過日、『タモリの未来予測TV』という番組で遺伝子の特集をするにあたり、女王様の遺伝子をサンプルとして提供したことがあった。提供といっても髪の毛を数本抜いて手渡しただけのことであるが、制作スタッフの話によると、その髪の毛を韓国の某企業に送れば、遺伝子の情報を解読して本人の性格などを診断してくれるそうなのである。
人間の性格なんてものは、先天的な傾向と後天的な環境が複雑に絡み合って構築されるものだ。単純に遺伝子だけでその人のすべてを解読することなど不可能であろうが、それにしても遺伝子はそこにどれくらいの影響力を持っているのであろうか。女王様の買い物依存や極端な暴走行為はDNAに書き込まれた情報なのか。もしも書き込まれているとしたら、どういう形で書き込まれているのか。自分を知りたい女王様にとって、己の遺伝子情報を知ることは大いに意義あることではなかろうか。
このように考えて髪の毛を提供した女王様であるが、このたび、ようやくその診断結果が送られてきた。
まず、女王様を驚かせたのは、診断書に書かれた次のような記述である。
「ウサギ様の中毒遺伝子はDRD2A、BのA2/A2、B2/B2です。このタイプの人は中毒遺伝子に変異のないタイプで、酒、麻薬、賭博などの有害環境に入り込むことはないと考えられます」
なんと! 女王様には悪習に中毒的にハマる傾向が遺伝子的にはない、と? まぁ、確かに酒も飲まないし麻薬にも縁はないし、ギャンブルにも耽溺《たんでき》した経験はない。が、買い物依存という中毒症状に、あれほどずっぽりとハマっていたではないか。あれが私じゃないのなら、はたして何者だったのよ?
不思議に思いつつ、その先を読んだ。すると……!
「憂鬱・暴力遺伝子はSSタイプと判明しました。このタイプは、セロトニン運搬体遺伝子に変異があるため、環境的なストレスや身体的疾患がある場合、憂鬱症や自殺衝動、暴力性向が現れる可能性があります」
あっ、と、思わず声をあげた。セロトニン運搬体という単語には聞き覚えがある。確か、依存症の原因のひとつと言われている脳内物質ではなかったか。セロトニン運搬体が正常に働かないと、悲しみや苦悩が長引き、ために買い物依存などの自傷的な嗜癖にハマりやすいという話を聞いたことがある。
なるほど。さては、女王様を破滅的な浪費に走らせたのは、「中毒傾向」ではなく「暴力傾向」であったのか。女王様は他人を殴ることに快感を覚えた経験もないし、自分に暴力的な傾向があるなどとは思ったこともなかったが、しかし、あのような行為は確かに自分自身に対する「暴力」ではないか。ずっと以前から「私は買い物だの浪費だのには簡単にハマるくせに、何故、ギャンブルにはハマらないのだろう」と不思議に思っていたのだが、「買い物」と「ギャンブル」を司る遺伝子が別個のものなら、その疑問はすんなりと解決するではないか。
ううーむ、遺伝子、恐るべし……と、思わず唸ってしまった女王様、さらに診断書を読み進み、またしても新たな自分を発見することになったのだった……。