『タモリの未来予測TV』の制作スタッフから送付された「遺伝子診断書」をきっかけに、己が人生と遺伝子との繋がりについて考えさせられてしまった女王様。さっそくインターネットで遺伝子関連のニュースを検索してみたところ、こんな記事を発見した。
「『自分のDNAをアピールする』商売にプライバシーの懸念」(Kristen Philipkoski/2003.3.21)
この記事には、英国のキャッチー社が開発した「自分のDNAを洒落た金属ケースに保存して、仕事場の机や自宅の暖炉の上に飾っておく」ための商品キットや、米国のDNAコピーライト研究所による「客のDNAサンプルを採取し、遺伝子プロファイルを作成し、結果をデータベースに収録して『最高に素敵な装飾プレート』を送ってくれる」というサービスが紹介されていて、またまた女王様を面白がらせてくれたのであった。
プライバシー問題はともかく、このようなサービスを本気で喜ぶ人々がいるのだろうか。女王様は確かに遺伝子によって自分を解読する作業には興味も快感も覚えたけれど、自分の遺伝子を飾っておこうとは露ほども思わんなぁ。もちろん、不慮の事故に巻き込まれて死亡した場合、損傷の激しい遺体の身元確認の手がかりとなる、という利点には「なるほど」と思うものの、それならべつに「洒落た金属ケース」や「最高に素敵な装飾プレート」である必要はないワケで、要するにこれは「ナルシシズム」商品なのであろう。キャッチー社の社長は、自社の製品について、電子メールでこのように述べているという。
「自分の個性を表現するのに、これ以上の方法があるだろうか? 自分だけにしかないものがあるということを、仕事場に置かれた銀色のブリキ缶がいつも教えてくれる。そこに自分の遺伝子が入っているのだ」
ふーん……嬉しいのか、それ?
女王様は「世界でたったひとり、私が『私』と呼べる人間」としての自己に、ひとかたならぬ愛と執着を抱えている。が、「世界でたったひとつの自分の遺伝子」には、愛も執着も感じない。これは、生まれてこのかた「自分の子どもが欲しい」などと一度も思ったことのない女王様ならではの特殊なメンタリティなのだろうか。いや、そんなことはあるまい。「自己愛」や「生殖本能」と「自分の遺伝子を飾っておきたい願望」とは似て非なるものである。自己愛は確かに「自分が世界で唯一無二の存在」であることを確認したがるものだが、それは他者や世界との関係性によって確認されるべきもので、決して「自分の遺伝子が唯一無二」という文脈でのアイデンティティ確認ではない。
また、女たちの生殖本能にしても、必ずしも「世界でたったひとつの自分の遺伝子を残したい」という希求ではなく、むしろ「この男の子どもが欲しい」という言葉に表されているように、「世界でたったひとつ、自分と彼との組み合わせの遺伝子が欲しい」という、他者と混じり合うことへの欲求なのである。
だとしたら、民よ、自分の遺伝子を飾りたいという願望は、どんな種類のナルシシズムなのか。女王様は、激しく興味をそそられた。