だが女には論理がないのかといえば、そうでもない。彼女たちには彼女たちの論理のすすめ方があるのだ。それは(1)過去よみがえらし法(2)飛躍拡大法の二つである。夫婦喧嘩で女房のことばを黙って聞いていると、この二つの方法を彼女たちが実にウマく、巧みに駆使していることがよくわかる。
第一の過去に対する記憶力のよさは女の場合、驚くべきものがある。過去に亭主の言ったこと、やったこと、その場所、その時間、結婚記念日その他もろもろのことについて女房たちは針仕事をしながら、アイロンをかけながらさながら牛のように胃袋から出しては噛みしめ、噛みしめてはまたのみこんでいるにちがいない。この過去にたいする記憶のよさは夫婦口論のさい、彼女たちにとって実に有効な武器となる。
あなたは今、そんなこと言っていますけどね、三年前の六月五日の四時ごろ反対のことを口に出したんですよ。男というのはそんなに時と場合で無責任なことを言うんですか。こうヤリコメられた亭主は世に無数にあるだろう。本当に六月五日に自分がそう言ったのか、わからぬので彼はろうばいし、しまったと思い、黙りこんでしまう。結婚記念日、婚約記念日などは世の夫にとってもう忘れてしまったことだが、女房は毎年、毎年記憶をあらたにして、夫がそれを忘れたと言ってはののしり、泣き叫ぶ。全くかなわない。