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父子鷹62

时间: 2020-09-27    进入日语论坛
核心提示:裏だな神主 東から横川沿いに菊川橋《なかのはし》へかゝろうとした時に、ばた/\ばた/\大勢の足音が入乱れて追って来る。地
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 裏だな神主
 
 東から横川沿いに菊川橋《なかのはし》へかゝろうとした時に、ばた/\ばた/\大勢の足音が入乱れて追って来る。地響きだっている。
 横川へは月がぽつんと映っていた。橋の真ん中で小吉と弁治は前からも後ろからも身動きならぬように紋付羽織の摩利支天講中の世話役達に取りすがられて終っていた。
「勝様、神主も御承知の通りふだんはあんな人じゃない。今日は余りうれしいものだから遂い飲みすぎてあんな不始末になりました。すゝめたわたし共にも罪はあるのでございますよ。どうぞお腹も立ちましょうが、一つわたし共の白髪頭に免じまして、講中をやめるの何んのとおっしゃらず、御勘弁を願います」
 そういわれると講頭《こうとう》になっている酒屋の伊兵衛をはじめ月の光で白髪が目立つ。
「勝様に抜けられては亥の日講はすぐに潰れて終いますよ。どうかまあ御勘弁下さいまし。頼みます、拝みます」
 聾になる程がや/\いうが、小吉は前の人達を払うように押しのけて一とこともいわずに歩いている。
「天下の御旗本様が亥の日講にへえってたところで百文の得になる訳じゃなし、神主にあんな|の《ヽ》た言をいわれては、勝様はもうお許しはなさらねえ。さ、みんなけえった/\——え、おう、おとなしく道を開けねえかえ」
 弁治が大声で怒鳴った。
「弁治さん、あゝた迄そんな事をおっしゃってはいけませんよ。あゝたはこっちの頼みの綱ですよ。え、お詫をしておくんなさいよ。どうぞさあ」
 と一人の白髪頭が首へしがみつくようにしたが
「いけねえ/\」
 弁治は頻りに首をふる。
 このみんながとう/\割下水の小吉の家までついて来て終った。大層なさわぎだからお信が思わず顔を出した。
 世話人達にとってはこれこそ幸いだ。早速狭い土間へ坐り込んで、手を合せて頼み出した。
「騒々しい、眠ってる子が起きるではないか」
 と小吉ははじめて口をきいて、お信へ眼くばせして奥へ入った。
 弁治は内心にやりとした。小吉はもう怒ってはいないと感づいたからだ。が
「けえれ、けえれ」
 と、も一度声を張り上げて
「どうしてもけえらねえなら、おれがいう事をきくか」
「どんな事でも合点しますよ弁治さん」
 と酒屋の伊兵衛が顔をくっつけて来た。
 弁治は少々反り身になった。
「よし、それなら教えてやる。先ず第一に、講中世話役一統の添印をして、神主から誓文を入れる事だ」
「へ? 誓文」
「御旗本様へ対し今後決して慮外仕りませんという事だ」
「へえ、承知をいたしました」
「それからな、明日の朝、何んとかしてこのおれが勝様へお願い申し、もう一度、摩利支天へお出ましを願うから、世話役一統紋付で並び、神主は狩衣を着て門外までお出迎えしろ、その上で改めて今日の不調法をお詫びするのだ。どうだ、お前さんらこれが出来るか」
「へえ」
「神主は勝様の大恩を忘れて慢心している。それをこらしめなくちゃあ、だん/\講中が減るばかりだよ」
 酒屋をはじめ、一統顔を集めてひそ/\相談をした。一人が
「よござんすとも」
 と、いって
「その代り、弁治さん、きっと勝様をお連れ申して下さいましよ」
「そっちがいゝなら、こっちも一肌ぬいで見る」
「どうぞお頼み申します」
 みんな帰りかけた。小吉へもお信へも挨拶をしたいが、子供が眠っているからといった時の小吉の眼が凄かったので、大きな声も出せず、尻込みの恰好でぺこ/\お辞儀をするだけで引揚げた。
 途中で伊兵衛が、ぶつ/\いう。
「全く神主にも困ったものだ。明日はまた御馳走を出して、こんな事があった事が、後々外へもれないように勝様のお口をお留め申さなくては。摩利支天が潰れて終いますよ」
「そうですともさ。勝様が入れて下さった講中のいゝお方がぬけたんでは、すぐに火が消えますよ」
「全くです」
 みんな真剣に眉を寄せては首をふり/\歩いている。
 次の朝はまた霜だったが、弁治が先立ち、小吉が紋付姿で摩利支天へやって来た。世話人達は夜の明けない中から集って、見張を出していたから、それと知ると、残らず飛出して門の外へ並び、神主も狩衣で出た。真っ蒼な顔をしている。
 小吉がこれをちらりと見ただけで、先ず堂へ入ろうとしたら
「勝様、神主さんの宅の方に些か用意がしてございます。どうぞ、あちらへ」
 と伊兵衛が白髪頭を地へつけるようにした。
 神主の家の広間。正面の床の間に小吉の刀をかけ、その小吉の前には神主の吉田蔵人が両手をついて、改めて昨日の詫びをいって、以来きっとつゝしみますと頭を下げた。
 小吉は、右側の世話人席の一番上に、若い侍が一人坐って、腕組みをするような恰好で、自分を見ているのに気がついた。はゝあーん、こ奴だな、神主に御家人の株を買って貰った実弟の大竹源太郎というのは。顔も似ているし、同時に何にかしら、自分に敵意でも持ってるらしいものをちらっと感じた。何んという目つきをしているのだ。こんな奴に恨みを持たれる訳はないのだが——。
 その為めに、小吉は妙にむかっとした。
「おい、神主さん、お前さんは、裏店神主だから何んにも知らぬと見えるね、御旗本へ対してあんな無礼をするのはひっきょう天下御威光を軽んずるからだよ。講中もやっと少々目鼻がつきこれからというところで、すでに心|慢《おご》っている。ぷっと一吹きすれば飛んで無くなるような五百や八百の講中を持ったとて、何様な気になっちゃあ困ることだ。くれ/″\も気をつけるがいゝね」
「はい」
 神主は素直そうに頭を下げたが、同時に、ちらりと横眼が大竹へ流れたのを固より小吉は知っている。
 何んとなく妙だ。世話人達も折角ここ迄お膳立をしてまたぶち壊れでもしては大変だと思うから、一生懸命お世辞をいって
「さあ、御神酒だ/\」
 と急いで酒のお膳になる。
 まただん/\皆々が酔って来る。小吉は固より酒は嫌いである。にや/\して四辺を見廻していると、突《だ》しぬけに大竹が席を立って、ずばっと小吉の前へ突立った。
「おい勝さん、御旗本はお前さん一人ではない、おれも天下の直参だ」
「そうかえ」
「おれは神主吉田蔵人の実弟。満座の中で実の兄が裏店神主などと恥をかゝされては、黙っている訳には行かない。さあ、これからはおれが相手だ」
 大竹は立派な紋服を着ている。それがどうした訳か、ぱっと羽織をうしろへ飛ばして片肌ぬぎになり、向う鉢巻をしたものである。
「さ、小吉、表へ出ろ」
 小吉は坐ったまゝで腹を抱えるように大声でから/\と笑った。
「はっ/\/\。口では天下の直参などと抜かすが、雑人《ぞうにん》の喧嘩を見たように向う鉢巻片肌ぬぎとは何という事だ。侍は侍らしくするがいゝよ。こっちは侍だから仲間《ちゆうげん》小者の対手は出来ねえよ」
 大竹はいきなり片足で小吉の前の膳椀を力一ぱい踏みつぶした。
「こ奴、気が違ったわ」
 と小吉はまだそのまゝだ。
 大竹は今度はそこにある吸物椀を手にとると、坐っている小吉の顔を目掛けて正面からぶっつけた。
 小吉の身がさっとかわると同時に、うしろの刀かけの自分の刀をとって、すぱっと横っ飛びに白髪の伊兵衛のうしろへ避けた。
「おい、神主」
 一緒に怒鳴りつけて
「お前ら、云い合せたな」
 神主は、ごくり/\と唾をのむだけで一言もいわない。
「よし、それなら望み通りおれが対手になってやる」
「糞を喰らえ」
 大竹は抜放ってさっと斬込んで来た。
「馬鹿奴。江戸に住んでいて勝小吉を知らねえのか」
 大竹の利腕を逆にとると、その広間のど真ん中にまるで大きな樽でも転がしたように投げつける。余力でずる/\と座敷の隅の方へすべって行った。
「逃げよ、逃げよ」
 神主が泡を喰ってわめき立てた。と一緒にその神主は伊兵衛に抱きついて、二人ぐる/\舞いをしながら、勝手の方へ逃げて行った。
 小吉は大竹を追おうとした。みんなその足へしがみついて
「勝様、勝様」
 と叫び乍ら、一方大竹へ
「丸腰になりなされ、丸腰でお詫びをなされ」
 泣くのかわめくのか、耳を裂くような声の中に大竹はもう早くも大小とも刀を投げ出し意地も外聞もなく鼠のように這って逃げて行って終った。
 小吉は立ったまゝで
「おい、世話人達はこの小吉に、神主兄弟を斬らせようという算段か」
 といった。伊兵衛が勝手方の大勢の人の間から這い出して来た。手を合せている。
「と、と、飛んだ事になりました」
「はじめから書いた芝居に何にが飛んだ事なものか」
「ち、ち、違います勝様。芝居どころか本当にあなた様にお詫びだったのでござりますよ」
 慄えて言葉がはっきりしない。
「何んでもいゝ。大竹源太郎の家は確か五間堀の伊予橋だときいている。明朝勝が改めて形をつけに行ってやる。さ、弁治、帰る」
 伊兵衛が夢中でまた小吉の脚へしがみついた。
 小吉は一寸からかっているような顔つきである。伊兵衛は
「こ、こ、このまゝでは、あたくしも摩利支天講頭の顔がまるつぶれでござります。扇橋の酒屋の伊兵衛と云えば老ぼれながら少しは仲間内に知られたおやじ。江戸っ子の端くれが、こんな始末では他の講中は固よりの事、商売の仲間にも顔向けがなりませぬ。こゝで神主兄弟の事をはっきりしなくては何にか勝様に悪いたくらみをしておだまし申したようで、この年まで曲った事一つせず真っ直ぐに世渡りをして来たものの冥路《よみじ》のさわりになる。これからすぐに、神主と大竹様をこゝへ連れ戻して話をつけ、固よりわたしも今日限り亥の日講はぬけます。が、それから先きは勝様のお心次第、不届もの奴とこの白髪首を斬られましても決して異存はござりませぬ。勝様少々の間お待ち下さる訳には参りませぬか」
「いやお前が待ってくれというなら、待ってもいゝが、本当に神主兄弟をつれて来れるか」
「へえ、講中一統できっと連れて参ります。話の黒白をつけなくては、講中一統も承服出来ないと思います」
「よし、それじゃあ待とう——おい、弁治、その辺を片づけてくれ。酒肴で塵捨場《ごみすてば》のようなそんなところへ、おれは坐ってはいられない」
「へえ、へえ」
 弁治と共に講中の人達が、勝手の方へ行こうとした時であった。
 六十すぎた白髪を切髪にした老婆と、その手をひくようにした美しい丸髷の女が、狼藉の膳椀の中を泳ぐようにしてこの座敷へ入って来た。
「おや」
 弁治がびっくりした。
「あ、あ、あの女だ」
 小吉も固よりこれを見た。例の紙屋の長吉のお糸。これが落着き払った態度で静かに小吉の前へやって来る。小吉は知らぬ顔でこれを見詰めている。
「御免下されませ」
 お糸は、老婆を先きに坐らせてから真っ正面から小吉に礼をした。
「こゝは女子衆の出て来るような場合ではないようだが、お前さんら何んだね」
「はい、あたくしは御家人大竹源太郎の家内糸。これは源太郎の母でございます」
「ほ、ほう、お前さん大竹の新造かえ」
「はい。あなた様とはじめてお目にかゝりました時は、町人紙屋長吉の許嫁でござりました。今は天下直参の家内でございます」
「へへーえ。偉えね」
 流石の小吉もあきれ顔である。にたりとして
「それが何んでこゝへ出て来た」
「義母《はは》共々夫源太郎の不調法のお詫びに参りました」
「そ奴はとんと迷惑だ。こっちは仕掛けられた喧嘩だから、大竹源太郎は斬っ払うつもりだよ」
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