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父子鷹29

时间: 2020-09-27    进入日语论坛
核心提示:御見舞 次の朝起きて、うっかりして、ひょいと出かけようとして、お信にとめられた。「ほい、忘れた、他行留は地内から出れねえ
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 御見舞
 
 次の朝起きて、うっかりして、ひょいと出かけようとして、お信にとめられた。
「ほい、忘れた、他行留は地内から出れねえのだった」
 小吉は苦笑して、ごろりと縁端へ横になったら、もう、世話焼さんが、若い男に刀箪笥を担がせてやって来た。
「いくら外へ出さえしなければ彼方《あつち》からやって来る分は差支えねえといっても、こ奴は何んだか妙な塩梅《あんばい》だねえ」
 そんな事を云い乍らも、刀を六|口《ふり》七口|鑑定《めきき》をしてかえした。
 世話焼さんが門の外で、誰かと大きな声で挨拶をしている。それが止むと入れ代りに、松五郎がやって来た。
「何んだ」
「へえ、実は日頃面倒を見ていたゞいている中組八番と北組十二番の頭手合《かしらであい》に頼まれやしてね、こちとらが行ってまたお叱りをいたゞいてはと、お前に頼むと申しやすんでね」
 松五郎は持って来たふくさの包をうや/\しくといて水引のかゝった金包をすうーと小吉の前へ出した。
「これは何んだ」
「へえ、頭手合からのお引籠《ひつこもり》中の御見舞金でごぜえやす」
「馬鹿野郎!」
 小吉は天井板が割れる程の大声で、
「おれは御旗本だぞ、お前ら屁を見たような人足から見舞われる程|しけ《ヽヽ》てはいねえ」
「へ、へえ、そ、それはもう御尤《ごもつと》もでごぜえやすが、しがねえ奴らが本当に御心配申しているんでござんすよ。先生、これを買ってやっていたゞかなくちゃあ、余り可哀そうだ」
「知った事か」
「みんな御門前へ来ています」
「え?」
「そこへ、お手にしてはいたゞけなかったと、おめ/\この松五郎もけえれやせん」
「ほんとに来てるのか」
 小吉は立ち上るとつか/\と玄関へ出て行った。門の外にずらりと並んでいる。
「おい、こら、お前ら、とんと出すぎた奴だ。さっさとけえれ」
「せ、せ、先生」
 波が打寄せるようにみんなの声が一緒に小吉の胸を打った。
 その中から、すっと抜け出して来たのは、帰ったとばかり思っていた世話焼さんで、つゝっと小吉の側へ寄ってさゝやくようにいった。
「有難うよと、受取っておやんなさいまし。勝様、それが、ほんとうではございませぬか」
 小吉はうつ向いた。力んではいるが瞼がうるんでいるのだ。
「そうなすってやって下さいましよ。小前《こまえ》の者の心をお汲みなさるが、本当のお侍ですよ」
 世話焼さんが、何にか目くばせをした。鳶の者達は無言で一斉に腰を折る程に頭を下げて引取って行って終った。小吉はみんなが見えなくなってから、はじめて
「有難う」
 といった。
 松五郎頭と世話焼さんが肩をくっつけるように並んで帰って行く。
「頭手合《かしらであい》が入江町の切見世の奴らに話したらみんなで御見舞を集めにかゝっている。あれ程世話を焼いて下さって、これ迄、一文の銭もおとりなさらねえ、少なくても二十五、六両は寄るだろうと云っていた。が、さて、これを誰が差上げに行くか。あっしは、もう先生は怖いから嫌だよ」
 と松五郎頭はそういった。
「頭は可愛がられている。怖えはないでしょう。でもそれは年の功であたしが引受けました。全く切見世は先生のお蔭で安穏《あんのん》に商売をしているようなものだからねえ。あんなところに定って|たか《ヽヽ》って来る蠅を見たような句駄羅《くだら》ねえ|ごろつき《ヽヽヽヽ》が、唯の一人も影も見せない。みんな先生の息がかゝっていると知っているからだ。血の通った人間ならば、斯ういう時に御見舞を差上げるのは当り前ですよ」
「そうなんだ。いや御見舞どころか、この先きはね、世話焼さん。あすこでは見世の長屋へ割りつけて、盆と暮には一棟弐歩宛、残らずで七両弐歩、大見世の四軒は別にして年弐両ずつ差上げる事にしたいと話は定っているんだよ。唯、困るのは誰が、どういううめえ口で先生に受取って貰うかと、それでみんな苦しんでいる。いゝ智慧はござんせんか」
「さあてと——盆暮に定って差上げるとなると、それは|てらかすり《ヽヽヽヽヽ》も同然、表向き土地《ところ》の親分扱いだからこ奴はちいーっと面倒だよ。松頭」
「あっしも、そうだと思うがね」
「この間ね、先生は大阪へ上ってお留守だったが、前町の長崎町の往来へ見世を出して何にか薬草の商いをするという若い衆が、先生へ付届けをしたいからと、あたしんところへ来てね。こっちが困りましたよ。あんな商いは香《や》具|師《し》だ。そんな付届けは受取れないから追帰したが、この分だとこれあとどの詰まりは、それも受取っていたゞかなくては所詮は本所《ところ》の締りがつかなくなるのだがね」
「何しろ本所も大横川界隈となれあ、まあ他町《よそまち》には見られねえ気っぷのところだからねえ。旗本屋敷が沢山あって、質《たち》のよくねえ仲間折助がうよ/\している。仲間部屋では、そっちでもこっちでも毎夜ばくちが出来ているし、茶屋小屋で暴れる奴も毎夜の事だ」
 そんな暴れ者のある度に、小吉は出て行かなくても、息のかゝった誰かが行って取鎮めるから、界隈で恩に着るのは当り前である。
 いつかも、東間陳助が、入江町の柳屋という茶屋で暴れている浪人二人を川へ投り込んで、弐歩お礼を貰って却って恐縮した事があった。
 出す方はどうしても差上げたいという。取る方が要らないという。仲へ入って世話焼さんも松頭も度々困った事だが、先ず、今日はうまく行った方である。
 それはいゝとして、次の日から、小吉の屋敷はまるで道具市のようになって終った。
「麟太郎がいねえからいゝようなものの困ったねえ」
 小吉が首をひねった。お信は
「でも、年をとった皆さまがお若いあなたを親ででもあるようにしているのを見て、わたくしは楽しゅうございますよ」
「馬鹿をぬかせ。あれが若え女でもある事か、道具屋なんぞ、がや/\集って何にが楽しい」
「と申しましても、他行留では、女どもの居るところへお出でなさる事も出来ませんで御座りましょう」
「はっ/\。まことに切《せつ》ないねえ。が、麟太郎は、どう思っているだろう」
「存ぜぬかも知れませぬ」
「そうだとうめえね。御支配頭だって、馬鹿ではねえから、その中には、おれが所業も許して呉れる事だろう。が、兄上があの通りだから、おめえがおやじはこれ/\の始末だと、麟太郎を叱っているかも知れねえ」
「真逆にそのような事はなさらぬでございましょう」
 一日々々、春が深くなって来る。
 堀田は毎日やって来て岡野の様子を話すが、このところ暫くお見えなさらぬと思ったら奥様《おまえさま》がまた大層おからだがお宜しくないそうだ。
「それにしても、ね先生、あの殿様というお方は、よくまああゝして昼も夜もおやすみになっていられるものですなあ。縦の物を横にもなさらない、全くどうかなさってますなあ」
 流石の堀田もほと/\あきれている。
「お前も立身して千五百石頂戴しろ。そうすればいかに知行所から無理な借上をして、人を困らせても若い女を対手に昼も夜もねていられる」
 小吉は腹をゆすった。
「じょ、冗談でございましょう。千五百石が三千石頂戴し、誰に手をついて頼まれたって、あんな真似は出来ません。わたしも旅から旅を廻っていろ/\な人間も見て来ましたが、あゝいうお方は二人とありませんな。あのお姿を見ただけでも、からだ中がむず痒《がゆ》くなりましてね。一つ——」
 という堀田の出端《でばな》を小吉は
「おい、逃げようとてまだ逃がさねえよ」
 と押さえた。
 そう素早く先《せん》を取られたのではこの上|仕掛《しかけ》ようもありませんが、実にどうもあんな屋敷の用人などは、いくらたくさんの御扶持を頂戴しても到底《とて》も永くは勤まりません。先生お身内の平川右金吾という人が逃出して未だに行方不明とききましたが、その人の気持はわたしにも実に良くわかります。逃げでもしなくては法が無かったでありましょう、と、堀田もほと/\嫌になっているらしい。
 この日は朝っから音もない糠《ぬか》雨であった。
 堀田は、叱られたりなだめられたりして帰って行ったなと思った途端にまるで前倒《のめ》り込むようにして小吉のところへ引返して来た。
「どうしたえ」
 落着いた小吉の顔を見て
「先生、た、た、た、大変ですよ」
「ほう」
「柳島の御隠居様が駕《かご》で見えて、殿様と書院で大層な口論です。あれでは抜刀にも及びかねない」
「馬鹿! そんな物をほったらかしておいて、おれがところへ来る奴があるか」
「は」
「父と子が殴り合いの喧嘩をしたり、眼を打たれて血を流し、とう/\屋敷を出て行った程の人達だ。孫一郎というは気違いなんだ。早く行って留めろ」
「は。御隠居は刀の※[#「木+覇」]に手をかけ、先生の事を何にやら頻りに早口に申して居られましてな。多少舌がもつれてよく聞きとれませんが」
 小吉は刀を鷲づかみにして、堀田がもそ/\している中に、もう庭木戸を肩で突破るようにして岡野の屋敷へ飛込んで行っていた。
 隠居は、ます/\ぶよ/\に肥って、皮膚《はだいろ》は水底のように真《ま》っ蒼《さお》で、これが刀をぬいてふりかぶっているし、殿様も、刀を抜いているが、奥様《おまえさま》がその腕に取りすがっている。お髪《ぐし》はあぶら気《け》もなく、鬢《びん》がぼさ/\に乱れて、痩《や》せて、腕には血の気もない。この人が絞るような声で泣いている。
 仮りにも千五百石の天下の御旗本父子だ。世の中にこんな地獄のような有様があるものか。入って行った小吉も棒立ちになった。腕を組んで射るような目つきで唯じっと見ている。
 隠居はこれに気づいてどうやら、いっそう気が強くなったのだろう。眼を光らせて
「そ、そ、それへ直れッ」
 怒鳴ったが、はあ/\ひどく烈しい呼吸で足元もふらついているようだ。
「岡野家の主は、わたしだ。隠居の身で何にをいう」
 孫一郎もわめく。
 小吉は怒鳴った。
「おい、馬鹿もいゝ加減になさるものだ」
 そういってから
「奥様《おまえさま》、そのお手を放しておやりなさい」
 奥様は
「か、か、勝様々々」
 と泣き叫び乍ら云われるまゝに、しがみついていた殿様の腕を放してやった。心の中では、もう勝さんが来れば大丈夫だと思ったのだろう。
「おのれ、親を親とも思わず——」
 隠居はいよ/\威丈高に、刀を大上段に振りかぶって、ひょっとすると本当に斬る気かも知れない。
 小吉はその腕を押さえて逆にねじった。隠居は一とたまりもなく刀を落して
「な、何にをする」
 小吉の方を睨んだ。
「何にをするもないものだ。あなた方は由緒ある寄合席の御旗本だ。父子喧嘩も程々になされ」
 隠居はがくっと膝を折って、そこへぶっつけられるような恰好で胡坐になった。
「殿様も殿様だ、親御に向って何んという事をなさる」
「隠居が当主へ余計な指図をするからだ」
 孫一郎は口を尖《とが》らせて、持っている刀を、隙があったら振上げようとでもする様子である。
 小吉は、すぐにそれを引ったくって、ぽーんと庭へ投げてやった。何にか白い小さな花の咲いた芝草の上に、蛇でもはったようにじいーっと刀が横たわっている。
「何にをする」
「侍は親を斬る為めに刀を持っているのではねえだろう」
「余計なお世話だ」
「そうか」
 と小吉は苦笑して
「殿様は、父子喧嘩をする時は、ふだんと違って大層強くなるね。眼やにをつけて、米屋の娘がいなけれあ淋しくてねえなんぞといっている時とはまるで別人だ。ふっ/\。いつもそれなら岡野の屋敷もいゝのだがねえ」
 じろりと睨んで、その眼を隠居へ移したら、隠居は、はあ/\はあ/\ひどく荒い息遣いで、両手をひろげて、ぶる/\慄《ふる》わせながら、畳へ逼《は》うように前倒《のめ》りかけて、奥様が、それを力一ぱい支えていた。
「どうなされた」
「う、う、う、う」
 隠居は、そう唸《うな》るだけで、唇からたら/\と余唾《よだれ》がたれて、それでも頬をゆがめて一生懸命笑っているようである。
 小吉ははっとした。眼の底を亡き父平蔵が中風で倒れた時の事がちらりと閃《ひら》めいた。
「奥様、お床を延べられて、御隠居を、御隠居を——」
 そう云い乍ら、隠居を自分が抱くようにして膝を枕にしてねせた。
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