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父子鷹16

时间: 2020-09-27    进入日语论坛
核心提示:羅紗羽織 小吉は、嫌やなところで兄上に逢ったものだと思ったが、咄嗟のことでどうも出来ない。立停って鄭重に礼をした。 彦四
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 羅紗羽織
 
 小吉は、嫌やなところで兄上に逢ったものだと思ったが、咄嗟のことでどうも出来ない。立停って鄭重に礼をした。
 彦四郎はいつものように深く眉を寄せ、殊に鼻から頬へかけての深い皺が、彫《きざ》んだようにくっきりして、息を詰めて小吉を睨みながら
「こら、小吉、不埒千万、もういゝ加減にせぬか」
 と出しぬけに怒鳴りつけた。
「は?」
「みんな聞いた。山之宿の仮宅女郎屋の喧嘩はまだしも、切見世などというに出入して、世にも不浄な女共の生血を吸っているとな」
「飛んでもないこと——」
「まだ聞いた。古道具市に入りびたり、侍を笠に小商人共の利鞘をそぎ、その上狐ばくちとやらの用心棒もするそうだ。世に爪はじきの無頼者《やくざもの》でも、お前がように子供が物心つく頃には、自然に正道へ戻るという。それに何んだ、お前は」
「違います兄上」
「何にが違う」
「小普請ながら小吉も旗本、切見世の女どもの血を吸うの、小商人の利鞘をそぐのと聞捨てならぬお言葉です。如何にも切見世には悪徒共を取鎮めに行った、道具市には刀の利鈍を鑑定《めきき》に参る。貧乏御家人のくらしの足し前をしているので悪い事だとは思って居りません」
「何? 尻から剥げるような嘘をつくな。それ程くらしが困るならその羽織は何んだ、羅紗の羽織など贅沢至極だ」
 精一郎は、中へ割って入るようにして
「御父上、こゝは往来、人通りがございます。何れまた改めての事になされましては如何でしょう」
「いや、こ奴、どれ程われらに恥をかゝせるか程が知れぬ。わしは昨日も御城で同役から、御舎弟は本所深川では随一のお顔だそうでなどと云われた」
「しかし、叔父上にはまた叔父上のお立場もございます事です」
 そういう精一郎を押しのけて、彦四郎はまた怒鳴りつけた。
「羅紗の羽織を着ながら、貧乏ぐらしなどとわざとわしに当てつけがましく、何んだ」
「御兄上」
 と小吉は、精一郎の方へは、心配しなくともいゝよというようなものを見せて
「わたくしは小高故、ふだんの身装《みなり》が悪いと何にかと融通がつきません、余儀なく着歩いているのです」
「黙れッ! おれに向って口答をするのか。親類の中に誰一人おれが云う事を返す者はないに、お前一人が刃向うは不埒な奴だ。今一言云って見ろ、手は見せぬぞ」
 彦四郎は両脚を少し開いて、刀の|※[#「木+覇」]《つか》へ手をかけた。
 小吉は黙って彦四郎を見ている。少々逢わぬ間に、ずいぶん老けられたなあ。お目のふちに隈《くま》が顕れ、お顔全体に、やゝむくみの気味もある、痛ましい。そう思った。
「お言葉を返しましたはわたくしが悪うございました。お詫いたします」
 彦四郎は忽ちたった今の物凄い剣幕ががた/\と崩れるようにすぐに刀の※[#「木+覇」]から手を放して、まるで別人になったような恰好で、少し傍へ寄った。
「お前が事ばかりではないぞ。あの麟太郎、お前がような父の傍においては、後々が案じられる。おれは、あれを手近く置く事は出来なかったが、恥しいと思っている。しかし精一郎なら大丈夫だ。今日からでも精一郎の道場へ置け」
「は?」
「くどくも云うが断じてお前の側へ置いてはならんぞ。いゝか。麟太郎は男谷道場に置くのだ。お前は、人の世の恥をかきつゞけて死ぬだろうが、麟太郎にその飛ばっちりをくわせてはならぬ」
「は」
 彦四郎はそう云うと、急に精一郎へ向って
「時刻におくれては失礼。さ、参る」
 精一郎はにこっとして低い声で
「叔父上、麟太郎はもうお手許をはなされても心配はありませんよ」
 云い残すと、彦四郎の後について行って終った。
 小吉はそこに立って、二人のうしろ姿を見送っていた。彦四郎の肩は落ちて、何にかしら、気力もひどく衰えたように感じられる。
 小吉はそのまゝ自分の屋敷へ引返して来た。
「お信」
 といって、まじ/\と顔を見乍ら、今の兄や精一郎の話をした。
「また子が生れると、お前も何にやかと苦労だ。麟太郎は兄が云うを幸えに精一郎がところへ頼むがいゝかも知れぬなあ」
「わたくしはまた子が生れて苦労故にお頼みするなどという気持は少しもござりませぬ。麟太郎の為めに、いゝ事なればどのような事でも辛抱を致します」
「精一郎はおれがように剣術の外に取りどころのねえ男とは違い、いゝ」
「麟太郎が立戻りましたなら訊いて見る事に致しましょう。この屋敷も、もろ/\の不浄がやゝともすればあの子の耳に入り勝ちでござります。昨夜も、お父上は今度は岡野の事では余っ程困っていらっしゃるようだ、あれは勝先生の敗けだとみな/\申しているなどとわたくしに話して居りました」
「そうか」
 お信はうつ向いた顔を上げて、急に
「あなた、精一郎どのへお頼み申しましょう」
 といった。
 道具市にいた小吉へ、岡野の本家岡野出羽守のところから、わざ/\駕で鄭重な口上で迎えに来たのは、やっぱりその日の夕方であった。いゝ塩梅に、寒さが少し薄らいで来ていた。
 麹町三軒家の出羽守の屋敷の広間へ通されて流石の小吉もびっくりした。出羽守をはじめ孫一郎の支配頭の遠山安芸守もいるし、丈助事件を持て余して病気引籠中の本多日向守もいて、みんな弱り切った顔をしていた。
 小吉は出羽守には三、四度逢っている。三千石の大身に似ず、よくさばけた、丸顔な肥った色の白い人だ。
「勝さん、どうも弱った」
「は。丈助がまた何にかやりましたか」
「いやもう、やりましたどころではない、今度は女房が御老中へ御駕訴をした」
「はあ、はっ/\/\、なか/\しつこくやりますな」
「笑い事ではないんだ。この度の一件で大川丈助が宅番となったので住居に残った家内一同が三度の食事も頂戴出来ない。その為めに女房の乳が出なくなった。断乳の御届けを上げてな」
「ふーん」
「三人の子供を宅番になっている間中、孫一郎方に於て引取り養育して貰いたいとの嘆願だ。こう次から次と執念深くやられては堪らぬというて、御張衆も逃げて終うという始末でな」
「子供までからませて来た新手《しんて》には驚きますねえ」
「こんな事でだん/\深間に入って来ると所詮は評定所へ持出す事になるだろう。そうなると嫌やでも千五百石に疵がつく。それで安芸守殿も日向守殿も御配慮でな」
「元々孫一郎殿が酒色にうつゝを抜かし、わたくしの推挙いたした用人を遠ざけるような仕儀からこういう事になったので云わば自業自得と申すものでございましょう」
「そうおのしに投出されては、話に実も蓋も無くなるが、おのしも隠居の江雪とは互に気に入りの仲ときいた。こゝで何にか一ついゝ考えを聞かせてくれぬか」
 小吉はにやっとした。
「それはあります」
「あるか」
「は。しかしこの事件は元々金から生じた事故、解決には金が要りますが、あなた様、この金子を孫一郎どのへおつかわし下さいますか」
「金子か?」
 出羽守も安芸守、日向守と顔を見合せて眉をしかめた。金子の事となって俄かに難色である。
 小吉は肩をゆすって笑った。
「大川丈助は、無智慧のわたくしには荷の勝った大敵で、金無しで掛合は出来ませぬが——」
「さあ、それは」
 と出羽守は如何にも閉口の様子だ。
「こゝ迄来て終ってはとてもあの男と握り拳《こぶし》での話はなりません。折角お召をいたゞきましたが、わたくしはこれで失礼を仕ります」
 小吉は少し座を退って立ちかけた。
「いや、勝さん、待ってくれ。金を出さんとは云わぬが」
「ではお出し下さいますか」
 出羽守はしかめッ面をして、如何にも忌々しいというようにちょっと横を向き乍ら
「出そう」
 といった。
「然様でございますか。そう御決心がおつきになれば、わたくしには、また考えもあります。唯、こゝで所望いたしたいは、わたくしに一切をお任せ下さる上は、如何様の仕儀となるも口出しはしないと、御親類総代として一札を頂戴仕りたい」
「うむ」
 出羽守の渋い顔を見て、日向守が
「勝さん、おのしは本所深川で知られている義の篤い人だ。出羽守殿も見す/\知れた分家の放蕩の尻拭いは、誠に武家として心よろしくないは当然、唯、家門の恥辱を外々へ晒したくないから、こんな事をやっているのだ、この辺の事を確と斟酌していたゞきたいが」
 と口を入れた。
「それはどういう事ですか、やっぱり金は出したくないというのでございますか。何、出したくないというなら一文も出さなくともよろしい。立替金をすっかり払って済ませるか、一文も出さずに納めるか。そのお気持を予め伺って置きたいから、一切御委任の一札をいたゞきたいと申すのです」
「いや、これはわたしが悪かった」
 と日向守は頭を下げて
「余計な差出口をして終うた。たゞ、そう思うただけで他意はないのだから、忘れてくれ」
 といった。
「皆さまにその御決心が早くつけば、丈助風情にこんなに恥もかゝされず、また宅番などと余計な費《ついえ》をしなくもよかった。しかし出羽守様、御安心なさいまし。勝小吉は小高ものでございますから、三百三十九両などときいただけでも目を廻すのです。御損をかけぬようにやりましょう」
「頼む。実にどうもあの分家は困ったものでなあ」
 考えるとそれも尤もな話である。小吉はそう思いながらまた駕で送られた。
 しかし駕の中で頬をふくらましてそれをぴしゃ/\叩き乍ら
「三百両や四百両、渋面を作る事あねえじゃあないか。三千石もとんと吝ン坊だわ」
 と呟いた。
 いつもと同じように東間陳助をはじめ宅番の御張衆がいて、行灯がぽか/\している座敷の奥の方の壁に倚りかかっている大川丈助のところへ、小吉がずか/\と入って行った。
 丈助はぎょっとした様子で、坐り直して、腰を浮かせ、いつでも逃げられるような恰好をして、目の色を変えている。
「丈助、なか/\やるじゃあねえか。子供を使っての大芝居には、みんな敗けたわ」
 と小吉は、丈助へ顔をくっつけるようにしてどかっと胡坐をかいた。ふり向いて
「おい、東間、刀はそっちへ持って行け。丈助が怖がっている」
「は」
 東間がすぐに刀を受取って元のところへ引返した。何あに、いざという時に、ひょいとこっちへ投げて寄こせば、手に取るのを見るか見ない中に丈助の首なんか一たまりもないのだが、先ず気休めのためだ。東間も御張衆も、ゆうべは斬るといっていながら、そのまゝさっさと帰った小吉が、またいつ何にを云い出すかわからないので、多少はら/\している。
「ところで丈助、今夜はちいッと相談だがな」
「な、な、何んでございますか」
「おめえね、この屋敷への立替金をけえして貰えやそれで文句はねえのだろうね——、文句があるならあるで、はっきり云って貰いてえがな」
「金さえ返して貰えば文句はない、が、こうして宅番になって以来、女房子の嘆き、不都合|一方《ひとかた》ではないのだから、元金だけでは引込まれないですね」
「はっ/\/\。無理をいうよ。この屋敷の貧窮がどんな物か、誰よりもお前がよっく知っている。どうだ元金だけで勘弁しろ」
「いやだ」
「じゃあどうしろというんだ」
「詫状を頂戴しましょう。勝小吉という土地《ところ》に顔の利く御旗本が、この大川丈助が付懸けをしたといった。元金をかえした上で、誠に無重宝を申したと一札書いていただきましょう」
「うーむ」
「この上、往来で出逢った時は、きっとそちらから挨拶をなさいまし。この事も書添えて貰わなくては嫌やだ」
「はっ/\/\。丈助、お前は、ほんにやるねえ。いゝともよ、云う通りの証文を書こう。もうお前には頭《あたま》が上がらねえ。考げえて見れあ事件の発端はおれだからねえ」
「その通り」
「正に負けた——だが丈助、も一つ相談があるのだ」
 
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