男性と女性とはどちらが嫉妬心が強いかは、大変ムツカしい問題です。
「そりゃ女にきまっとる。女の嫉妬心には、全く我々かなわねえ……第一、花嫁さんの角かくし、ありゃ、女は妬《ねた》み心がひどく強いから、一生リンキをたてるなという証拠じゃないか」
こう男性諸君が言いますと、女性側も黙ってはいない。
「まあアキれた。よくもあんたたち、そんなズウズウしいことを口に出せるわね。男こそ、女よりはるかに嫉妬心の固まりよ。あなた、評判の�オセロー�というお芝居見なかったの」
とやりかえす。こういう風景は、昼やすみのオフィスや事務所でよく見られるものでしょう。
では、男と女とはどちらが嫉妬心が強いのか。その答えは今、横において、ここでぼくがハッキリ言えることは、男性の嫉妬心のあらわしかたと、女性の嫉妬心のあらわしかたは、いささか違っているという点です。
どう違うかと申しますと、女性は、自分の嫉妬心をひと捻りもふた捻りもして表現する場合が多い。これにたいし、男は阿呆くさいほどストレイトでまとも[#「まとも」に傍点]なあらわしかたをするものです。つまり嫉妬心に関する方面でも、あなたたち女性のほうが、我々男性より複雑なテクニックを使われているように見える。
その一例として、ぼくの友人でこんな失敗をした男がいました。
この男は、A子さんという同じ職場で働く女性に恋をしていました。しかし、いたって気の弱い性格であったため、彼女を誘うことができない。
それでも、ある日曜日、やっと彼女と一緒に映画を見ることに成功し、胸は幸福感でいっぱい。
そして、映画を見たあと、彼はA子さんと喫茶店に入ったのです。
コーヒーを飲みながら、二人の話題は、おのずと今見た映画のことに及んで、
「あのRという女優、どこかで見たような気がするなあ」と彼は言いました。「そうだ。庶務課のB子さんだ。似ていると思いませんか」
「そういえば、そうね」
A子さんは、あまり関心もなさそうにツンとして答えましたが、自分の発見に気をよくした彼は、
「本当にあの女優とB子さんとは似ておるな。もっともB子さん、顔もきれいだけど、頭も切れるっていう話ですねえ」
と更にきいたりしたのです。すると、
「そりゃ、頭のいい方よ。なにしろ××高校の御出身ですもの」
A子さんは、B子さんのことをホメはじめました。
「才色兼備って、あの人のことね。あんな方、きっと男の人をすっかりチャームするでしょうね」
彼女がこのようにB子さんのことをほめるので、それを真にうけた彼は、
「なるほど、そういえばそうですねえ」
一緒に口をそろえて、B子さんを激賞しはじめた。
ところが、どうしたのであるか、A子さんは急にツンとして、
「あたし、帰りますわ」
御機嫌がわるくなったと思うと、サッと椅子から立ち上って、店を出ていってしまった。どうして怒ったのか、哀れな彼にはさっぱりわからない。そして、このために折角、成功しそうだった彼氏の恋も、水泡に帰してしまったのである。