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父子鷹23

时间: 2020-09-27    进入日语论坛
核心提示:白い椿 小吉は水行を終り、御紋服を着て肩を張って静かに本堂へ上って行った。堂には十三、四人も参詣人がいて何にやら頻りに祈
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 白い椿
 
 小吉は水行を終り、御紋服を着て肩を張って静かに本堂へ上って行った。堂には十三、四人も参詣人がいて何にやら頻りに祈っていたが、小吉の御紋服を見ると、みんなあわててこそ/\と尻込みして堂の外へ逃げ散って終った。
 小吉はずばりと本尊の正面へ坐って、拝んだ。流石に形が極って何んとなく威がある。堀田をはじめ代官や村方のもの達も、ずっとうしろからこれを見ていたが、時々、小さくからだを左右にふったり、頭を下げたり上げたりする様子が、みんなにはだん/\妙にこう不気味な妖気というようなものを感じさせて来る。
 小半刻余の祈りがつゞく。堂内はしーんとして水を打ったようだ。小吉は、ぱっとうしろへ飛びすさった。みんなぎょッとする。と同時にこっちへ向いて
「さ、拝《はい》が終った。帰る」
 じろりと一瞬に閃めくように目を配った。
 間もなく山を下った。行逢う人達が御紋服におそれて、道をよけて土下座をするものなどもある。
 この下りの道の中頃まで来て、小吉が代官を見て急ににや/\した。
「山田さん。あれを見よ。あなたは日和だから五、六日雨は降らぬといったが、有馬の六甲山から雨雲が出て来たではないか」
 指さした。如何にも今迄拭ったような青空に墨をぶっつけたような真っ黒いものがぽたりと湧いて来ている。
「合羽持の男はもうすぐ荷が軽くなって仕合なことだね」
「はあ」
 と代官はいったが、村方の一人が少し口を尖らせるようにして
「例え雲が出ても雨は降りませんでございます」
 と口を入れた。
「はっ/\。そうか。その言葉を忘れるな。どっちにしても、山下の旅宿までは降らせたくないものだ。堀田、急ごう」
 小吉はとっ/\と踵《かゝと》で踏みこたえるようにして、急ぎ足になった。そうしている間にも、あの雨雲が忽ちにして、空一面にひろがって来た。小吉は肩をゆすって笑を堪えた。四、五丁下りると、そこにさっき乗捨てた小吉の駕がある。これへ小吉のからだが入ったか入らないに、もうぽつりぽつりと大粒な雨が落ちて来た。
「お、雨ですね、山田さん」
 堀田がそういった。
「はあ」
 代官は妙な顔をして村方を見廻した。みんな眉を寄せて、いやあな顔をして、云い合せたように首をふって考え込んだ。
 ぽちりと落ちたと思ったら、あっという間もなく盆をくつがえしたような雨になって、同時に、ざわ/\と谿《たに》を鳴り渡って風が吹いて来た。
 山を下りたところから旅宿《りよしゆく》まで三丁余ある。小吉は駕だが、外の者は、こゝへ着く迄にずぶぬれになって終った。
 旅宿の土間で堀田が
「不思議でございますな」
 といった。小吉は
「何にが不思議なものか。御旗本が祈りの拝《はい》をすると妙見菩薩は必らずききとゞけられるのだ。それにしても風がだん/\激しくなって来たな」
「は。ひどい吹降りで、おまけに大層冷えて来ました」
 篠つく雨を、風が左し右し、次第に物凄い。
 それっきり夜になっても止まない。
 小吉は炬燵を入れさせて向い側に堀田が入り
「粒撰りな悪徒の百姓ばかりが来ているのだ。いつ何にをやり出すか知れない。油断をするなよ」
「先生、そんなお考えで、いつも刀を側近く置いていられるのでしたか。何あに、あ奴らもうすっかり屈伏して頭をかゝえて居りますよ。さっきもごた/\話しているのをききますとな、勝様とおっしゃるは誠に奇妙なお方だ、雨の降るのを出発の前から知っていられた、御旗本というは違ったものだ、お祈りをなさると立ちどころに神様の受納があると見える。此方が百日詣ってもこんな事は出来ないなどといって居りましたよ」
「どうだ、お前もわかったか」
「へっ/\へっ/\」
「何にがおかしい」
「しかし先生は全く不思議なお方だ」
 夜っぴて風が唸り、雨が降った。明方の|七つ《よじ》になって、やっと、風が静かになったと思うと同時に雨がぱたりと止んで、朝は嘘をついたようないゝお天気になっていた。
 小吉は相変らず駕で帰る途中多田権現へ詣った。今の多田院《たゞのいん》、源満仲の廟のあるところで鷹尾山法華三昧寺だ。流れの水が綺麗で山又山がつゞいている。平野の出湯《いでゆ》も近く、昔銀を掘った名残が、思いがけない山の中腹にひょっこり口を開いていたりしてとても景色のいゝところだ。その日の|申の刻《ごごよじ》時分に御願塚へ帰って来た。
「疲れたわ」
「余りお顔色がよろしくありません。すぐおやすみなさっては如何でしょう」
「そうしよう」
 東間のいうまゝに、風呂へ入るとすぐに床を敷かせてねて終った。
 夜になって代官が機嫌伺いにやって来て少し声をひそめて
「いやもうあの雨の事で村中はすっかり驚きましてな。あゝいう偉いお方とは知らなかった。これは茂左衛門旦那が何んと云ってもどうかして金を拵えなくてはならぬと、どうやらそれが出来そうな気配になって来ました」
 小吉は、そうですか、と然《さ》り無げに
「この村方は滅法な百姓ばかり揃っている。あなたも定めし日頃お骨の折れる事でしょう」
 といった。代官が帰って東間と堀田が
「いゝ事になりましたな」
 と喜んで入って来た。
 小吉は渋っ面をして
「お前ら、とんとお人好しだな」
「でも」
「狐がような百姓だ、いつどう変替《へんがえ》するかわかるものか」
 そういった通り、次の夜、代官がまたそっとやって来て告げた。
「村方が二つにわかれました。金を出そうというものと、出すまいという者でやかましく争っています」
「出すまいというは茂左衛門の一味だろう」
「そうです」
「よし/\。まあほったらかして置け、成るようによりは成らない事だ。詰《つま》りの考えはおれにもある。その時に目に物を見せてやる」
 次の朝、小吉はひどく早く起きて、こんどは堀田一人を留守に置き、東間と五助、長太の三人を供にして大阪へ出て行った。
 途で
「お前らも毎日の骨折だから今日は日本橋で芝居を観せてやる」
「え? 芝居ですか」
「帰るのは明日の昼だ。お前ら芝居を観たら、旅宿《はたご》で充分に酒を飲め」
「へえ。で、先生は」
「おれは奉行がところの下山弥右衛門へ行って来る」
 一度旅宿へ着いて、こゝからみんなは芝居へ行き小吉一人で下山のところへ行った。
 次の日、みんな平気な顔で御願塚へ帰って来る。村方を通ると、もう大阪行の話が隅々まで伝わっていると見えて、きょろ/\した眼つきでこっちを見て、不意に鄭重なお辞儀をしたりした。
 その次の日の朝だ。
 この前のような御肴の荷が大阪からやって来た。おまけに、堀伊賀守の手紙がついて来た。前と同じに御肴は代官をはじめみんなへ分けてやって、その度に、堀田がその手紙を一くさり宛読んできかせる。
「どうだ、勝先生御膝下へと書いてある。此度の件村方について余り苦労ならば何んなりと申し伝えてくれというのだ。お前らは、御奉行様の御手蹟など拝した事はないだろう。謹しんで拝見しろ」
 目八分に捧げて、これを見せる、村方の者は誰一人、まともに顔を上げる者は無かった。
「ところで茂左衛門はまだ病臥か」
 一人へきいた。
「はい。その後余りおよろしくないようでございます」
「そうか。それはいけないな。が、実はな、今日は勝様の御内の御悦事《およろこびごと》がある。村方として祝着を申さなくては相済まん事だから、戸板にのっても是非参るように申伝えよ」
「はい」
 代官が直ちに、堀田へきいた。
「今日勝さんの御悦事と申すは本当ですか」
 堀田はもっともらしい顔をして
「お、そう/\、今あなたへ申そうとしていたところだ。その通りです。今日は申刻《さるのとき》過ぎから村方一同へ御酒を振舞われるについて、入用をあなたにお渡し申して尼ヶ崎から上等の酒肴を買って吸物その外万事念を入れて拵えていたゞくよう申付けられて居りました。献立書はこれです」
 云い乍ら、ふところから堀田が例の達筆で大きな紙へ書いたものを渡した。
「今日はこれから伊丹の牛頭天王へ参詣されるから、早く風呂を焚かせて下さい。お顔もよく当り、髪を結えと、家来へ申しつけて居られた。御悦事と申しても並々の事ではなさそうですな」
「はあ。如何なる御悦事?」
「それはわからない。わたし共にも仰せにならない」
 百姓達や代官が引取った後で小吉は居座敷の方をすっかり片づけさせて、やがて風呂へ入ると、みんなを連れて出かけて行った。
 途で東間がきいた。
「先生、今夜は本当に何にかあるのですか」
「あるとも」
 と小吉は大声で笑って
「おれが面白い芝居をして観せてやる」
「え?」
「何があっても驚くな。妙見の時は滅法うまく行ったが、今夜は芝居とは云え、のっぴきならなくなるとおれが命にかゝわるかも知れねえ」
「えーっ?」
「そうなったらお前ら、おれが舎利を持って江戸へけえれ。小吉が、みんなへの約定を果せなかった為めに、こういう姿になってお詫をしているといってな——第一が無理をさせ四十両借上げて来た武州の知行所の次左衛門に見せるのだ」
「い、いったい何にをなさるお気ですか」
 流石の東間も泡をくった。
「幕が開く迄待て。だが伊丹での買物は諸麻《もろあさ》の上下と白無垢だ。はっ/\、おれがお前らの前で、切腹を見せる」
 みんな、眼をぱち/\して息が止った。
 小吉は笑い乍らどん/\歩いて行く。追いかけてきくが、笑うだけでもう何んにも云わない。
 伊丹の呉服屋白子屋で買物をした。上下|三具《さんぐ》、白無垢二つ、岡野の紋付の羽織も頼んだが、これはすぐには出来ない。その日の|八つ《ごごにじ》迄に——但し紋は岡野の家紋|鳩酸漿《はとほおずき》の染抜きは間に合わないから|こくもち《ヽヽヽヽ》という事で拵えて置く。それでは家来がとりに来るからという事になってすぐに帰路についた。代官陣屋へ帰ったら|午の刻《じゆうにじ》過ぎていた。
 小吉は、堀田へ
「座敷の床の間へ白い椿の花を生けろ」
 と命じた。いかさま儒者だが、堀田は心得があるし、伊丹から戻りの道々で大体の芝居の筋書も自分なりによめたような気がしたので、云いつけられる通り白い寒椿を生けた。
「うめえな。花瓶の肌へ白い色が映っているところが実にすが/\しくていゝよ」
 と小吉が首を曲げてよろこんで堀田を見た。
「江戸へけえったら、足を洗え」
「そうは行きませんよ」
「どうしてだ」
「どうしてでございましょう。それはわたしから先生へ伺います」
「へん」
 小吉はそれっきり黙った。
 そうこうしている中に村方の者達がぞろ/\と代官陣屋へやって来た。料理もすっかり出た。|七つ半《ごじ》になって、まだ真っ青な顔色だが、百姓の肩に助けられて茂左衛門も来た。眼が少し吊上って余っ程の決心をしているらしかった。みんなを白い椿の生けてある座敷へ招き入れた。忽ち村方で一ぱいになった。
 小吉はいつもの服装でにこ/\しながら出て来た。
「やあ、みんなよく来てくれた。わたくし事の悦びで、招いたところ一同揃って、まことに忝けない。今日は一つ自分の家にいるつもりで、くつろいで呑んで貰いたいのだ。茂左衛門、先ず、そなたから一盃進ぜよう」
 小吉は盃を持って前へ行った。東間が武骨な手つきで酌をした。
 外は次第に薄暗くなる。風もなく、星がきら/\しだしたのが、障子を開けた空に見える。
「充分に飲んで、追々と隠芸もして貰いたいな。わたしも江戸の吉原で覚えた流行歌《はやりうた》を歌おう。もう上下《じようげ》無く打ちとけて倒れる迄のんでくれよ」
 だん/\酒が廻って来る。
 その中に妙な|どら《ヽヽ》声で泥っくさい草唄を歌い出す者が出て来る。小吉が吉原の唄をやる。東間も堀田も踊ったりした。五助も長太も猪牙《ちよき》で行くのはの住吉を踊った。が辛いのは縫箔屋の長太、酒は堅く禁じられているのでしらふで酔った真似だ。
 百姓は次第にがぶ/\飲み出す。安莨を吸う。座敷の内はもう/\として、息苦しい。こうした村方取持にくたびれた東間と堀田が云い合せたように二人、庭へ出て並んで小便をした。
「百姓共、金の話とは違って、一文の銭も出ねえ馳走酒だから、喜んで喰っていやがる。あんな奴らの機嫌などをとっているのはわたしはもう嫌やになった」
 東間が、如何にも忌々しそうにいった。
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