十一月十一日、いよいよPET検査の日がやって来た。仕事で徹夜して、前日の朝から一睡もしていない状態で、体調はこれ以上ないほど最悪。それでも朝十時には新横浜のクリニックに到着、看護婦さんたちがむちゃくちゃ優しくて感じが良くて、これには感激した。待合室で思わず寝てしまった(なにしろ徹夜明けだもの)女王様に毛布をかけてくれたりしてさ、人の情けが身にしみるなぁ。
で、検査結果はまだ出てないのだが、じつはその日に大事件が起こり、あらゆることが吹っ飛んでしまったのである。
午後一時ごろ、新横浜から心身ともにヘロヘロになって東京に戻ってきた女王様は、とりあえず金を引き出そうと、銀行に向かった。徹夜で頭はガンガンしてるし、しかも何の理由かわからんが私だけ検査を二回もされてしまったこともあって、「やっぱ、私、やばいのかもなぁ。夫には、せめて何か残してやりたいなぁ」などとちょっとクヨクヨと考えてしまい、本当に厭世的な気分になっていたのだ。
ところが……!!!
銀行のATMで残高照会した途端、ガガガガーンと、脳内でベートーベンの「運命」が鳴り響き、癌のことも夫のことも吹っ飛んで、その場で膝から崩れ落ちそうになったのである。
預金口座の残高は、「0円」であった。
こういうことって、普通はあり得ない。どんなに貧乏してても、残高には「三百十円」とか、端数が残っているものだ。なのに、きっぱりと「0円」! これがどういうことか、民にはわかるか。女王様には、瞬時にわかった。
「港区役所に差し押さえられたっ!!!」
これである。女王様は以前にも同じ目に遭い、コンビニのATM前で膝から崩れ落ちた経験があるのだ。
それにしても、港区役所も絶妙のタイミングで差し押さえたものである。一日おきの徹夜で今世紀最高に弱っており、そのうえ癌検査のその日に「差し押さえ」とは! 人が生きるか死ぬかという抽象的な問題についてどっぷりと考えている時に、よくぞ現実に引き戻してくれた。ありがとう、港区役所。君のメッセージは、しかと受け取ったよ。死ぬ前に、とりあえず税金払っとけって、な。
そんなわけで、港区役所からの死刑宣告にも似た衝撃のメッセージを受け取った女王様は、金を引き出すことも叶わず、よろよろと銀行から歩み出た。と、その途端、携帯電話にピピピッとメールが入ったのである。見ると、某出版社の編集者からで、
「ただいま、弊社に港区役所の滞納整理係の人が来て、今後の原稿料と印税を一切差し押さえたいと通告していきました。どうしましょうか。連絡ください」
再び、ガーン!!!
もはや歩くことすらまともにできず、這うように帰宅してパソコンを立ち上げると、文藝春秋からも新潮社からも同様のメールが入っており、どうやら港区役所は女王様を本気で一文無しにするつもりらしい。
そうか。癌になっても抗がん剤治療は受けたくないとか、そんな選択すら女王様には残されていなかったのだ。治療を受ける金もないんだもんな。あははは、と、乾いた笑いを漏らしたところで、以下次号!