第三の方法とは夜の説得。この方法こそルリイ先生が長年の貴重な体験から発見された秘法でした。
ルリイ先生のお話によると、女性とは物事を男性のように頭脳で考えるのではなく生理でしか考えぬということです。女房にひそむ女性としての弱点を利用することが必要なのだそうです。一言でいえば女房の理屈に理屈でハムカッてはならない、女房という種族にはいわゆる抽象的な論理は全くわからない。彼女たちはいわゆる男性の理屈が、実感をもって納得できぬようにできているのだ、と先生はおっしゃいました。
「要するにバカなのですか」とぼくはビックリして訊ねました。
「女房族は……」「バカといえばバカね。弱い頭……」
この女房の弱い頭に物事を説明する時は、一足す一が二であると言いきかしてもそれは無駄である。彼女たちの論理では一足す一が三にも四にもなるのだからだそうです。だから——と先生は声をひそめられました。女にこちらの理屈を納得させるには一つの方法しかない。
それは時間をえらぶこと。統計によると女性が男性の理屈に心から耳を傾けるのは昼間よりも夜だそうです。これはかの有名な女性心理学者コンイデイオ氏も書いていることで、女性は「光の中」より「闇の中」の方が言葉をなるほどと思うという。諸君は女房に何かを説得する場合、昼間をできるだけ避け、夜の時間と闇の時間とをえらぶべきである。「闇の中こそ」と同じ女性研究家のピイピイ氏も語っています。「女が一日のうち、利口になる時である」
ぼくはこの三つの方法のうち三番目のものを非常に思いがけぬもののように思いました。しかしルリイ先生の顔には自信があふれていました。
「ホントです。信じて下さい」先生は大きく肯きながら繰りかえしました。
「実行してください。実行して下さい」
諸君も早速実行して頂きたい。ぼくはこの三つの方法を巴里の在留邦人や仏人の亭主に教えましたが、そのうち、七十五パーセントまでの方から驚くべき効果があったと感謝されている始末です。