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父子鷹19

时间: 2020-09-27    进入日语论坛
核心提示:木曽路 冬枯れの中山道を上って来る。 途中で、霜柱のぞく/\立った谿合《たにあい》の村を通る事があったり、峠路で吹飛ばさ
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 木曽路
 
 冬枯れの中山道を上って来る。
 途中で、霜柱のぞく/\立った谿合《たにあい》の村を通る事があったり、峠路で吹飛ばされるようなひどい風に苦しんだりしている中に、江戸をはなれて十日目に木曽の宮《みや》の越《こし》と福島の間で、これはまたいやッという程のひどい目に逢った。
 宮の越を出る時は晴れていた。それが村を一つ過ぎて小野村の大原という小さな川の橋へかゝる頃に、まるで待伏せをしていたように、俄かにお天気模様が変って、黒雲が空を駈け廻って、ひどい大粒な霰が凄い勢で叩きつけて来た。
 みんな、少し登り坂になっている街道を息をのんで夢中で駈けたが、これが途中でまた土砂降りの雨に変ってやっとの思いで福島へのめり込んだ時は、みんな褌までびしょ/\になっていた。
 一里廿八丁の間、よくもまあ根《こん》よく一瞬も休まずに降りつゞいたものである。
 甲子屋という旅宿へ着いて、上り端へ崩れるようにどっかりと腰を落して小吉は流石に大きく息をした。
「おい、熱い素湯《さゆ》を一杯呉れ」
 旅宿の亭主へそういって
「東間、おれは脚気がある。二、三日前から少し妙だったが、心配をさせまいと我慢をした。この雨ではひょっとするとやられたかも知れない」
「そうですか。すぐお休みなさるように手配をいたします。お顔のお色が少しお悪い」
 旅宿の者が素湯を持って来る。それをのんでいる間に、みんなで草鞋を解いた。五助と長太はまるで小吉の脚の辺りを嘗めるようにして
「大丈夫でございますか。え、大丈夫で」
 ぶつ/\ぶつ/\呟き乍ら顔を見上げた。
 座敷へ落着いて、夜具へ入ったら、とにかく一と先ず胸の詰まるようだった気持も鎮まったし、からだも暖まって来た。
「これから熱い湯《ゆう》へへえって、ぐっすり眠れば、明日はもう元気になるだろう。お前ら、今夜は酒でもお飲み」
「はあ」
 みんなうれしそうな顔をした。
「飲んでも喧嘩はならないよ。堀田、いゝかえ。間違って暴れでもしたらすぐに斬っ払うよ。それから長太、お前も昔から余り酒はよくない男だ、同じだよ」
 小吉はねていたのを起きて、階下の風呂へ行って来て、夜具へ坐ると、毎夜旅宿へ着けば、欠かさずやるように刀の手入れをはじめた。国重を抜き放って、打粉をしながら
「道中、雨に打たれるは刀には禁物だねえ。東間も堀田も御覧な、すっかり苦しそうに冷汗をかいている」
 これがすんで御飯をたべたら、二度程一寸軽い吐き気がしたが、小吉は何んにも云わなかった。
 五助と長太が座敷の廊下へ出て行って額をよせて、ひそ/\と相談をしている。東間も出て来た。
 空は星である。
「いかに山ン中だといっても、天下の御|関《ばん》所。七千五百石山村甚兵衛様の御陣屋のあるところだ。医者位はいるだろう」
 という長太へ
「先生が医者を呼べと一とこともおっしゃらねえに、そんな事をして、出すぎやがると叱られやしねえか」
 と五助はいっそう顔をくっつけて
「だがこの福島が江戸と京の丁度真ん中だという。これからの道をどうするんだい。心配《しんぺえ》だあな」
 とさゝやいた。
「そうだ。おれもそれを考えるんだが、どうだ今夜一と晩、じっと御様子を見ていてな、明朝少しでも変った事があったら、発足を取りやめて医者を呼ぼうではないか」
 東間がそういう意見なので、五助、長太はとにかくそれに従う事になった。
 流石に木曽だ。夜更けてしん/\と身に沁む寒さは堪らない。興禅寺という古いお寺の錆のある鐘の音が、江戸とはまた違って、ぐーんと間をおいて杜切れるように静かに八つ聞こえた。
 眠っていた小吉がふと目をさました。
「五助、何んで起きている」
 行灯の横に、掛夜具をかぶって、五助が、じっと小吉の方を見詰めているのである。
「へえ」
「へえじゃあないよ」
 といってから小吉は
「有難う。が、心配はいらない。明日がある、寝るがいゝ」
 この僅かな問答の間に寝ていた東間も堀田も襖一枚の隣にいる長太もむく/\と首を持ち上げて終った。
「これからまだ七十里の道だ。無理をしてはいけない」
「はい」
「寝るがいゝ、おれもこれで一通りは鍛《きた》えてあるからだだ、生《なま》じいな事で倒れはしないよ」
「はい」
 それから一刻半もして、また小吉が眼をさました。今度は行灯のところに長太がいた。もう夜明けに間もない。小吉はわざと気がつかぬふりで眼を閉じた。
 明けの六つが鳴ると、小吉は元気で起きた。少し目まいがして、足が吊ったが
「お前らの介抱で、ゆんべはぐっすり眠ったせいか、さっぱりとしたわ」
 わざと平気な顔で朝の膳についた。
 用意がすんで、出発も小吉が先きに立った。土間の上り端《はな》で、五助が草鞋を結んでくれて、小吉はそこへ立って、とん/\と大地を踏んだが、途端に思わず、よろッとした。
「あッ!」
 五助が抱きおさえた。
 小吉は苦笑してふり払って
「馬鹿奴」
 それっきり、つッと土間を出て行った。
 外で空を仰いで目ぶしそうな目付をしながら
「今日はお天気は大丈夫だろう」
 大声で笑った。
 東間がゆうべの中にみんなへ云いつけて小吉を包むようにしてゆっくり歩く。
「五助は、滅法界《めつぽうけえ》な強請屋《ゆすりや》でね、おれが父上も一度強請られかけたが、改心したとはいうもののいつ地金を出さないとも限らないよ。みんな気をおつけ」
「人間は誰でも一生涯に大なり小なり必ず道に踏み迷う事があります。わたしのあの頃が丁度それですよ。今はもう真底《しんそこ》からの観音堂のいゝ堂守、昼の間はお御《み》堂へ集って来る子供達の遊び仲間で、わたしが遊んでやらぬとみんな泣きべそをかきますよ。まるで仏様でございますな」
「ほう、坊さんみたいな事をしゃべれるようになったねえ。お前がそんなお説教をするとは偉くなったもんだ」
 と小吉はからかった。
 駒ヶ嶽がこの木曽谷と信州とに跨がって右手から掩いかぶさるように迫っている。街道を横切って、綺麗な小さな流れが幾つもあって、やがて木曽の桟橋《かけはし》の嶮岨にかゝる。
 たった二里半にひどく手間どって、上ゲ松へ着いたらもうお昼であった。尾州家陣屋の屋根に真っすぐに陽がさして、茂った森から森へ鴉が群れて飛んでいた。
 小吉は途中でやっぱり三度ばかり少し足が吊って立停ったし、吐気もした。ひどく気持は悪いが成るべくみんなに気づかれないようにして、一生懸命、冗談を云い/\笑って歩いて来た。
 上ゲ松の笹屋という中食宿の土間で昼食の時に、五助はとう/\泣き出して終った。
「何んだ五助」
 と小吉はちらっと見て
「江戸の女房が恋しくなったか」
「か、か、勝様、あなた様は、ど、ど、どうして、わたくし共へ、物をお隠しなされますのでございましょうか」
「ほう、何を隠したえ。おれは、物を隠して置く事の出来ねえ奴だ」
「そ、それが、それが嘘でございますよ。勝様はだいぶおからだがお悪いのです。それを隠している——か、か、勝様、こ、こ、これからすぐ江戸へ引返しましょう」
「何にをいう」
 と小吉は額を叩いて
「もう道は半分の上も来ている。向うへ行くも江戸へ帰るも同じだ」
「それは同じでございましょうが、いゝえ、他国でお悪くなられたりしては大変でございます。第一|御《ご》新造《しん》さんやお坊ちゃまに申訳がございません。帰りましょう。しかも御自分の事で大阪へいらっしゃるのではありません。他人の事です」
 五助は泣いて土まみれの手でこするので、駄々ッ子のような汚ない顔になった。
「何んてえ顔をしている」
 と小吉は笑いながら
「他人事《ひとごと》で出て行くのだから滅多な事では帰られないのだ。五助、おれはな、途中でぶっ倒れたら、戸板で運ばれてでも大阪へ行くよ」
「そ、そんな事をおっしゃって、か、か、勝様」
「まあいゝ、おのれのからだはおのれが一番わかるものだ。おれはまだ/\倒れはしない。安心おしな」
 五助は、東間や長太の方を怖い目をして睨んだ。
「東間さんも何んです、長太兄イも何んだ。何にをあっけらかんとしているのだ。さ、勝様を引っ担いでも、江戸へかえりましょう」
「と云って五助お前」
 と東間がいうと、これへ喰いつくような恰好をして
「こ、こ、この方はね、わたしらにはどうしても無くてはならないお方なんですよ。他人事《ひとごと》に無理をおさせ申して、大阪くんだりへ出て行って、もしもの事でもあったら、江戸の人達へ何んといってお詫をしますえ。本所深川《ところ》の人達は元よりのこと、江戸中の剣術遣いの先生方が、黙って許しては置きませんよ。東間さん、あなた勝様を苦しませて、それで、のそ/\とまた江戸へ帰って行く気でいるのでございますか。わたしが実は斯う斯ういう始末だったと話したら、あなたがいくら強くても、その日の中に殺されてしまいますよ」
 ひどい早口でまくし立てた。
「待て」
 と小吉が二人の間へ入って
「よし、お前らそう云うなら、難所はおれも駕にしよう。な、五助、そうしたらいゝだろう」
「駕?」
 考えて
「わたしは、それでも嫌やだ」
 と顎を突出して、つーんとそっぽを向いた。
「五助、お前、とんと強情だね。云う通り、おれは戸板へのっても大阪へ行く覚悟だよ。侍がこうと引受けて出て来た仕事だ。途中から引きけえす訳には行かないのだ」
「ですけれどね、そのお引受なさったお対手にもよりけりです。道楽の果てが、御父子共、あんな次第はわたくしも知って居ります。殊に唯今の殿様などは米屋の娘を——」
「こらッ」
 小吉は怒鳴りつけると共に、ぱっと平手が五助の頬に鳴った。
「岡野孫一郎は御旗本だぞ、おのらの口端《くちはし》を入れる方じゃねえ」
「へ、へえ、へえ、へえ」
 五助は土間へくた/\と坐って泣いて終った。
 五助は涙を拳で払いながらその手を土間へつくと
「申訳ない事を申しました」
 と平伏した。小吉は
「いやあ」
 何んだか自分も俄かに涙が出て来る。
「五助、勘弁しろよ」
 それっきりでじっとして
「大川丈助の悪智慧が勝つか、ところの者が勝つか、やって見ましょうという世話焼さんらに迷惑をかけまいと今は本所《ところ》にもいず、落着いて観音堂にくらしているのを有無を云わせず引っ張って来たお前だ、それをぶったは重々おれが悪かった」
「か、か、勝様、飛んでもない、そんな事を仰せられては、いっそ悲しくなります。身の程知らずお言葉にさからったりしてわたしが悪うございます。どうぞお許し下さい」
 それからほんの僅か経って、とにかく其処を発足した。小吉はその時から妙にこう自分のうしろで、本所深川の人達が、負けるな負けるなと叫んでいるような気がした。妙な事だと思った。
「が、おれはもう負けているのだ」
「は?」
 思わずいったひとり言を東間が小耳に挟んで顔を向けた。
「何んでもない」
「そうですか——しかしまあ大川丈助という野郎は飛んだ苦労をかけますね」
「お蔭で上方見物だ。楽しみではないか。土地《ところ》の人達が足を踏ん張って力んでいるに、こんな心掛けではまことにすまないがねえ」
「はあ」
 小吉は急に気を紛らすように
「おや、滝が見えるね」
 といった。東間もうなずいて
「碑《いし》がたっています。小野滝というようです」
「この辺はもう小野というところか」
「おゝ」
 と急にまた東間は指さして
「先生、あすこの崖下に山茶花の大きな木がある。薄紅色の美しい花です」
 といった。小吉も見た。如何にも見事な山茶花であった。一ぱいに花が咲いて、その右側に滝が銀色に光って落ちていた。
 この一行が大阪の八軒屋へ着いた頃は、幸いな事に一同が寿命を縮めて心配した小吉のからだ具合の悪かったのもいつの間にかよくなったようで、とう/\一度も医者にかゝらず、木曽路六十九次を過ぎて来て終った。
 着いた日が雨、次の日も雨。みんな旅宿で骨休めをしたが、この間に縫箔屋の長太が、小吉に内緒で、そっと台所へ行っては、断わるのもきかず、茶碗で冷酒をのんで、おまけに嫌やがる女中をからかったりした。
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