このたび、女王様は引越しをすることになった。十年近く住み続けた麻布のマンションを、ついに引き払う決心がついたのである。
もちろん、今回も賃貸マンションだ。数年前にマンションを買おうとして銀行からローンを断られて以来、「自分は社会的に『信用するに足りん人間』という評価を下されたのだ。よし、銀行が金を貸してくれるような人物には、一生ならんぞ!」と決意したのだ。
だから、女王様は生涯、賃貸マンションに住む。組織に所属してない自由業で、そのうえ不動産も持たない人間などますます社会的信用度が低くなるのは承知だが、んなもん、願ったり叶ったりである。そんなことで信用していただかなくて結構ざます。
友人のゲイが、ある時、嘆いていた。
「日本って、まだまだ『結婚制度』に重きを置く社会なのよね。僕の勤めてる会社でも、中途採用の人を選ぶ時に、『この人は三十歳過ぎてるのに独身だから、信用度が低い』なんて理由で、平気で落としちゃうのよ。ねぇ、そんな事が重要なの? 仕事の能力じゃなくて、結婚してるかどうかで判断されちゃうワケなのって、愕然《がくぜん》としちゃうよ」
結婚というものがこれほど形骸化している現状なのに、まだそんな事に拘泥《こうでい》しているのが日本の企業である。とっくに崩壊した家庭を上っ面だけ維持してるような人間でも信用できるのか、独りで毅然と自立して生きている人間は信用できないのか、人間の信用度って何なのさ、と、思ってしまう。マイホーム幻想なんて、クソ食らえだわ。女王様は組織にも属さず、マイホームも持たず、社会的信用度の底辺で誇り高く生き抜いてやるわよ。ま、家庭は持っちゃったけどさ。
小倉千加子氏の『結婚の条件』が売れていると聞く。結婚って何のためにするの、と、今や未婚の女たちは首を傾げている。自分に経済力があるなら、わざわざ結婚しなくていいじゃない? ひとりの男に縛られず、自由に恋愛を楽しみたいし。
ところが、その一方で、女王様の周囲の三十代半ば過ぎの女たちは「仕事仕事で頑張ってきたけど、家に帰ってご飯を一緒に食べる相手が欲しくなって来ちゃった。でも今さら結婚するのは面倒くさいし、いいパートナーいないかな? 恋愛はまだまだしたいから、夫じゃなくて家族が欲しいの」などとおっしゃる。そして必ず、「おたくの夫婦関係は理想だわ。私もゲイと結婚しようかな。お互いに外で自由に恋愛できるし、家では親友みたいな夫婦でいられるしね」と言うのである。彼女たちにとっての「結婚」は働く自分の「癒しの場」作りなのだ。
このような世の中になったからこそ、結婚とは何だ、夫婦って何なんだ、という問題を今一度考え直さねばなるまい……と思っていた矢先に、興味深い仕事が舞い込んできた。NHKの番組のレギュラー司会である。毎週、いろいろな夫婦をゲストに呼んで、「夫婦って何?」というテーマで話すのだという。面白そうだ。やってみようじゃないの。
というワケで、女王様は四月からNHKに出演するのだ。
よろしく、皆の衆。