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ぐうたら愛情学38

时间: 2020-10-10    进入日语论坛
核心提示:再 会 青年時代に恋した女性に長い歳月をへた後、ばったり盛り場のデパートや街路で出会うそんな経験はどんな男性にもあるもの
(单词翻译:双击或拖选)
 再 会
 
 青年時代に恋した女性に長い歳月をへた後、ばったり盛り場のデパートや街路で出会う——そんな経験はどんな男性にもあるものだ。
 男というものは意外と小児的であり、非現実的なものである。彼女と結婚できなかったゆえに彼女は彼の心のなかで、いつまでも娘であり、若く、美しいのだ。青年時代に思っていたすべての気持が、まだ彼の心には損《そこな》われず残っているのである。
「あら」
 向こうも彼をみとめて足をとめる。
「ほんとうにお久しぶり……」
 男はすばやく相手の顔と姿を観察する。昔の面影《おもかげ》はまだ残っている。生活のやつれがあり、眼のふちに皺《しわ》ができたけれども、彼女はやっぱり彼女なのだ。
「お元気ですか」
「ええ。あなたは」
 一瞬、言葉が跡《と》切れる。男の胸に長年、忘れ去っていた恨《うら》みや悲しみが少し甦《よみがえ》る。しかしもう終わったことだ。こちらも別の女と結婚して、もう子供もいるのだから。
 三言、四言、さしさわりのない言葉をかわしてから、男はおずおずと、
「いかがです。そこでお茶でも飲みましょうか。久しぶりですから」
「ええ」
 女は腕時計に眼をやって、
「三十分ぐらいなら」
 男は彼女が家に戻り夕食の支度をしなければならないのだなと思う。彼女も一人の主婦なのだと改めて考えるのである。
 喫茶店のテーブルを真ん中にして二人は向かい合う。
「子供の冬物を買いにきましたのよ」
「はア」
「あなた……、お子さまは」
「一人です」
「うちは二人」
「幼稚園ですか」
「いいえ。上はもう小学校なんですのよ」
 それから彼女は急に元気づいたように、自分の子供の話をし始める。いい小学校に入れるために塾に通わせたこと。塾の月謝は高かったこと……小学校入学も近ごろはむつかしいこと。男は三十分の時間が自分には興味のない話題で消えていくことに、イライラし始める。昔、彼女はそんな話などしなかった。見た映画のことや読んだ本のことを彼が話すのを、一生懸命、聞いてくれた。
「主人は子供たちを自分と同じように、どうしても東大に進学させるっていうんですよ」
 まだ女は子供の話を続けている。そして、やっと気づいたように、
「おたくはお坊っちゃん? お嬢さん?」
「娘です」
「それなら学校の心配、そうしないでもいいわねえ」
 時計を見て、彼女はアラ大変という。今から地下の食品売場で夕飯の材料を買っていかねばならないのだそうだ。
「あなたは変わりましたね」
 別れぎわ、勘定を払ってから男はちょっと皮肉をいう。自分にとって大事だった三十分をこんな話題で終わらせてしまった彼女に対する恨みをこめて。
「そうかしら」女は肩をすぼめて「でも同じよ、結局」
 地下におりる階段を足ばやにおりていく女のうしろ姿を見送りながら、男は会わねばよかったと考える。会わなければ、彼女の娘時代の姿のまま自分の心に生き続けたろう。
 一方、食品売場で、女は一円でも安い野菜や肉を見つけようとしている。
 さっき会った男のことは、もう彼女の頭にはない。それは空気のように、過ぎ去ってしまったことだ。
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