「港区役所に銀行預金を差し押さえられちゃってさぁ、今、預金残高が0円なんだよ〜。正真正銘の一文無し」
このように周囲の友人に打ち明けると、皆、驚いて、こう答える。
「えーっ、大丈夫なの?」
大丈夫では、ない。いきなり一文無しになって、大丈夫なワケがなかろう。
が、何と言っても、この一文無し状態は自業自得であるので、身近な友人たちから同情されたいとも思わないし、ましてや個人的に金を貸してくれという気もないのであった。
女王様はこれまで、何人かの友人に金を貸した経験がある。日常的に借金をする人というのは、他人からの借金の申し込みを断れない傾向にあるのだ。自分がやむなく金を借り、大いに助かった経験があるので、他人から借金を申し込まれた時に、つい「困った時はお互い様だもんなぁ」などと思ってしまう。
しかし、その経験によって、「他人に金を貸す」ことがどんなに負担であるかも知ってしまった。個人的に金を貸すと、返せと言いにくくなるので、結果、貸した金が一円も戻らないまま、相手が姿を消すことも多々あって、非常に寂しい想いをするのである。そこで女王様は、自分は個人からは絶対に金を借りまいと心に誓ったのだ。
現在、個人的に借りがあるのは、一カ月ほど前にたまたま財布に現金がなくてタカナシクリニックの院長に一万円借りた際の負債だけだ。今度会ったら返そうと思っていたのだが、一文無しになったので、それも叶わぬこととなってしまった。すみません、院長。でも、こないだ、「そんなワケなんで、一万円、もうちょっと待ってね」とお願いしたら、院長は真顔で「貸してませんよ、そんな金」などと言い放ってこちらを驚愕させ、挙句に「借りた、貸さない」で言い争いになってしまった。変な男である。借りた人間が借りたって言ってんだから、認めろっちゅうねん! ホントに借りたんだよ! そのうち返すから、覚悟しとけっ!
と、まぁ、金を借りたら借りたでムキになるような女王様であるから、こんな状況になっても、友人から個人的に金を借りるつもりは全然ない。どうせ借金するのなら、金貸しを専門としている消費者金融に借りたほうが気が楽だ。
で、その日、さっそくアコムから、当座の生活資金を借り受けたのだった。せっかくコツコツと返し続けてきて、残金を半分くらいに減らしたのに、また「むじんくん」との付き合いが長引くこととなった。忸怩《じくじ》たる想いであるが、仕方ない。ちくしょう、どこまで続くヌカルミぞ、などと呻吟《しんぎん》しつつ、行きつけの喫茶店に入った。コーヒーチケットを持っているので、ここのコーヒーは現金がなくても飲めるのだ。やれやれ、ありがたい。
ところが、である。この一文無しの女王様に、たった今アコムから金を借りてきたばかりの女王様に、喫茶店のマスター(←もちろん、事情を知っている)が何を言ったと思うかね?
「悪い、五千円貸して」
わしから借りるなぁっ! 人でなしなのか、おまえはっ! 女王様、追いはぎに遭った泥棒の気分であった。しかし五千円でこれだけ殺伐となる自分も情けない。貧乏はしたくないのぉ〜。