だが、さきほども書いたように一つの例外があります。この例外の場合は、亭主の嫉妬はいかにあなたたち女性といえども、なかなか鎮めることはできないでしょう。
その例外とは、「結婚前に自分の妻と関係のあった男」にたいする嫉妬です。
時々、ぼくはこれから結婚するという娘さんから、こんな相談をうけることがあります。それは、「昔の恋人だった人のことを、夫にうちあけるべきか」という問題です。あるいは、「私は子供の時、知らないである男に肉体を奪われた。そのことを夫に言うべきか」という問題です。
この場合、彼女が夫にそうした過去をうちあけようとするのは、夫にウソをつきたくない、正直でありたい、誠実でありたいと思うからでしょう。
しかし、そうした動機の純粋さは認めても、ぼくはハッキリ申しあげましょう。
「過去の恋人のことや、過去の自分の肉体問題については、絶対、夫に言わないほうがよい」
もちろん、夫の中には寛大で人格も立派で、妻の過去は過去として認めてくれる人もいるでしょう。しかし、現在の大半の夫は、よし口では認める、許すと言っても、この点に関する限りでは、やはり苦しんだり悩んだり、その後の妻の行為にまで、あらぬ疑惑をもってしまう傾向になるのはやむをえません。それでは、女はあまり分が悪いではないか、大半の男性は、結婚前に一度や二度は遊んでいるくせに、自分の妻には純潔を要求するのは我儘だと、お考えになる人もいるでしょう。ぼくは、それは尤もな意見だと思います。思いますが、現在ではまだ、それは理屈でしかないのです。現在では、多くの夫はやはり自分の妻が他の男は知らず、自分だけを始めて愛したのだと思いたい心理段階にいることは否《いな》めない事実です。
この場合、夫は一生、妻の過去と過去の男に嫉妬します。この嫉妬は残念ですが、ぼくがさきに申しあげた「おだて」の方法でも、夫婦の「話しあい」でもなかなか消し去ることはできません。
だから、たとえそのような事実が過去にあっても、夫には生涯言わぬことがよいのです。それは、不純でも不誠実でもなんでもない。夫を生涯くるしめ、家庭を暗くするようなことは、たとえ動機が誠実でも、結果においては不純だと言えましょう。
だから、この嫉妬だけは亭主に起させぬこと——それ以外の夫の嫉妬なら、あなたはちょっとした注意と知恵とで、なだめたり防いだりできると、男の一人であるぼくは、自信をもって言えるのです。