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父子鷹75

时间: 2020-09-27    进入日语论坛
核心提示:性根 小吉は何んという事なしにほっとした。川へ投込まれた奴らがあのまゝ死んででもいたら今日になってまだ死骸のあがらぬ筈は
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 性根
 
 小吉は何んという事なしにほっとした。川へ投込まれた奴らがあのまゝ死んででもいたら今日になってまだ死骸のあがらぬ筈はない。下総へ行ったらしいというような話があれば、それは多分本当だろう。
「先ずそれはそれとしてな」
 と岡野は、にや/\しながら
「何かその辺で一盞やり乍ら話したい事がある」
「いや」
 小吉は手をふった。
「あなたのお酒の対手などはわたしにはとても出来ない事だ。それに今日はこれから男谷の道場へ参るところでね」
「そうか。それあ困った」
「ともあれ、話は何んですえ」
 岡野は流石に少し躊躇したが、思い切ったように
「わしは隠居をする決心をしたよ」
「え?」
「どうせ寄合席だ。おのしの小普請と同じくさ。いかに有余る智慧があり才覚があっても、御家のために何一つ出来ない。当主面が誠に面目ないのだ。家を譲って、生涯を唯々風流に過ごす腹を極めた」
「あなたは仮初にも千五百石の御当主だ。軽々しい事ではありませんよ。奥様《おまえさま》とも御相談なさいましたか」
「まだだ、が、清明とは相談をした」
「清明? そんなものなんかどうでもいゝ」
「よくあるものか。わしは隠居をしたら主計介《せがれ》から応分の隠居料をとって、あの清明と二人でのび/\とくらすつもりだ」
 小吉は、ぐッと顔色が変った。何にか大声で怒鳴りつけでもしたいものを堪えて——黙った。
「千五百石だの御大身だのと、要らぬところに世の目くじらを立てられて、そっちに遠慮、こっちに思惑とな、われでわが身の仕度い放題の事も出来ずよ。それかといって公儀から人がましくでも扱われることか、云わば当てがい扶持の厄介人さ。わしはこんなくらしがもう/\嫌やになったのだ。襤褸《ぼろ》を着て月のもる茅屋《あばらや》もいゝさ。清明と唯二人、どうせ長からぬ命、呑ん気にくらす事にした」
 岡野の薄笑いを含んだ言葉が切れたと思ったら、いきなり、小吉の平手がぱっと岡野の頬に鳴った。大きな音がした。
 岡野はよろ/\ッとしてやっと踏留った。
「な、な、何にをする」
「何にをするかわからねえなら、も一つ打ってやる」
 また頬が鳴った。岡野は思わず、うずくまって頬を押さえた。
 小吉はもう水倉町の四つ辻を早足で東へ行くうしろ姿を見せていた。岡野はやがて立ったが、その時はもう別に腹の立っている様子もなく
「はっ/\。な、何んてえ男だ」
 とつぶやいた。
 真っすぐの通りを左へ切れて、小吉は乱れた着物の襟を直してからゆっくりと男谷道場の門を入って行った。
 途端にふと小首をかしげた。どんなに大勢人がいてもいつも水を打ったように静かだと評判のこの道場の内が、今、何んとなく騒がしいからだ。若い門人達がうろ/\して、小吉の入って来たのさえ気がつかない。師範座を見ると精一郎は留守だ。十七、八人も集って、道場の真ん中の、白鉢巻に木剣を下げた二人の大きな男を中心にまるで熱湯の渦がたぎっているような恰好であった。
 小吉はうしろから暫く黙ってこれを見ていた。白鉢巻の二人は真っ青で、唇の色さえ変っている。
「はっ/\、面白いねえ。やるがいゝだろう」
 出しぬけに小吉の大きな声をきいて、みんな一斉に振向いた。同時にほっとした色が誰にもさっと走った。
「あ、勝先生」
 この道場の門人の中の少し年とった人が、思わずうれしそうな声をかけてこっちへ出て来た。
「勝先生もないものだ——やり度いというならやらせるがいゝではないか。おのしら騒ぐ事はないだろう」
「は」
「剣術ばかりではない、凡そ修行の門をくゞるものはその時から必死だ。次第によっては命を投出すも本望な筈だよ。な、東間陳助先生。そうだろう」
 木剣を持って角力のように肥って、しかもその上に大たぶさだから見るから強そうな三十がらみの侍が、声をかけられて
「あなたはどなたか」
 眉も太くて眼も大きかった。
「これあ恐入った。おれは勝小吉という小普請の微禄もんだ。おのし、この頃、下総の佐原から出て来て近藤弥之助先生の道場に入り、更らに替流《かえりゆう》して此処へお出でだとは聞いていたが、大層|界隈《ところ》に強い子分が多いというではないか。不思議に掛違ってお目にかゝるは今日がはじめてだね」
「あなたが勝先生」
「さようさ。ところで、お対手の平川右金吾。おのしも佐賀町の一刀流道場でさんざ暴れたその上に替流して、こゝへ来た筈だが、やっぱり界隈の|ならず《ヽヽヽ》者の子分が多いという噂だ。それ程の人だから固より承知の事だろうが木剣の手合は云わずと知れた真剣も同じよ。飽迄もやるかえ」
「やる。わたしの剣法の論は結局は空論だと東間がいう。空論か実論か、やって見るより外に法はないのだ」
「そうかえ。おれもまた因果とこういう事は大好きな性質《たち》だからおのしらやるというなら大の賛成だ。さ、やんなさい」
「それについて先生にお頼みがある」
 と、東間は少し呼吸をはずませていった。
 小吉はにや/\した。
「ふん、行司だろう」
「然様《さよう》、お頼み申す」
「右金吾はどうだ」
「願ってもないこと」
 右金吾は舌なめずりをした。
「よし、それではおれも承知した。今日は幸い先生も御留守。お出でなさったらおのしらも直ぐに出入留だが」
 と小吉は四辺を見廻して
「各々、先生には内緒だぞ。はっ/\/\——ひょっとすると死骸が一つか二つ出る事になるかも知れない。その時は、あわてずに棺桶を買って来なさいよ」
 道場に立ってわい/\していた門人達は、何れも目をきょろつかせながら控えの席に退いて、はじめて男谷道場らしいしーんとした静けさになった。
 小吉は師範座に大小を置き、小の木剣を下げて道場に出た。東間と右金吾は改めて木剣をとって、やがて、すっと立った。
 東間は片手上段の斜め構え。右金吾も同じに上段に構えた。小吉はにやりとした。
 二人はいつ迄も構えている。片方が足の爪先程もじりッと寄ると、片方がそれだけ退る。今度は退った方がそれだけ出ると、こっちが逆に退る。
 時々構えが変って、木剣の先きを小さく慄わせたりするが、どっちも、どうしたらいゝか、まるで打込んで行く分別もつかないのだ。小吉は少しじり/\して来る。
「何んでえ、大層な暴れもんだというが、このごろつき奴らろくに遣いやしねえよ」
 そう思っても門人達は眼を皿のようにして瞬きもしないが、小吉はだん/\馬鹿々々しくなって終った。とう/\持った木剣を前へ突出して、大きな声で
「それ迄!」
 と怒鳴りつけるように叫んだ。
「え?」
 東間がぷうーっと頬っぺたをふくらました。
「これ迄だ。木剣の手合をやりたいなら、少し修行をしてからにせよ」
 右金吾は、はあ/\急《せ》わしく息をしているだけだが東間は、ほんのちょっと右金吾に頭を下げて、今度はつか/\と小吉の前へ出て来た。
「勝先生、われ/\はまだ一合もしない。それが未熟とどうしてわかるか。若しこの東間がそれ程に未熟なら、あなたから改めて一本御教えにあずかりたいが」
「そうか。馬鹿は骨身に徹して見なくてはわからぬと見えるな。お望みならそれもいゝが、おれは近頃とんと稽古もしないし、おのしにぶちのめされて死ぬも嫌やだから今日は先ず断る。殊にこゝはそんな事の厳しい道場でな」
「それは卑怯だ。おれも界隈《ところ》では東間様とか先生とかいわれる者だ。このまゝでは笑われものになる。こうなると対手は右金吾などではなく、あなただ。是非一本願いたい」
「わからねえね。行司にそんなべら棒をいゝかけては、もう、二度と再び江戸中の道場へ出入りは出来ねえよ」
 東間はぐん/\と大きなからだを小吉へ押しかぶさるようにして来た。
「行司へ不服をいってるのではない。教えを乞うている。これが何んで道場の法度に背くものか。是非願いたい」
「そうか」
 といって小吉は四辺を見た。古くからの門人達の顔から何にか読もうとしたのだ。こ奴が道場へ来るようになってから、いつも/\ずいぶん暴れて弱い者苛めをやる。ひどい目に逢って、まだ腕が利かないなどというのもいるし、足のくろぶしを無性に打たれて、片ちんばになっているのもあるという事はきいている。
「こ奴、内心はおれをやっつけて、いっそ界隈《ところ》のいゝ顔になろうというのだ。それにしても渡辺兵庫と云い、こ奴と云い、近藤先生の道場とは妙に面白くねえ事ばかり起きやがるわ。精一郎なら、丁度渡辺が時のようにこんな馬鹿は対手にしねえが、おれは生れつきで仕方がねえようだ。精一郎に見られては見っともないから終る迄帰ってくれなけれあいゝが」
 そう思い乍ら
「たってというを断るも悪かろう。では御対手をしようかね」
「用意は」
「おれが剣術は喧嘩剣術という奴だから用意はいつでも出来ているよ。さ、来い」
 小吉は、そのまゝで、ぱっと飛びすさると、小の木剣をぴたりとつけた。東間はまた脇上段。右金吾はいつの間にか、門人座へ戻ってこっちを見ている。まだ唇の色も元通りではなく、呼吸も静まってはいなかった。
「ほらッ」
 東間が烈しい気合をかけた。
「あいよ」
 にこ/\笑って、気合を抜いた途端に、東間の木剣は宙へ飛んだ。
「あッ」
 門人達が一斉に叫んだ。木剣が斜めに半分程も天井板へ突きさゝって終ったからだ。
「参ったか」
「まだ/\」
 東間はもう逆上していた。眼が血走って、大手をひろげると、物凄い勢で咬みつくように小吉へ組付いて来た。
 が、そこに見たものは、組付かれた小吉ではなく、あべこべに閃めくような早さの小吉の足がらみにかゝって、いやッという程に投げつけられて、しかも仰向けに倒れた喉元へは、ぴたりと木剣が差しつけられ、その上足で力一ぱい腹を踏みつけられて終っていた。
「参ったか」
「ま、ま、参りました」
 やがてやっと起上った東間は、ぴったりとそこへ坐って
「勝先生」
 と怖い顔で慄え声でいった。
「侍を土足にかけてすむか」
「馬鹿をぬかせ、教えて呉れといったから教えてやった迄だ。侍の組打は、勝つとこういうものだという仕形《しかた》をして見せてやったに云い分があるのか」
 東間はぐっ/\と喉を鳴らした。そして一度膝を立てかけて、これあまた一騒動あるかなと、門人達もはら/\したが、何んと思ったのか、急におとなしくなって
「御尤だ、一言もない」
 と両手をついて礼をした。
 丁度そこへ師範座の横の杉戸が開いて男谷精一郎が、にこ/\笑い乍ら入って来た。上下を着ていた。
「これは/\叔父上」
 と一礼して
「今日は御城へ召されましてね、唯今戻りました。少々おくれてどうやらいゝ物を見損ったようで誠に残念でございます」
「やあ、いよ/\御番入か」
「はあ、意外に早く突然今日御披露がございました」
「それは目出たい——改めて祝儀に出る。今日はこれで」
「ま、お、お待ち下さい」
 流石の精一郎も少しあわてて、そういっている間に、小吉はもうとっとと仕度をすると道場を駈足で出て行って終った。
「もし、叔父上、叔父上」
 何度呼んでもふり向きもしない。途中まで来て、ふところ紙でべっとりと額にかいた脂汗を拭いた。西の晴れた空に雪をいたゞいた真っ白い富士が裾をひいて浮かんでいるのが仰がれた。
 その晩。東間が出しぬけに上下を着けて、小吉のところへやって来た。玄関へ出て行くと、まるで町人のように両の手を膝小僧の下まで下げて
「まことに突然の事で恐入るが、是非あなたへ一盞差上げて改めて今日道場での事をお詫び申したい。平川右金吾も待っている。お出ましいたゞき度いのです」
「鬼のような暴れ者が肩衣をつけてさて/\世の中というのは、いろ/\な風が吹き廻るものだな。あゝ、いゝよ、来いというなら何処へでも行くよ」
「万事はあちらで——お願い致します」
 道場の事は何んにもいってなかったので、お信は少し妙な顔をしていたが、やがて小吉は着替えをして、東間の後へついて出て行った。
 家の曲り角で、犬が吠えた。小吉は東間をふり返って
「おい、犬に吠えられるなんざあ、その性根のよくねえ証拠だよ」
 といって笑った。
 
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