ガヤガヤ、ブツブツ自分たちの経験をのべあって雑草のように逞しい女房の体力から女は肉体的に下等だなどとそれはひどいことを言いはじめました。この時、
「肉体だけではないよ。女は一般的に精神の点でも欠けているものがあるね」
明確に発言した男がありました。それは作家の三浦朱門という人でした。
「女には精神というものが根本的に欠如しとるんや。生理と本能でしか生きとらんわ」
「えッ」
矢代君といい、三浦君といい、まあ、何ということを言う男でしょう。人も知るように三浦君の奥さんは才色兼備の曽野綾子さんである。三浦君にまで女性は精神的に欠陥があるといわれればうちの家内などオケラのオケラではないかとみなが愕然としたのは無理もない。
会が終って外に出ると霧雨はまだ冷たく降っていました。老酒の酔がまだ体の芯に残ってしびれるような気持です。
みんなと握手をして一人トボトボ家路につきました。
路をあるきながら今さっき耳にしたことを考えてみると半分わかったようでもあり、半分は解《げ》せません。
女房は肉体的にも男より強く、何を食わしても肥るほど下等である。肉体的にではなく論理性に欠け、要するに生理と本能でしか生きない。
ぼくは一度だって女性にそんな考えをいだいたことはありませんでした。さきほどの席上で皆に附和雷同せず、じっと辛抱していたのも、ぼくだけは女性や女房にたいしてソンケイとケイイを払っていたためです。
だが少し思いをめぐらしてみると、あの友人たちは家に戻れば、きっと奥さんたちにペコペコしているにちがいない。平生ペコペコしていればこそ、男だけの集りであんなにムキになって女性をこきおろすのでしょう。
女性や女房が下等ならなにを怖れることがあるか……。
これは日本の夫だけの習性か。それとも全世界のすべての夫の本音だろうか。
ぼくはその時、はじめて数日後たずねるヨーロッパで色々な夫にあって彼等の女房観を切実にきいてやろうという気持になったのでした。