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父子鷹49

时间: 2020-09-27    进入日语论坛
核心提示:強請侍《ゆすりざむらい》「すでに御承知でもいられましょうが、ことしは一帯の不作にござります」 老百姓はずるそうな眼をしょ
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 強請侍《ゆすりざむらい》
 
「すでに御承知でもいられましょうが、ことしは一帯の不作にござります」
 老百姓はずるそうな眼をしょぼ/\させていった。
「そんなことはどうでもいゝ、何処が一番不作かときいているのだ」
「へえ」
 老百姓はごくりと唾をのんで一寸返答にまごついた。傍らにいた若い男がすぐに引取って
「御案内申します」
 といって先きに立った。
 田圃の畝道を歩き乍ら八方を見ると、老百姓のいうように一帯の不作という程でもない。が若い男が案内して指さすところを見ると如何にもそこだけが際立って出来が悪い。
「あすこに棹を入れよ」
「はい」
 若い百姓は、ちらりと小吉を上眼に見てから
「有難うござります」
 とすぐに燕のように元気よくそこへ飛んで行った。
 まだ陽の高い中に小吉は帰った。途中まで来ると
「お前名は何んというか」
「お地蔵新田太吉、と申します」
「よし、おれについて来い」
 外の者達は追いかえした。静かに吹いて来る風に、そよ/\と稲穂の黄色い小さな波がゆらぐ。
「太吉、さっき棹を入れたところは籾にしてどの位の見込だ」
 小吉は友達へ話しかけるような顔つきだった。
「一升二合五勺位でござりましょうか」
「そうか。百姓の年寄りは皆々心中狡猾な顔をしているな。あんな狡猾だから陣屋のものが自然その上の狡猾になるのだ。世の中はお互若いものがしっかりしなくちゃあ駄目だ」
「はい」
「老人どもにそういってやれ、陣屋の取立がゆるやかになって、楽をしたいなら狡猾を捨てろとな」
「はい」
 この籾の取並の時に太吉のいった通りきっちりと一升二合五勺あった。小吉は
「よしッ。取並六合五勺」
 といいわたした。百姓達は瞬間びっくりしたが、それがまるで夢にも見れないよろこびでもある事だけに、みんな大地へ額をすりつけて平蜘蛛のようになって終った。年とった百姓の多くはぽろ/\涙をこぼしてうれし泣きをした。
 小吉は突立ってこれを見下ろし乍らにや/\して
「態《ざま》ア見やがれ」
 と呟いた。
 一つは日頃兄に対する何にかむか/\するものをひねり返してやったような気持と、一つは老百姓共の狡さに詐《だま》されたような形でしかも何にもかもみんな知っていて斯うしてやったのだぞ。泣け/\、うれしさで泣かずにゃあいられないだろう、馬鹿奴——小吉自身そんな不思議な気持で、自分が満足した。
 太吉もずっとうしろの方にいて、そうーっと顔を上げて、小吉を見て、それが急に音を立てて地べたに額がめり込む程に力をこめてお辞儀をした。老百姓共の涙と、この太吉のよろこびとの意味は違っている。それがまた小吉にわかるだけに、小吉は内心愉快で堪らなかった。
 その晩、彦四郎は、夕の膳で少し酒を飲んで小吉へ
「六合五勺の取並はちと安い」
 といったが、しかしそんなに怒っている様子ではなかった。
「実際に籾がそれだけですから」
「この作でそんな事があるものか」
「あるものかと仰せられても無かったのですから仕方ありません」
「百姓共に誤魔化されたのだ。年取った百姓などというものはな、狐のように狡猾なものだ。お前を年若と見て何にか手品を使ったのだろう」
「いゝえそんな事はありません」
「まあいゝ。そこがそんなに安くても、外でそれだけ掛けてやれば決着は同じ事だ」
「は?」
「こら小吉、人生にも屈折がある、山野がある。今、平地を歩いていて何処までもそんなものだと思っていては大間違いだ、すぐに鼻先きへ坂が出て来る山が出て来る。決着、その人間が幸福だったか不幸だったかは最後に棺をおおうて、その生涯の算盤を〆めて見てからでなくてはわからないと同じにあの百姓共無学故、すぐに嶮しい山坂が行手をさえぎるのに気づかぬのだ。お前、人生とは斯ういうものだとよく/\肝に銘じて置け」
「はッ」
「百姓共は、お前をいゝ鴨だと思いおったろうなあ。はっはっは。馬鹿奴ら」
 彦四郎は盃を重ねながら、時々、吐きつけるようにそんな事をいって口をゆがめた。
 青空がつゞいて、稲の穫入れにはいゝ日和が十日余り。
 今日はお昼頃から、妙な空合になって、西の空は明るいが東が真っ暗。やがて一雨ざッと来そうだ。
 彦四郎は、代々庄屋を勤めている茂右衛門の持って来た古い土蔵倉の中にあった何年にも開けた事もない古つゞらの中から見つけたという虫喰いだらけの巻物を、今縁側へ出て見ているところであった。
 陣屋の門を毬を転がすように前倒《まえのめ》り込んで来る人影を、仕切りの垣根越しにちらりと見た。
 はッとした。陣屋の手代の一人が大あわてで彦四郎の前へ両手をついた。
「参りました」
「何? 来たと」
「はッ、先程より茂右衛門へ参り、茂右衛門へはかねての仰せつけ故、遂に口論になりまして、小前の百姓一人が斬られました」
「うむ」
「唯今、当御陣屋へ向ったそうでございます」
「よし、きっと召捕れッ」
「は」
「手代は皆いるか」
「小島、大島、間庭にわたくしでございます」
「下役共は」
「七、八名はおります」
「よし、きっと召捕れ。手に余ったら斬捨ててよろしい」
「え、斬捨?」
「わしが腹を切れば事は済む。やれ」
「は」
「小吉は」
「狸沼へ釣にお出かけで御不在でございます」
「急いで迎えにやれ」
 その小吉は陣屋から二十町余もはなれた狸沼べりに胡坐をかいて悠々と釣をしていた。
 沼の一方は雑木林。それも凡そは秋風に葉が黄ばんで、大きな樹の根方には真っ紅に眼のさめるような漆の蔓が逼いからんでいる。後は茅葦が茂って、小吉のいるところだけは水べりに長く延びた木賊《とくさ》がまるでこゝだけに植込みでもしたように一かたまりになっている。
「勝様々々」
 さっきの手代が息を切って、やっと姿を見つけた遠くから声をかけた。
 小吉はふり返って、押さえるような手振をした。
「しッ/\。静かにしろ」
 手代は飛んで来て
「御陣屋へ乱暴者です」
「乱暴者? 陣屋には腕自慢が大勢いるではないか。こっちはそれどころではないのだ。さっき大きな鮒を釣落して、それからとんと当りが来ず、腐っていたら、今やっと鮒奴、用心深く鼻先きで餌をつゝいたところだったに」
「ふ、ふ、鮒どころではございません。茂右衛門のところの小前百姓が一人斬られました」
「斬られた?」
 と小吉は、はじめて真顔になって
「上州新田の岩松満次郎がおのれで出て来たのか」
「親類の桜井甚左衛門だ、名代で参ったと申していたそうです」
「怪しからん野郎だ。新田義貞公の御直流、東照神君この方、旧名門御取立の御尊意で、御高は百二十石とは云い乍ら、年に御年始唯一度の登城、しかも白無垢着用柳間詰の御殊遇をいゝ事に、大公儀御領の御穫入時を見計ってはわざ/\こんなところ迄出張って来て強談《ごうだん》の無心」
「いつの世にも権勢を笠に着るこういう奴はあるものだが一度は取挫がなくては公儀役人の面目が立たぬと御代官がいつも仰せでございました」
「おれも兄から度々きいた。大百姓共に十両二十両の無心を吹っかけた揚句|与《くみ》し易しと見れば代官がところへも挨拶と称してやって来るという。新田だろうが白無垢だろうが、そんな横道《おうどう》があるものか。よし、行ってやる」
 言葉が終った時は、小吉は釣竿をそこへ放り出したまゝで、着物の裾を高々とからげ、狭い野道をふっ飛んでいた。道ばたの薄がなびく程の勢いであった。髷先が真っすぐに上へ立っている。
 手代はとてもついては行けなかった。はあ/\息を切って、もうひょろ/\と左右に足がもつれている。
「後でゆっくり来い」
 小吉は笑い顔で一度そういったが、すぐに姿は見えなくなった。
 小吉は陣屋の裏口から飛込んで行った。彦四郎が何にやら大声でわめき立てて下知をしている。例の太い朱鞘の鐺《こじり》が襖の横から見えている。
 手代達は何れも抜刀。下役も手に/\思い/\の獲物を持ち大勢の百姓も集っているが、すでに対手におじけ立っているのが、小吉にはすぐにぴーんと来た。
 座敷へ飛上って
「兄上」
 とよんだ。
「おゝ小吉ッ、あれを見ろ」
 彦四郎の頬は真っ蒼でくゎッとした眼が血走って、つッと突出した指先が慄えているようだ。
 陣屋の門のところに三十七、八、六尺もある肩の盛り上った大きな侍が、大刀を斜めに振りかぶって、前に押すな/\というように並んでいる百姓や、役所の下役や小者達を睨みつけている。黒の紋付袷に袴を裾長にはいて、無反《むぞり》の鞘が長棒を腰にしたように見える。そ奴が時々、振返って、じろりと陣屋の内を見る。その度に土間の辺りに立っている手代達が、ざッと二、三歩うしろへ退くのだ。
「兄上、あ奴は斬るのですか、召捕にするのですか」
「どちらでもいゝ、長びけば、怪我人が多くなる。もうさっきから小前百姓が三人も斬られた。浅手は数が知れない」
「それにしても白無垢着の新田家の者を斬っては後がうるさいでしょう」
「わしは腹をかけた。だ、だ、だが出来たら手捕《てどらま》えにしろ。名門権勢を笠に収穫時には代官百姓に大金の強談強請。これ迄は年々皆々天災行事ともあきらめて何十両奪われても泣寝入になっているが、わしはこの辺でぶちのめして、後々の患を断ってやりたい」
「兄上が腹をおかけなされたッ、それならもう恐い事はありません。小吉にお任せ下さい」
「早くしろ」
「はッ」
 小吉は、平気な顔つきで四辺を見廻し乍ら、腕を組んで門の方へ近づいて行った。門の内側まで近づくと、そこにいる小前百姓の中の一人が目についた。
「おい、どうだ、太吉。手代、下役、この陣屋の二本差している侍達はみんな縮み上っている。お前、捕える気はないか」
 例の検見の時の若い男である。
「はい」
「侍も百姓も同じという事を陣屋の者に見せてやれ」
「はい。で、で、でも、わしらには、鍬鋤をとる外に、何んの芸もありませんで」
「おれが教えてやる。こっちへ来い」
 小吉は太吉の筒袖の端を引っぱるようにして手許へひき、低い早口で何かいった。
「死んでもいゝと思ってかゝれ。後々はおれが決して悪いようにはしない」
「はい」
「百姓も侍も同じだという事をこの大勢の前で見せ得たら、唯それだけで百姓一代の本懐だぞ」
「はい」
 太吉はやがて六尺ばかりの木の棒を一本持って、強請の侍を目がけて必死に飛んで行った。
「太吉」
 小吉の声と一緒に、ぱッと若い百姓の足が地すべりの煙を立てて止ったと思うと、その六尺棒が力一ぱいの唸りを立てて、侍目がけて飛んで行った。
 侍は、さっと素早く体を開いた。と同時に、その棒を真ん中からまるで大根でも斬るように、斜めにぱッと斬払った。棒は二つにわかれて一つは空へ、一つは音をたてて地へ落ちた。
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