パリを発って、ロンドンに三、四日の旅行を試みました。ロンドンの有名なピカデリー・サーカスは、ちょうど東京の銀座にあたる繁華街でした。
この繁華街の裏路で、フランス料理店「黒い真珠」屋を開いているのは、ぼくの昔の同級生だったアンドレ・ソテル君であります。
ソテル君のつくってくれた料理をパクつきながら、ちょうど彼の奥さんが座をはずしたあとに、ぼくは早速例の質問にとりかかりました。
「……というわけなのでね、君が女房をどう抑えているか、わざわざロンドンにまで聞きに来たわけです」
「わざわざね?」
ソテル君は皮肉な嗤いをうかべて、
「まあ……各人には各人のやり方があるからな。俺の女房懐柔策が、必ずしも日本の御主人たちにうまく運ぶか、わからんよ」
「それは先刻承知している。だからこそ、その個人的な体験談を聞きたいんだ」
では……というわけで、ソテル君は赤いイタリア産の葡萄酒を舐め舐め、語りはじめました。
「俺はうまくやったよ。うん、たしかにうまくやったよ。お前も知ってのとおり、俺は昔、女の問題で痛い目にあっているからな。今の女房と結婚したとき、万事計算しておいたのさ」
「ほう」こちらが膝をのりだすと、
「俺の予め立てた方法はね」とソテル君は次の二つの方法をのべてくれました。