「PET検査ですか。僕の知り合いに医者がいるから、訊いてみましょうか。顔の広い人だから、そんな何十万円も何百万円も払わなくたってPET検査できる病院を、どこか紹介してくれるかもしれませんよ」
行きつけの喫茶店でよく会う会社社長が、このように申し出てくれたので、女王様は渡りに船と飛びついたのであった。
「お願いします! 私、本当に金ないの〜」
ひと月に何百万円も浪費する女が何を言う、と、読者諸君も思ったろうが、その会社社長も思ったに違いない(苦笑してたし)。
しかし、クレジットカードの支払いで何百万円も引き落とされた後の女王様の預金口座は、ペンペン草も生えてないくらいの不毛の痩せ地状態なのだ。貯金って大事よね、と、思わず改心しそうになった女王様だ。すぐ忘れるんだけどさ。
で、数日後、会社社長に紹介された病院に行ってみたワケである。
「なるほど」
女王様の血液検査データを眺めつつ、そのクリニックの院長は言った。
「煙草は吸われますか?」
「吸います。つーか、ヘビースモーカーですね」
「煙草を吸う人は、腫瘍マーカーの数値が倍くらい出ることがあるんですよ。必ずしも癌というわけではないんですが、身体のあちこちに微細な癌細胞の芽みたいなものが出来かかってるんですよね」
「じゃあ、それがいつかは癌になるってことですか」
「なるとは限らない。それは断言できませんが、なる可能性を孕んだ状態ということです」
「はぁ……」
煙草やめなきゃダメよね、と、貯金に引き続き、ちょっぴり改心しかけた女王様だった。とはいえ、こちらもすぐに忘れて、相変わらず吸いまくっているのだが。浪費や喫煙といった悪習慣の改善は難しい。だって悪習慣こそが快楽だもの。
「まぁ、いずれにせよ、PET検査は受けておいたほうがいいですね。新横浜にいい病院があるから、ご紹介しましょう」
「ありがとうございます。あのぉ……費用はどれくらいかかりますかねぇ?」
「PET検査だけなら、九万円くらいですね」
とりあえず、十万円は切ったわけである。よかった、よかった。何だかすごく得した気分だわ。
それにしても、去年の二月に八万円も払って「人間ドック」とやらで検査したのに、子宮筋腫も発見されなかったし腫瘍マーカーの話もなかったわ。指摘されたのはコレステロール値の高さと胃のポリープだけ。子宮筋腫なんて昨日今日で五個も出来るもんじゃなし、「人間ドック」って何だったのかしら。
ま、それはともかく、だ。十一月十一日に、無事、PET検査の予約も取れたので、この問題に関しては、他に何もやることがなくなってしまった。結果が出るまで、癌かどうかもわからないんだし、騒いだって仕方ないもんね。
ただ今回、自分でも意外だったのは、「癌かもしれない」と言われたのに特に衝撃を受けなかったことだ。真っ先に思ったのは「ま、人間はいつか死ぬもんな」ということだった。老化には必死で抵抗するくせに、死には抵抗する気のない女……我ながら不思議である。