皆さん。
一緒にひとつ答えてください。今月はぼくが質問者になります。
これはぼくの若い友人の本当にあった話です。
その友人はテレビ局に勤めている。若いから、まだ月給はそう多くない。奥さんは五つ年下で、二人の間には男の子と女の子がいる。
そういう普通の家庭です。奥さんとは会ったこともありますが、とてもいい奥さん。かわいくって、家庭のきりもりも、うまい。
さて、話はこうなのです。
日曜日、珍しく夫がこういった。
「今日は久しぶりに家族でどこかに行こうかな」
「まア、珍しい。ほんと」
奥さんも子供たちも眼を輝かせました。テレビ局に勤めている彼は、日曜日も社に出て働かねばならぬことがある。そしてクタクタに疲れてもどってくるから、肝心の日曜日は家でゴロ寝をするのです。あんまり一家で外に出かけたことはなかった。
さて、こうして一家は浮き浮きと街に行きました。
デパートで奥さんは必要な買物をして、それから、子供たちを屋上で遊ばせた。子供たちはもちろん大喜びである。夫婦もそれを見ながら幸福だった。
「晩のご飯をここで食べようね」
と男の子がいうと、
「よしよし」
彼は笑って答えた。
「まあ、もったいないわ。うちへもどりましょうよ」
と奥さんが口を入れた。すると彼は、ちょっとイヤあな顔をして、
「たま[#「たま」に傍点]だからいいじゃないか」
そこでデパートの食堂にあるウナギ屋に四人は入ったわけです。
ウナギは特・上・並と三種類あった。
「どう、違うの」
と男の子が父親にたずねると彼はニコニコして、
「特は一番、大きな奴。上はその次に大きな奴」
「じゃ、ボク、特だ」
と男の子は叫び、小さな女の子も、
「わたしも」
といいました。
「よし、特を四つ、頼もう」
彼がそう注文しかけた時、
「およしなさいよ」
と奥さんが口を入れた。
「並で結構よ。もったいないわ。それに、子供たちに味の違い、わからないんですもの」
その言葉を聞いた時、彼はさっきよりもさらにイヤな顔をして、
「うるさいな」
と怒鳴りました。
「君は黙っていろ」
奥さんは、なぜしかられたのかわからない。そうでしょう。毎日、毎日、家計簿ちゃんとつけて、一円でもムダにせず、大根一つ買うのも吟味して苦労しているのに、夫はその苦労もわからず、特級のウナギを四人前も注文する。ほんとなら、家にもどって食事すれば、このウナギ代四人前の三分の一で夕食ができるのだ。しかし、そのことさえ彼にはわからない。
いいえ。彼はテレビ局に勤めているから、それぐらいの知識はあったのである。
にもかかわらず、彼はこの日曜日、家族と断じて特級のウナギを食べたかった。だから怒鳴ったのである。皆さん、彼の気持がわかりますか。そして、あなたが奥さんの立場だったら、どうしたでしょう。特を注文させましたか。それともどうしても、並にしたでしょうか。わからぬ人は悪妻の素質あり。