ルリイ先生が別室から持ってきた巻物——巻物というよりは、よく小学校の博物の時間などに黒板にかける図表のような紙には、次のような文字が書かれていました。
「おわかりかね」ルリイ先生はにんにくくさい息を吐きかけながら「これはほんの一部の例。上段をみなさい。娘時代の美点というのは、ムッシューら男性が恋人や婚約者の娘の長所だと錯覚する性格だよ。これは美点でも長所でもありはしない。一度、彼女らが結婚してみなさい。それらの美点(?)はたちまちにして下段のような怖ろしい悪性に変化していくのである」
「オオ! 了解、了解」思わずぼくも声を上げました。「つまり……娘時代に娘らしい慎みぶかさをもった女は、女房になると亭主にとって、不感症な怠けものの女に変るというわけでしょうか」
「|然り《メイ・ウイ》。|然り《メイ・ウイ》。仕事から帰っても、ロクでもない話題しか持たん女房がこれじゃよ。ムッシューは頭が良いのよ」
「それほどでもありませんが……でもなるほど、感受性の強いと見えた娘はヒステリーで嫉妬ぶかい細君に変り、行動力ありげな近代娘は結婚すると亭主を尻にしこうとする悪魔に変るわけか。小生、いささか思い当ります……」
「左様、日本から来たムッシューよ。このように女性というものは、本質的に劣等的な生物にすぎんのです」