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父子鷹67

时间: 2020-09-27    进入日语论坛
核心提示:じり/\照り それっきりで言葉は跡絶えいつ迄もいつ迄も黙っている。突然利平治は「わッ」 と叫ぶような大声で泣いて、転がっ
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 じり/\照り
 
 それっきりで言葉は跡絶えいつ迄もいつ迄も黙っている。突然利平治は
「わッ」
 と叫ぶような大声で泣いて、転がって小吉の膝へしがみついた。小吉も泣いた。
「探したぞ」
「は、はい、すみません、まことに申訳がござりませぬ」
「帰ってくれ、おれは、お前がいなくては駄目な男だ」
「いゝえ違いますでございます。わたくしはあなた様のお手足まとい、おのれでは気がつきませんでしたが寄生木《やどりぎ》でございました。小吉様はお一人でお立派な方、ましてや御新造《ごしん》さんが御利発なお方故、もう、何んの御心配もないのでござります。それを、わたくしは、何にやら思い違いをして」
「お、利平治、お前、亀沢町の兄上に何にかいわれたな」
「と、と、飛んでもない——彦四郎様が何にも」
「そうか、うむ、そうか。いわぬならいわぬでいゝ。が、帰ってくれ、おれが頼みだ」
「そ、それはなりませぬ。あなた様にお許しをいたゞいても、あのような自儘をして、如何に厚かましくもわたくしは御新造さんの前へ二度とお目通りは出来ませぬ、朝夕の御勝手仕事など、この冬はどのように御苦労をおかけ申したやら」
 叱って見たり、なだめても見たり、小吉は口を酸っぱく口説いたがどうしても帰らないという。終いにはぼろ/\泣いて
「小吉様どうぞこのまゝわたくしを死なせてやって下さいまし」
 と手を合せる。自分の考えている事と同じ事を他人も考えているとは限らない。引戻そうとする事が本当は迷惑なのかも知れないとふと思いついて、小吉はその話をやめた。
「それではおれは帰るが、お前を探すに弁治らあ、去年からお正月もなく滅法な苦労をしてくれた。今夜、御堂を拝借してみんなで飲むがいゝ」
「はい、有難う存じます」
「堂守さんにもお仲間入りをいたゞいてな」
「はい、堂守は喜びましょう、まことに酒には目のない男でござりますから」
「そうか」
 と小吉は立って、隣りの広戸の外にいる堂守に逢って
「利平治が事はどうか宜しく頼みます。わたしにも多少の考えもありますから、御迷惑になるような事は致さないつもりだ」
 堂守は利平治と同じ年恰好。頻りにお辞儀をして
「はい、宜しゅうございますとも。わたくしは利平治とは同じ多摩の郡柴崎村の生れでござりましてな、母方の縁つゞきでござりますよ」
 といった。
 小吉が白梅の咲いた間を縫うようにして帰って行く。利平治は途中まで送って、ぼんやりとそのうしろ姿を見ていた。本当をいうと、あの家出の日に、お竹蔵裏の堀っぷちでひょっこりと若い家来をつれた彦四郎に逢ったのである。彦四郎は顔を見るとすぐ往来をもはゞからず馬鹿奴と怒鳴りつけた。小吉は本来立派なものを持って生れて来た男なのだ、それを父上やお前が芽を出せぬようにぐるぐるに包んで終っている、そのために小吉は自分の正体を省みる暇さえなしに成人し、たゞ剣術だけ強い坊ちゃんに育って終った。
「お前はまだあれにつきまとって本当の男になるのを邪魔する気か。ましてや禄米の一合も入らぬ家にいるとはいゝ年をして何んという思慮の足りぬ男だ」
 そういうと、泣いている利平治を二度と見もせずに行った。尤もなお言葉だと、この時はじめて気がついた。それに夜泣蕎麦も知られた上は、もう、小吉様自らおやりになるに定っている。利平治はとても割下水へは戻れなかった——あの時の事を思い出して、また涙が出て来る。
「小吉様は、それを直ぐにお感づきなされた」
 利平治はうれしくなった。うれしくなればなるだけ涙が頬を伝わった。
 弁治や五助やで炉を囲んで酒をのんだが、その時の堂守の言葉がそのまゝ小吉に伝えられたのは、その夜の中である。
 往来へ呼出して、辻行灯の横へしゃがんで弁治がいった。
「へえ。あの観音堂というものは、おかしな事にあの堂守のものだそうでございましてね。それをあの堂守は近々に売払って柴崎村へかえるのだそうで御座いますよ。伜のたっての頼みだという事で」
「ふーむ」
「そうなるとまた利平治とっさんの行きどころが無くなりやすんで」
 小吉は直ぐにいった。
「よし、おれが堂を買ってやる」
「え? でも勝様、ど、どうしても五両は要りますよ」
「兄から貰うた今のおれが家もその位には売れるだろう」
「で、でも、そうなったら勝様は」
「何んとかなる。が、おれが買うというな。お前《めえ》らで買ってやると利平治にはいって置け」
「へ、そ、それはよござんすがね。だ、だってあなた様のところが」
「ではまた他人様のふところでも狙うか」
「えッ? よ、よ、よござんすか。そのお許しが出れあ、五両が十両でも屁を見たようなもんだ」
 相好を崩す弁治の横頬へ、ぴしゃっと小吉の平手が飛んだ。
「馬鹿奴、手前まだ盗《ぬす》っ人《と》が胸の中から本当に消えない。ちょいと冗談でもいうとすぐその気になりゃがる。そんな事でもして見ろ、今度はこれ位では済まないぞ」
「へ、へえ」
 頬を押さえて、ふくれッ面をしながら
「勝様は時々|いかさま《ヽヽヽヽ》をやるからなあ」
 五助へそういって苦笑した。
 小吉が割下水の山口鉄五郎地内から、かねて剣術の事で知っている入江町の千五百石の旗本岡野孫一郎の地内へ引移ったのはもう初夏になってからであった。何処にもここにも青葉が匂って、殊に岡野の屋敷は露路を出て行くとすぐに大横川だったし、右へ折れると竪川だから、何んとなく本所《ところ》を感じさせた。
 いゝ塩梅に観音堂が手に入って利平治はこゝの堂守になって、参詣の人へ渋茶などを振舞っている姿を、小吉は時々遠くからちらりと見てはよろこんで帰って来た。
 夏になって朝からからっと晴れ上った空がちか/\光っている。小吉は川を渡った横堀の御弓同心の組屋敷に剣術の仲間が一人いるので、そこへ訪ねるつもりで家を出て、入江町の角を曲ろうとして、ぱったりと珍しい男に逢った。
 男は紺の腹掛けに、肱が曲らない程にきち/\に詰った印物の半纏、それに真白いぱっちをはいて、道具袋を左手に下げた。何処から見ても左官の職方である。
「おう、紙屋の長吉さんではないか」
 小吉は思わず、なつかしそうに側へ寄ったが対手はすでに死人のような真っ蒼な顔をして眼を血走らせ口をひん曲げて、身慄いしている。小吉はちょっと首をふった。
「その後はわたしもいろ/\な事で、無沙汰をしたが、お前さんもずいぶん変ったね。やっぱり望み通り左官の漆喰絵をやってるように見受けるが」
 長吉は、そういう小吉を焼きつく程睨んで、不意に道具袋へ手を突込み、錐のように細く出来ている鏝を一挺つかみ出したが、そのまゝまたそうーっと蔵って終った。
「長吉はね、い、い、許嫁は人に奪われ、う、う、家は勘当されてこの通りの有様だ。それに引きかえお前様は、天下の御直参だから、人の許嫁を奪い取り仕たい放題の事をしても、大小をさして威張って往来が出来る。お羨ましい御身分ですよ」
「はっ/\/\は」
 小吉は大声で肩を左右にふって笑い出した。
「こ奴あ大笑いだ」
 といって
「長吉さん、お前さんの許嫁は確かお糸さんとかいったね。わたしは、あの人には何んのかゝわり合いもないよ」
 長吉はきゅうーっと口をゆがめて
「へゝん」
 と鼻先で笑った。
「お糸は、勝小吉の御新造様になるのだと、わたしに唾を引っかけて出て行った」
 ひどい慄え声だ。小吉はやっぱり笑いつゞけて
「そ奴はわたしの知ったことではないが、わたしの家内はお信、麟太郎という子まである。外の事ならともかく、そんな思違いは迷惑だよ。な、長吉さん。も少し落着いて考えなくはいけないね」
「何?」
「お糸さんはね、株を買って御家人になった男の新造になっていたのと図らずも逢った事があるが、それももうその男に出世の見込がないといって出て行って終ったときいたよ。わたしがお前さんなら、失礼ながら、あんなものを家内にしなくて、まあ仕合だったと喜ぶねえ」
「そ、それは本当?」
「かゝわり合いもないのだから嘘をいう訳もないだろう。探したいなら猿江の摩利支天の神主吉田蔵人というもののところへ行ってきいて御覧」
 長吉は何んと思ったのか、急に道具袋を引っ担いで、踵をかえすと飛んで行って終った。
「おれがお糸を奪《と》ったかえ。わっはっ/\、さて/\世の中というものはいろ/\な事があるわ」
 小吉が大横川から横堀へかゝった北中之橋を渡りかけた。青い夏空へ真っ白い雲の峰が盛り上ってこれがぴか/\光っているのを頭へのっけるようにして堀に沿って弁治がとぼ/\と歩いて来るのが目に入った。だいぶしけてるな、小吉はそう思って、
「弁治、小判の百両でも落したか」
 と声をかけた。弁治がびっくりして顔を上げ、途端に豆絞の手拭を出して忙がしそうに顔中の汗を拭いながら
「へッ/\/\/\」
「何にを笑ってる」
「落すような百両を生涯一度でいゝから持って見てえ」
「馬鹿野郎、この真っ昼間のかん/\照りに手前と往来で掛合をしてる程暇じゃあねえ」
 小吉はすり抜けて行こうとした。弁治はあわてて袂を捕えた。
「実あ大変な事になったんですよ」
「へーえ」
「勝様がお世話をして下さらねえというので、摩利支天の亥の日講がとう/\潰れてしまいました」
「知った事か」
「ところがそれで困ったのが五助なんですよ。今あ奴ンところへ相談に行って来たって訳でしてね」
 小吉もはっとした。
「神主が貧乏になりゃがって、五助の妹に暇を出したか」
「勝様、そうなんですよ。それにあ奴ももう講中を集める事も出来ず、歩金《ぶきん》もへえらねえ事ですから、がっかりしちまいやがって、褌一本で大の字になってあの乞食小屋見てえな中で不貞寝をしてやがった。可哀そうでしてね」
「妹というはどんな女か知らねえが、まだ年も若いのだから、何んとでも奉公の口はあるだろう。何処ッか川ッぷちの水茶屋へ茶汲女に出たって、別に兄貴を困らせるような事はあるまい。お前、心配する事はないだろう」
「ほう、そうだ」
 と弁治は
「勝様、五助の奴あ馬鹿ですね、あんなに落胆《がつかり》する事あねえんだ。わたしも一緒に心配して、こ奴あ飛んだ馬鹿を見やした」
「はっ/\。お前らと話をしてれあ、このおれ迄が馬鹿になる」
 小吉は、袂をふり払って、とっ/\/\と同心組屋敷の方へ行く。弁治が追っかけたが、もうてんで対手にしない。
 亥の日講の事もはじめは五助のために講中を集めてやる気だったが、神主兄弟の腹の黒いのがどうにも気に喰わない。五助の事は別に何んとかなるだろうと思って、講頭の伊兵衛をはじめ、百度を踏むが、小吉は出て行かない。その中に講頭の伊兵衛がぽっくり死んで、とう/\亥の日講は無くなったはまだいゝが、摩利支天のお詣りの人も、近頃はまるで見掛けないという噂である。
 ぽっくり死んだといえば平河町の山田浅右衛門も、夏のはじめに、酒をのんでいてやっぱり、急死した。小吉はおくやみに行ったが、仏の前へ坐って、あの時貰った羅紗の合羽と頭巾が、あのまゝまだ質屋の土蔵の中に入っているのが、どうも相すまないような気持がして堪らなかった。
 歳月は音もなく流れて行く。
 世の中が夢のように変って行く。
 文政十二年の正月が来た。徳川将軍は十一代|家斉《いえなり》。やがて十二代となる世子公《あとつぎ》家慶《いえよし》はこの時すでに三十六歳。内大臣従一位に叙せられていた。
 小吉二十八歳。麟太郎七歳。
 兄彦四郎五十三歳。相変らず西丸裏門番頭だが養子精一郎は近々には御書院番組に番入することに定った。これは将軍家の親衛隊で腕の立つものだけが集っていた。
 雨も雪も無く拭ったようないゝお天気の如何にも気持のいゝ松の内。空一ぱいに凧が揚って、女子供の追羽子の音、手毬の唄が日がくれる迄毎日つゞいた。その松のとれる日に彦四郎が上下姿で出しぬけに小吉のところへやって来た。
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