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父子鷹20

时间: 2020-09-27    进入日语论坛
核心提示:御願塚 晩飯に小吉は笑い顔で「おい、長太、あしたはいよ/\本陣へお乗込みだ。伊丹も近し、こゝら辺は何処へ行っても酒がうま
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 御願塚
 
 晩飯に小吉は笑い顔で
「おい、長太、あしたはいよ/\本陣へお乗込みだ。伊丹も近し、こゝら辺は何処へ行っても酒がうまいというから、事が終ったらいくらでも飲ませてやる。おれがいゝという迄は確《しか》と慎しめ」
 といった。
「へ?」
 長太は顔色を変えて目を丸くした。
「何にを驚く、おれはみんな知っている。いゝか、おれらが行く岡野が知行の村方《むらかた》御願塚というは、大阪からたった二里半だ。貸しましょう、はい借りましょうというんじゃないのだよ。嫌やがるのを知っていながら借りに行く。しかも対手が、繁華な場所に近いから自然悪ずれのしている慾の深え百姓共だ。並々の事じゃあねえんだよ」
「へ、へえ」
「おれがいさゝか肚を据えてかゝる仕事だ。お前、そんな心掛けではどうにもいけない。いゝか、今からきっと慎しめよ」
「へえ」
 流石に恐縮の長太を見て、みんな笑った。
「しかしお前、おれが前《めえ》をごま化しても飲む程そんなに酒が好きとは知らなかったよ」
「へえ。相すみません」
「みんなまた江戸へかえるのだ。旅の恥のかきすてもいゝが人間が酒位のことで、詰らねえ襤褸《ぼろ》を出すは見っともねえぞ」
 長太はとう/\両手をついて終った。小吉は大きな眼を据えて一度ぐっと睨んだがそれっきりもう何にも云わない。
 次の日大阪へ出て、そこから御願塚の村方へやって行った。時々頬を刺すような風が流れて来たが、江戸と比べて気候がいゝのか、あちこちに椿の咲いているのがよく目についた。
 右も左も平らな畑地の真ん中に、広い道が通っていて、その真っ正面の森の中にこの村方五百石を支配する岡野の代官陣屋の黒い門と白壁をぬった屋敷が見えていた。
「あれですね」
 東間陳助が勇み立って指さすのを、小吉は叱る目つきで
「静かにしていろ——おい、五助、お前、飛んで行って勝様のお着きだと触れよ」
「へえ」
 五助が門を駈込んだと思うと、かねて知らせで仕度をして待っていたと見え、代官山田新右衛門が大きな丸髷を結った内儀と二人紋付姿ですぐに出て来て、腰をかゞめて門の前に立った。
 小吉はつか/\と出て行くと、対手は
「御苦労に存じ上げます」
 と夫妻共腰を折るようにひどく鄭重な礼をした。小吉は
「勝左衛門太郎七、御迷惑に参りやんした、宜しゅう」
 と声の調子を張って一礼した。
 代官の山田は到れり尽せりのもてなしをする。小吉の着いた時はもう風呂もわかしてあって、東間が堀田へ
「代官屋敷というのは上等の旅籠も同じだな」
 などと囁いた。堀田は
「わたしは田舎廻りで知っているが江戸の主筋から出向いたとなるともっともっといゝもてなしをしますよ」
「そうかな。だが、こっちがお辞儀をしても、向うはすぐに頭が下がらない、下がらないどころか、妙にこう反《そ》るような恰好をするな。あれは、ふだん威張っていて、逢う者には、みんなにお辞儀をされ、こっちで先きにする事がねえから、それが癖になっているのだな」
「そうですよ。代官は何処でもみんな物腰が似ている」
 夜の膳へ酒がついたが、小吉が嫌やな顔をして睨んだので、みんな一口のんだだけで、代官の頻りにもてなすのを辞退して早く床へ入って終った。
 大阪からほんの僅か離れたところだけれど、夜になると、まるで物音一つ聞こえない程静かになる。寝る前に東間が一寸代官陣屋の黒い門の外へ出て眺めたら、畑の向うに点々と灯が見えて、山里へ来ているような気持がした。
 次の朝、小吉は羽織袴で正座について代官と要談にかゝった。江戸の岡野家の様子、今度の大川丈助の付懸け一件、このまゝでは事が次第に大きくなって、主家へ疵がつくようになるというような話をして
「真実《まこと》はざっとこんな次第だ。おのしと、わたしがいろ/\話して見たところで何んにもならない、ともかく村方を呼出して貰いましょうか」
 とにこ/\にこ/\これ迄にない笑顔だったのが、最後のところで俄かに一寸怖い目つきをした。
 それに代官が、動悸《どき》っとしたが、出しぬけに
「勝様は剣術をなさいますか」
 といった。
「おゝ、おのしはとんとお目が鋭い。実はその外には何んの取得もない人間でね」
「はあ」
「だから出世が出来ない」
 と笑った。
 昼頃に村方のものが羽織袴で七人やって来た。みんなの前で、小吉は
「山田さん、詳しい事情は後であなたから話して貰うとして、とにかく主家興亡の入用金だ。何んとでもして貰わなくてはならぬ仕儀に詰っているのだ」
 といった。
 代官は村方を見廻した。一番先きに坐っているのは、表は朴訥だが内心は如何にも狡猾そうな五十すぎた男であった。小吉がちらりと見る。こ奴、どうも面《つら》が丈助に似ている、掻廻しゃあがるな、そう思った。案の定、ひどく鄭重に一礼してから少し嗄れた声で、ゆっくり/\
「申上げます。実はすでに七百五十八両の御用立を致して居ります。御承知の通り五百石の貧しい村方、これ以上は一文の仰せつけも御受け致し兼ねまする」
 という。
「待て、七百余両といったが間違いないか」
「はい。一々控がございます」
「おれは江戸で五百両足らずときいている。お前何にかの間違いではないか」
「お間違いはそちら様でございます」
「そうか。よし、いずれにしても主家の大事だぞ。よっく考えて改めて呼出す迄に確とした肚を定めて貰おう。詳しくは代官と打合せて引退れ——時にお前は」
 と小吉はその百姓を指さして
「何んというか」
「はい。茂左衛門と申します」
「そうか。よし」
 小吉は瞬きもせずに暫くじいーっとその顔を見詰めてからすっと立って、そのまゝ自分の居間に当てた座敷へ足早やに行って終った。
「おい、東間、堀田。少し村方を歩いて見よう。一緒に来い」
「は」
 次の間にいた二人がすぐに仕度をしてついて来た。
「岡野の殿様が五百両の用立金というから、そのつもりで来たら、七百五十八両もあるとよ。元元いゝ加減の屋敷だが、おれも閉口したよ。その上、村方の奴らも、度々の事だから、こっちを小馬鹿にしてかゝっていやがる。何にかあ奴らの驚くような事をして見せてやらなくては、話はうまく行かねえ様子だ。迂闊な事は出来ねえよ」
「はあ。それで如何になさいますか」
「まあ、ほったらかしで、ぶら/\と四、五日も村方の様子を見よう」
「そうですか」
「江戸もんは、気が短けえのでとかく物事を仕損ずるというからな。はっ/\」
 三人は村をあっちへ行ったり、こっちへ行ったりした。小吉は
「おい、まだ/\村方は出せるねえ」
「わたしも然様《そう》見ました。百姓達も内ふところは結構、あたゝかい」
 と堀田も然様云った。
「田舎廻りに馴れている儒者どのも、見たか。有難いね」
「先生、田舎へ行ってその村が貧乏かどうかという事を見るには、第一にその家その家の戸障子ですよ」
 堀田甚三郎の語るところによると、戸障子が破れっぱなしでこれが風にぱた/\していたりひどく煤ぼけたのは貧村、切張《きりばり》してあるのはその次。冬場《ふゆば》のかゝり端《ばな》にもう張替えてあるようなのは多少金があり、庄屋名主などが松の木などに手入をしているようなところは余裕《よゆう》の村だという。
「こゝは障子が殆ど戸毎に張替えてあります。先ず相当なものだ。五百両や六百両は大丈夫用立させられますよ。遣方《やりかた》によっては小千両召上げられましょう」
 堀田は得意になってそんな事をいったが、小吉は無言でうなずくだけだった。
 その夜、代官山田新右衛門を小吉は自分の座敷へよんだ。
「こうしているも退屈だから、江戸の剣術の話でもしようと思ってね」
「は、有難う存じます」
「それはそれとして、これ迄江戸からこゝへ出役の者は大抵どの位の入用になるね」
「そうですなあ」
 と代官は、頻りに羽織の紐をいじり乍ら、そんな事をきく小吉の気持を測ろうとしてか、盛んに眼ばたきをした。
「出役は大抵用人と供が一人位なものだろう」
「そうです。上下お二人で——」
 と息を切って
「先ず一日十八匁ずつかゝります」
「そうか。それは贅沢だ。みんな主家を思う心が少ないからそんな事をする」
 小吉はその夜中に、一旦寝たみんなを自分の座敷へ集めて、そっと耳打するように話した。
「こゝでは厳しく倹約をするのだ。その代り、金をやるから、そっと伊丹の町へ出て、村方の者に気づかれないよう極く内密に酒食をしろ。酔っ払って歌などうたってけえって来たりしやがったら、直ちにその場で斬っ払うぞ」
「わかりました」
 みんな一斉にうなずいて頭を下げた。
 次の日から小吉をはじめ、いろ/\肴が膳へついても食わない。一箸もつけずに綺麗にして、五助と長太が、代官の住んでいる方へ持って行った。
「こちらは若い者だ。御肴は代官殿のお年を召したおふくろ様へ差上げろと仰せで御座います。何分にも江戸の御主家も切迫の場合、明日よりは決して斯様《かよう》の御饗応はなされませぬようにとの事で」
 こんな口上である。
 それでも二、三度はやっぱり立派な肴をつけたが、小吉は断った。代官はそれをしなくなった。
 五助が代官所のものからきき出した話では今度は上下五人のお方で一日十匁ずつ、これ迄には無い事だといって代官はひどく喜んでいるとの事であった。
 あれっきり金の話はしない。毎日々々、村内をぶら/\してくらしている。
「先生、こんな事では埒があきませんな。何んとかしなくてはならんでしょう」
 東間が、そういった。
「お前、もう江戸へ帰りたくなったか」
「いや、そんな訳ではありませんがね」
「それならも少し黙っていろよ。村方の出方を見ているとな、こっちが金談を申出さないを幸いに、退屈をさせてこゝを追出す算段をしているようだ」
「金談をやい/\やったらどうでしょうか」
 小吉は考えて
「どっちにしても、も少し様子を見る。が全く退屈だなあ」
「一手|遣《つか》っていたゞきましょうか。わたしも近頃は稽古をしないので、からだの節々が痛くなって来ました」
「それにお前下ッ腹が少々ふくれたね。江戸へかえって精一郎におれが皮肉を云われるから、それでは遣うか——おゝ、そうだ、代官にいって、村方の者にも稽古を見せてやろう」
「これは面白い」
「木剣にしろ。木剣が折れる程に打合って、田舎ッぺえの胆を潰してやるか」
 この木剣稽古は物凄かった。小吉と東間と堀田が、小吉を軸にして三人が輪になって打合う。まるで木剣が渦を巻くようにくる/\舞って、時々、それが触れ合う響きが、遠くへ坐って見ている茂左衛門ら村方の者は元より、代官の山田新右衛門も、毛肌が立って慄え出した位であった。
 この稽古が終ると、一息ついて今度は小吉と東間の二人が相対した。稽古着も袴も代官からの借物で、全くの素面素小手。互にぴたりとつけている木剣の、小さくぴくッぴくッと動くのが、じいーっと呼吸を詰めてまるで生きているようである。
 東間が打込んだ。小吉はさっと飛ぶ。と同時に間髪を容れずに稲妻のように摺《すり》上げて斬込んで行った。
「やッ」
 気合と共に、危うく受けた東間の木剣が真ん中から裂けたように、二つに折れて先きの方が天空へ鳶が舞うように高く高く飛んで行って終った。
 東間が飛びすさって、そこへ坐って手をつく。小吉はから/\笑って代官を見て
「山田さん、すぐ折れるようなこんな木剣で稽古はいけないよ、怪我をするよ」
 といった。山田は元より、村方の者達も、みんなべっとりと額に脂汗をかいて、暫くは口を利けなかった。
 その夜、東間がさゝやいた。
「先生、薬は利いたでしょうね」
「さあ、どんなものか。丈助以来おれもむごく狡猾になったから、まだ/\手は考げえてあるよ」
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