「腫瘍マーカー(CEA)」とは、「癌胎児性抗原」とかいわれているものの数値を表すデータで、要するに「身体のどこかに腫瘍がありますよ、もしかすると悪性かもね」ということを教えてくれるものらしい。
で、こいつの基準値は、「5・0以下」なのであるが、なんと女王様におかれましては「12・6」という数値が出てしまったのであった。
「じゃあ、私は癌なんですかねぇ?」
診察室でデータを眺めつつ、女王様は医者に尋ねた。
「さぁ、それは詳しく調べてみなきゃわかりませんけどね。まぁ、子宮頸癌ではないようですよ。たぶん、消化器系だと思いますね。ここは婦人科なので、消化器科のほうで調べてもらうといいでしょう」
専門外だからね、ということで、この話題は打ち切られた。そりゃまあ、そうなんだが、女王様的には気になるではないか。場合によっては、子宮筋腫なんか二の次ですよ。命に係わる病気じゃないんだし、もしも癌なら、そっちのほうが優先順位が高くなるのは当然である。
しかし、話は終わってしまったので、それ以上食い下がるのも憚《はばか》られ、女王様は釈然としない気分のまま帰宅したのであった。
で、その「CEA」とかいうものについて、いろいろと友人知人に訊いてみたところ、どうやら「食道、胃、大腸、膵臓、胆道、肺、乳腺、甲状腺」などに腫瘍があることを示すデータらしく、しかし、「それらのどこにあるかは、特定できない」のだそうな。上記のリストを見る限り、確かに消化器系が主だが、肺やら乳房やらは消化器系じゃないし、たとえば消化器の検査を受けてシロだったら肺を調べ、それもシロだったら乳癌検査をして……と、このように、消去法で腫瘍の部位を特定しろ、ということなのだろうか。
面倒臭いなぁ、と、病院嫌いでズボラな女王様は思った。腫瘍の位置がどこなのか、一発で特定できる検査はないのか? こんなに医療が発達してるんだもの、絶対にあると思うんだけどなぁ。だってさぁ、消去法で特定するとして、あっちこっちの科をタライ回しにされつつグダグダと検査なんかやってたら、悪化しちゃうかもしれないじゃん。
そこで、さらに友人知人に尋ねてみたら、やっぱりあったのだったよ。腫瘍の位置を一発で特定でき、しかも悪性かどうかもわかっちゃう検査法が。
民よ、それは「PET」と呼ばれる検査で、癌の早期発見や再発の確認に有効なのだそうだが、あまりにも機械が高額なので導入している医療機関が少なく、もちろん検査費用もお高いのであった。たとえば「国立がんセンター」の場合、PET検査費用は二十万円以上。また、とある会員制の医療機関にも導入されているのを確認したが、そこでPET検査を受けるためには入会金を払って会員にならねばならず、その入会金が百五十万円と聞いて、女王様はかなり萎えた。
貧乏人は死ねっちゅうことなのかね、これは?
「もういい。なんか頭に来た。私、このまま放置して、もしも癌なら潔く死ぬ」
このようにヤケクソになった女王様だが、しかし、そこへ思わぬ救いの手が差し伸べられたのであった。