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男とは何か03

时间: 2020-09-27    进入日语论坛
核心提示:第三信酒席の接待について 酒にまつわることをもう少し書く。 サラリーマンにとっての酒が酩酊のためだけにあるのではないこと
(单词翻译:双击或拖选)
 第三信酒席の接待について
 
 酒にまつわることをもう少し書く。
 サラリーマンにとっての酒が酩酊のためだけにあるのではないことは、前の手紙にも書いたが、夜、酒席で他人《ひ と》様《さま》をもてなすということになると、自分の酒品さえ崩さなければそれでいいというわけにはいかない。それどころか、酒席の取り持ちはビジネスに携わる人間にとって高等技術に属する仕事で、それを完璧に行なうのは、大袈裟《おおげさ》でなく至難の技といっていい。
 だからその微妙について語り出したらそれこそキリがないから、今回は君のような新人サラリーマンにとってせめてこれだけは心しておいて貰いたいという事柄についてだけ書いてみる。
 サラリーマン一年生が、接待する相手を選んだりその誘いをかけるといった仕事を任されるはずがないから、そのあたりの機微についてはここでは触れない。そこで接待当日における君のような下っ端の心得から始めることにする。
 人を接待する場合、口頭でまず先方の了解を得た上で正式な招待状を発送するのが近頃のならわしで、そこには日時場所地図等が明記されているのが常だが、そうした招待状の発送はひと月以上前であることが多い。ということは、先方が失念していることもないとはいえないから、当日確認の連絡を入れて念をついておく必要がある。さらに、予定はしているものの、宴席の地図を紛失している場合もあるから、その辺もいま一度再確認しておかなければならない。
 ただ、「もう一度地図を教えて貰いたい」と先方に求められた場合、当日のことでもあり、「それではFAXで……」と言いたいところだが、面倒でも足を運んで地図を届け直した方がいい。なぜなら、FAXが失礼だからということではなく、接待を受けるということは、しばしば自分の会社の人間に知られては困る場合があるからだ。それをFAXで送りでもしたら、先方のFAXの設置場所にもよるが、誰の目につくか知れたものではなく、そのことでとんだ迷惑をかけることにもなりかねないし、そんなことになったら接待どころか逆効果になってしまう。
 同じ理由で、迎えに出向くのも時と場合によりけりで、先方によく確かめた上でないと、その親切がかえってまずい結果を招く。
 接待場所で客を待つ場合も、店の人間に言ってあるからと、座敷でのんびり待ち受けているよりは、店の外へ出て先方の到着を迎える方がさらに念が入っているし、先方が店を間違えて迷うということも防げる。
 その接待場所への到着時間だが、約束の時間の三十分前には行き着けるように心掛けるといい。先方が早く着くこともあるし、時間を間違えることもないとはいえない。とにかくここで遅れをとるようなことはなにがなんでも避けるというのが、接待マナーの第一歩だ。
 次に大事なのは席順で、客が見えてから、誰がどこに坐るかを定めるというようなドロナワだけはしないことだ。事前に店の人に相談して上座下座の順位をしっかり確かめた上で、全員の席を予《あらかじ》め定めておくのも開宴前の重要な仕事の一つだ。
 酒席の取り持ちについては、この前の手紙に書いたから重複を避けるが、近頃やたらとふえた、そうした酒席での「歌」のマナーに触れておこう。
 先方が“歌好き”だということを承知しているからこそそういう趣向を用意するわけだが、いくら好きだからといって皮切りから先方がマイクを握るということはまずないから、前座役は接待する側の最末席が自分から進んで引き受けさせられることが多い。この場合気をつけなければならないのは、当節流行《は や》りの歌は避け、先方に馴染《なじ》みのある歌を選んでおくことと、あまり上手に歌わないことだ。
 ゴルフの接待なら、それぞれのハンデが知れているから、シングルプレイヤーがわざと調子を落したプレイをするのはかえって失礼というものだが、歌ばかりはそうはいかず、あまり上手ぶるのは禁物と肝に銘じておいた方がいい、もっとも君は音痴の私の子だから、他人を嫉妬させるほど歌がうまいとはとても思えないが。
 歌う頻度にしても、先方が七分、接待する側は三分くらいに控えた方がよく、接待する側としては一人で二曲以上歌わないのが無難というものだ。
 さて次は帰りのクルマの手配だが、最も望ましいのは、宴会が始まる前に、ハイヤー会社に車をキープしておいてくれるよう予約を入れておいた方がいい。急に雨が降り出したりすると、車が出払ってしまい、その時になって慌てさせられることもなくはないからだ。料亭にしろレストランにしろ、会食時間は短くて二時間はかかるから、そのあたりを見越して頼んでおくことだが、問題はその後二次会に席を移すかどうかで、車の台数が変わってくる点だ。
 接待側のホスト役が、デザートに入る前あたりに二次会の話を持ち出すだろうから、その結論を待ってさりげなく席を立ち、最終的な必要台数をハイヤー会社へ再連絡しておくようにすればいい。ただハイヤーが到着するまでだいたい二十分はかかるから、デザートが終ってから頼んだのでは、客を手持無沙汰《ぶさた》にし白けさせないとも限らない。その辺のタイミングは接待の心得の中でもかなり重要なポイントだけに気を配ることだ。
 その二次会の場所選びだが、原則として先方が初めてで、接待する側が顔という店は選ばない方が無難だ。余程名の知られた一流の店で、一度覗《のぞ》いてみたいという気持が先方にない限りは、初めての店くらい退屈で手持無沙汰もないからだ。
 接待の最後の仕事は客の帰りの足の手配だ。客のクルマは一次会で呼んだそれを待機させておいた方がいい。少々高くつくかも知れないが、改めて店の看板間際に頼み直すと、ハイヤー需要のピーク時だけに客を長時間待たせることになりかねないからだ。
 さてその二次会から客を送り出した後だが、内々でもう一度飲み直そうということになる場合が多い。そうなるとおそらくもう電車のなくなる時間だろうから、「今夜は客に便乗してハイヤーで帰ろう」などと言い出す人間もいるだろうが、新人たるもの、どんな状況でもそういう誘いに乗ってはならない。その場面だけ考えれば、上の人が言い出したことでもあるしそうしてもいい雰囲気ではあるだろうが、そのハイヤーの請求書が回ってきて、管理部門の人間がそれを見たとき、けっしていい気持はしないであろうことは、君にも想像がつくはずだ。会社の中には、そうした派手な接待と無縁なポジションで一生過ごす人間もいるわけで、そうした人達から見れば、入社間もない若い社員がいくら上司の勧めとはいえ、ハイヤーにふんぞり返って帰るというのは、頭では理解できても心情的には面白かろうはずがない。しかもそうした管理部門の人間の冷たい観察の目が、人事異動のようなとき大きく作用することを忘れていい気になるのは、愚かというよりサラリーマンとして無警戒といわざるを得ない。
 以上のような接待をほぼ遺漏なく済ませるところまでは気の利いた人間なら誰でもするが、そのフォローとなると案外なおざりにしたままで平気でいるのが近頃は多い。
 そこでその翌日、早速に前夜の礼を述べ、その折の話題に触れ、そのお話が大変勉強になったのでこれからもご高説を拝聴させて頂く機会を与えて欲しいといった意味の手紙を、個人名で書き送ったとしたらどうなると思う? おそらく先方は君を改めて思い出して好印象と共に記憶に止めることだろうし、そうした先方の印象が君の会社にはね返ってくるその効果の大きさは計り知れないほど大きいものなのだ。
 それはなにも打算からではなく、本来は人間としての礼儀の一つに過ぎないのだが、近頃はそうしたことが省略され過ぎる。残念なことであり、考えてみれば損な話だと思うのだが、どうだろう。
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