私はこれまで二度ほど団体旅行に加わって外国に出かけたが、その都度、おもしろい発見をした。
それは、団体旅行に加わった女性同士の間で、必ずといってよいほど喧嘩《けんか》が始まるということである。男同士の間にも喧嘩はないとはいえないが、しかしそれは非常に稀《まれ》である。逆に、女性たちの間は絶対的に冷戦、悪口のいい合いが発生するのだ。
綿密に観察していると、喧嘩をするAとBとの女性は、初めから仲が悪いのではない。むしろ出発前は、
「お互い助け合いましょうね」
「なんとなく、気が合っちゃうわね。わたしたち」
今までは互いに知り合いでもなかったのに、たちまちにして百年の知己《ちき》のような口のきき方をして、羽田のエアポートでも、外国に向かう機内の中でも、ベッタリ席を並べ、ペチャクチャ、ポチャクチャ、食事まで分け合うぐらいの親しい間柄となって、だれが見たってこの二人が数日後、仲たがいをするとは思わない。
それがどうでしょう。向こうの国へ行く。同じホテルの同じ部屋でベッドを並べ、どこに行くのも二人一緒、という何日かが過ぎると、いつの間にか、互いに相手の悪口をいい合うようになるのだ。
「あの方って、お食事一緒にしますと、いつもわたしに払わせますの」
「あの人って実にダラシないので困るわ。ホテルの洗面所を先に使っても、水は出しっぱなし、あたりは汚すで——迷惑するのはわたしですの」
そういう悪口を、同行の男性に訴えてくるのである。
「あの人ってスープを音たてて飲まれるので、ご一緒にレストランに行くのが恥ずかしいですわ」
「まア、彼女こそ洋式便所の使い方も知らないのよ。びっくりしたわ。便所のふちにとび乗って、用を足していらっしゃるんですもの」
同行した男性は、半ばおかしく、半ばやれやれというケシかけたい気持ではあるが、あまりケシかけて自分が渦中に巻き込まれるのも怖《おそ》ろしく、
「はア、なるほど、それは困りましたなア」
「ごもっとも、よく、分かります」
相手の言葉にうなずくだけで、累《るい》が我身に及ぶのを避けるのが賢明なのである。
かくして、行きの機内ではベッタリと隣合わせだったA嬢とB嬢とは、帰りの飛行機ではかなり離れた席に座り、互いに黙殺、知らん顔。百年の知己のごとくだったのが、今や親の代からの宿敵のようになる。
これを見ると、われわれ男性には、女性の友情とはどこまで本当なのか、さっぱり分からなくなる。
道ですれ違った二頭の犬は、なぜか必ず鼻にシワ寄せ、歯をむき出し、
「ウ——」
と唸《うな》るのが普通だが、女というのはこの二頭の犬と、本質的には同じなのではなかろうか。
女は、他の女に対して許すということを知らない、とかのゲーテはいった(いわなかったかもしれん)が、これは至言である。男は他の男を認める時が多いが、女は実に他の女に対しては厳しい。学校時代の親友も結婚してしまえば赤の他人のようになる例は、男の場合少ないが、女には当たり前のことらしい。