さて、夫婦間の嫉妬の心理を見ていますと、この男女の相違が、やはりはっきりとあらわれているようです。夫の嫉妬のだしかたは、妻のそれにくらべて直截《ちよくせつ》で単純なあらわしかたをするものです。だから敏感な妻には、彼が「やいているのだナ」とすぐわかります。
結婚後まもない頃の夫は、妻のボーイ・フレンドなどが遊びに来て、妻がうっかり娘時代のように浮き浮きなどしますと、子供みたいにその口惜しさを顔に出したり、急に黙りこんだり、あるいは鼻の穴をピクピクさせたりしますから、彼がヤキモチをやいていることは、すぐ見抜けます。結婚後数年たっている夫になると、自分が他の男に「やいた」ところを見せるのは、夫としての威厳を失うと思うのか、若い夫のように直接にはそれを口に出しませんが、これも急に今まで言わなかったようなこと——たとえば、
「天井《てんじよう》にススが溜っとる」とか、「お前の子供の教育はなってない」
などあらぬこと、理屈に合わぬことを突然口走りはじめますから、女性の皆さまには、すぐわかる。要するに、亭主の嫉妬の出しかたは、一つの例外をのぞいては単純で子供っぽいものです。
一つの例外とはあとで書きますが、この例外をのぞいた夫の嫉妬心の構造は、子供っぽいだけにそれを防いだり、それを鎮めてやる方法は、全くムツカしくはありません。
その方法で一番手ごろで便利なのは、「おだてる」という方法です。たとえば、あなたの結婚前のボーイ・フレンドや、あるいは昔の会社の同僚の方が遊びにきたとします。あなたは、この昔のボーイ・フレンドを、結婚したからと言って玄関払いするわけにはいきません。もちろん、愛想よく、
「さあ、おあがりになって」
と言ってよいのです。そして、もし夫が在宅なら、彼を昔のボーイ・フレンドの前につれていって紹介するのがいいでしょう。そして、なにも気がねすることなくボーイ・フレンドとお話をしておきなさい。ただ、その際、夫が横にいるのに、彼をあまり[#「あまり」に傍点]無視しないほうが賢明にちがいありません。
そして、ボーイ・フレンドが帰ったあと、あなたはただ、次の二つの言葉を口に出せばよいのです。
その一つは、
「一緒にお話してくださって有難う」それから少しおどけたように、「あなた、考えていたより寛大なんでビックリしちゃった。あたし、昔のボーイ・フレンドなんか家におよびしたら、叱られるかと思っていたの」
これが一つ。それからその次に、
「あたしには、あなたが、一番いいわ」
この二つの言葉だけを、口に出してごらんなさい。その効験は実にあらたかです。
おそらく亭主のうち九十九パーセントまでが、ボーイ・フレンドが来ていた間、多少、心にもっていた不安や嫉妬をすっかり消すでしょう。
「あなた、意外に寛大でビックリしちゃった」
と言われれば、大半の亭主は急に得意になり、
「馬鹿言え。俺なんかさばけた新時代の男性だからな。妻のボーイ・フレンドにヤキモチやくほど野暮じゃないさ」
と、子供のように威張りだすから妙である。時には、
「ああ、これからもドンドン、君のボーイ・フレンドをよんできなさい。ドンドン、よんできなさい」
勢いづいて、まるでドンドン焼きの太鼓のようなことを口走る。
そこで最後に、
「あたしには、あなたが、一番いいわ」で押されると、
「バカヤロ、おだてるない」
それでも鼻の下を長くして、安心するものなのです。
男というものは、愛情の心理にかけては、女性に比べて単純であり子供のようですから、この「おだてる」方法は一見、あなたたち女の方には、いかにも男尊女卑の感じを与えるかもしれませんが、つまらぬことで夫婦間の傷を拡大するより、ボヤはボヤのうち早くから消したほうが良いという意味でも、お奨めする次第です。