男性ならどうだろうか、とぼくは心の中で考えました。男ならば大きな音をたててペをする無邪気さがあるでしょう。
「や、失礼」「オヤ、ごめん」
これですむでしょう。しかし、そういう男性の行為を軽蔑する若い女性が実はひそかに同じことをやっているとぼくは知らなかったのです。
「声をあげて」ルリイ先生は更に促しました。「次をよみなさい」
「マタ、我々ハ若キ女性ノ入浴後ノ湯ヲ検出セルニ、同ジク多量ノメタンガス[#「メタンガス」に傍線]ヲ発見セリ」
すなわち、パリジェンヌといわれる若い美しい女性たちが入浴中、人の知らぬことをいいことにして風呂の中でいかに放屁しているかの分析表がそこに掲載されていたのでした。
「お国、日本の若い女性も同じことであろう」
「とんでもない。日本の女性はとてもツツしみぶかく……」
「ツツしみぶかい女ほど、ひそかにこういうことをやっているものですぞ」
ぼくは少し阿呆らしくなって顔をふせました。わざわざ海をわたってフランスにまできながら、中学生の馬鹿話のようなパンフレットを読まされるとは思わなかったからです。その顔色をルリイ先生はいち早く敏感にかぎつけたようでした。
「おそらく、ムッシューは、私のこの話を子供っぽいと思われたであろう。しかしすべての理論は幼稚なところから解きあかさねばならぬ。このパンフレットに書かれていることはムッシューを笑わせるだけかもしれん」
「いいえ、とんでもない」
「しかし、大事なことは女性というものは本質的に不潔で、インケンであるというのである。これが、女房になると、もっと露骨になってくる。それはこと屁の問題だけではない。精神的に亭主にたいする態度においてしかり。亭主たるものはこの女性の生まれながらの不潔さとインケンさとを、どう制御すべきか。それをまず考えねばならん」
先生は隣室から一つの巻物をもってきました。その巻物には次のように書いてあったのです。