引越しによって総額四百万円もの支出を余儀なくされた女王様の家計は、言うまでもなく火の車である。今月に文藝春秋から発売予定の単行本『ショッピングの女王 FINAL 最後の聖戦!?』の印税も、すでに前借りしてしまった。当分、贅沢は敵だ。衝動買いなんて、とんでもない。ダンボール箱に埋もれて、ジャージで暮らす女王様。おいたわしい限りである。
ところが、民よ、このような窮乏の時にこそ、神は厳しい試練を与え給うのであろうか。
というのも、このたび女王様がレギュラー司会を務めることとなったNHKの『今夜は恋人気分』(毎週水曜日夜十一時十五分)の第二回目のゲストに、漫画家の桜沢エリカさんご夫妻をお招きすることになったのであった。桜沢エリカさんといえば、言わずと知れた漫画界のゴージャス女王様。ディオールのドレスを華やかに着こなしたその御姿を、私も女性誌で何度も拝見したことがある。
こ、これは、もしかして……女王様対決ってヤツ?
打ち合わせの席で、女王様の心は激しく打ち震えた。頭の片隅で、何者かが鬨《とき》の声をあげている。昔の私だ。ライバルを見つけた「ショッピングの女王様」が「キェーッ」と叫びつつ、髪振り乱して突進してくる。ああ、怖い。この女はいつもいつも勝手に自分のライバルと認定した女に闘志を燃やし、このようになりふり構わず突撃して来ては、この私を無理やり浪費地獄の道連れにするのだ。
相手にすまい、と、もはや「ショッピングの女王」ではない「さすらいの女王」様は、ひとりごちた。私は「ショッピングの女王」の座から引退した女。連載タイトルも変わったことだし、ホント、やめてください、こーゆーの。あんたなんかお呼びじゃないのよ。迷惑ですから、もう来ないで!
「そうそう、うさぎさん」
必死で耳を塞いでいる女王様に、制作スタッフが声をかけてきた。
「桜沢さんにお会いしたら、おっしゃってましたよ。司会がうさぎさんなら私も頑張らなくちゃって」
「頑張るって、何を?」
「衣装ですよー」
「キェ───ッ!!!」
途端に、あの恐るべき前女王が馬上で躍り上がり、奇声をあげた。
「望むところじゃ──っ! おのれ、桜沢エリカ、首を洗って待っておれ──っ!」
「やめてぇ〜〜っ!!!」
「者ども、青山に遷都したのも何かの縁ぞ! グッチじゃ! グッチ青山店に、いざ急げぇ〜〜っ!!!」
「嫌ぁ〜〜っ!!!!」
しかし、嫌よ嫌よも好きのうち、なのかどうかは知らんが、鼻息荒くグッチ青山店に駆けつけた女王様、
「いらっしゃいませ、中村様。お久しぶりですね。本日はどのような物をお探しで……」
「桜沢エリカをギャフンと言わせる服じゃ──っ!」
って、どんな服や、それ。
で、購入いたしましたわよ、上下で五十七万円のスーツ。出演料から大幅に足が出とるっちゅうねん!
化粧回しをつけた関取のごとくグッチのスーツで土俵入り、じゃなかった、スタジオ入りした女王様の姿を見たい民草は、四月七日の放送をお楽しみに。ちなみにエリカ女王様は春らしいプラダのワンピース。お似合いでしたよ、フン!