坐込んで終った。小吉はこっちからこれを見て
「ちぇッ見っともねえ」
 と舌打をして
「知らない人が見れば、あんな商人《あきんど》を対手におれが無法をしてでもいるようで気まりが悪い。おい、世話焼さん、仕方がねえ、こっちへ連れて来てくれ」
「へえ」
 間もなく夫婦が小吉の前の一段低い板敷へきっちり膝を揃えて坐った。
「勝の殿様、誠に申訳ない事を仕りました」
 三九郎が、おろ/\声でそういったが、もとより、作り声だろう。小吉は只まじ/\と二人を見ているだけである。
「わたくし共のとんだ考え違いでござりました。この上の御仰せつけが無くともかねて申上げました御礼の金子は差出しますでございます故、誠に厚かましゅうはござりますが何分とも重ねてのお取做しを願わしゅう存じます」
 小吉はこの時一寸小首をかしげた。その様子を秩父屋は目ざとくも見て
「勝の殿様、このまゝでは秩父屋は大戸を下ろし、わたくし共夫婦は首をくゝらなくてはなりませぬ」
 哀れッぽい声であった。小吉はにやっとした。
「それもいゝだろう。が堅く断って置くが首を吊るなら本所《ところ》界隈は真っ平だよ。くれ/″\も土地《ところ》の外《そと》でやってくれろよ。変死があると町内の入用が累《かさ》んで困ると、みんな歎くからなあ」
 内儀が、甲高い声で
「わッ」
 と泣伏した。泣き乍ら
「お憎しみは御尤もでござります。でも、そ、それは、あ、あ、余りでござります勝の殿様」
 おろ/\といった。
 小吉はくす/\笑った。
「お前らに、殿様と云われたは今日がはじめてだが、おれあね、本所者《ところもん》だよ、両国の掛小屋芝居は|のべつ《ヽヽヽ》に見ている。お前ら、下手な芝居をせず、はっきりと云うがいゝじゃあねえか。え、末姫様御用達の貫札は取上げられまして、仰せつけのお品は戻されました。そうよなあ、七十両の仰せつけならそれが悉く手持になって先ず正味四十両は損をしたろう」
「えーっ?」
 と三九郎はからだを反《そ》らしてびっくりして
「どう、どうしてそれがおわかり遊ばしました」
 といった。
「遊ばしましたにもまさねえにもそう行くのが当たり前だ。行かなかったらその方が不思議だ」
「へ、へえ、へえ、このまゝでは本当に首をくゝらなくてはなりませぬ。勝の殿様、ど、どうぞお助け下さいまし」
 小吉は
「はっ/\はゝ、面白いねえ。さ、おゝ、秩父屋商売の邪魔になる。それで云いたいは、いったろう。もう帰れ、帰るんだよ」
 そのまゝ、くるっと横を向いて、そこに積んである刀を、すっ、すっと抜いては見ている。
「世話焼さん、これはいけない。ほら、こゝへ来てちょいと御覧な、こゝに、こう瑕《きず》がある。お前さんらには見えねえかな、地肌の底にかくれているからねえ。一合すると、こゝから、ぽきりと折れるんだ。刀はねえ、侍の一命を托する表道具だろう、こんなものを知らずにさしているは危ない」
「はい」
「へし折って屑の方へ入れる事だ。利鈍は別だが、瑕物はいけないよ」
「はい。承知しました」
 世話焼さんは、若い男を手招きして、何にやら符牒《ふちよう》をいって、その刀を渡してやった。
「ほい、これもいけない」
 と小吉は、にや/\して
「伊賀守|金道《かねみち》に相違はないが、大切な物打《ものうち》のところに瑕がある。こんな刀で斬合ったら伊賀の鍵屋ヶ辻の荒木又右衛門と同じに一合でぽきりだよ。あれも金道だったとさ」
「はい」
「如何にも贅沢ないゝ拵えだが、こんな中身《なかみ》の刀をさして威張っていたなんぞは世の中には困った侍が多いね。屑におし」
「はい」
 堪りかねて、秩父屋が
「あのう——」
 と声をかけたが、小吉はやっぱり見向きもしない。
 ものの半刻もそうしていた。内儀が三九郎の袖をひいた。そのふくれッ面が市へ来ているみんなにもわかった。
 それでも
「改めまして」
 と三九郎は言葉を残してやっと帰った。
 その晩、市場を帰りかけようとした時に篠田玄斎がやって来て、実は秩父屋夫婦が斯う/\いう次第で、勝様にお詫をして、今度は悉く前金で差上げるから、も一度、貫札がいたゞけるようにして貰いたいと、たった今迄泣いてかき口説かれてとんと困りましたという。
「断ったろうね」
「きっぱりと断った。勝様は御旗本だ。そう云ったのならもう曲げないと」
「しかし御城にもいろ/\慾深が多いねえ。引受け事も早かったが、礼金が来ないと、忽ちにしてお取消だ。はっ/\、偉いものだ。そういう人が御年寄だの師匠番だのとうよ/\しているのだから天日為めに昏《くら》しというはこういう事かねえ」
「御時世ですよ。秩父屋はちと甘く見て失敗《しくじ》ったな。それについても、あなたに飛んだ御迷惑をおかけ致して、何んとも申訳ない」
「いやあ、それあいゝが、秩父屋も四十両も損をしたのでは、ちとお灸が強すぎたねえ」
「だが代々の大店《おゝだな》でもあり、あの通りに狡い男です。何んとかやりましょうよ」
 玄斎とは途で別れた。小吉は松五郎の家へ寄るつもりだ。どうしているか村田長吉の様子を見たかったのだ。
 が、竪川に沿ってずうーっと花町まで来る途中、植村五郎八という二千俵取の旗本の下屋敷の四つ角まで来たら、俄かに遠くで半鐘の音が耳に入った。
「おや、火事だね」
 ぐるりとからだを廻して四辺を見たら、ぼんやりと火の手があがっているのはどうやら日本橋の方らしい。
「川向の火事という。それでも松五郎らも出《で》につくだろう。邪魔をするもいけない。帰ろう」
 帰る時に、屋敷の角でぴったりと麟太郎の道場戻りとぶっつかった。
「どうだ、島田虎之助というに、稽古をつけて貰ったか」
「はい。先生が、島田に島田にと申しつけられましてわたしはまるで島田先生のお弟子のようです」
「痛いか」
「痛うございます。時々、くら/\と眼迷いがする程にぶたれます」
「そういう時精一郎は何にかいうか」
「思わず痛いッと叫びますとにこ/\笑っていられます」
「東間も余程打たれるか」
「はあ、東間さんは弱いなあ、今日も一度気絶をしましたよ」
「ほう」
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