世の中には狂ったように買い物をしまくる人間がいるものだが、じつは私もそのひとりだ。
とにかく、モノを買いまくる。ストレスが溜まると、買い物に走る。ストレスがなくても、買ってしまう。金がなければカードで、カードの限度枠を超えればローンで……物欲もさることながら、モノを買うという消費行動自体が、私にとって快楽なのである。
そして残るのは、ガラクタの山と借金だけ。それでも、買い物は止まらない。断崖に向かって走るレミングの群のように、私の買い物は破滅に向かって突っ走るのだ。俺たちに明日はないって心境だな。少なくとも私の預金通帳には、常に未来がない。
こーゆー人を、買い物依存症という。これは、精神科医が実際に私に下した診断名だ。つまり私は、お医者様にお墨付きをいただいた「ショッピングの女王様」なのである。どーだ、まいったか。でも、羨ましくないだろ。
ところが、こんな社会不適格者の私に、「好きなだけ買い物をしなさいよ」などと、そそのかす人がいるのである。「その買い物をネタに、おもしろい話を書けばいいじゃないですか」だと。
怖いモノ知らずの企画である。買い物依存症患者に、病気を正当化させるような連載を依頼するとは……まるで悪魔の発想ではないか。
よろしい。やりましょう。これから毎週、買って買って買いまくるぞっ!!!
てなワケで、第一回目。私の買い物は、椅子である。なんかショッパナから、すげぇ地味な買い物だな。でも、言っとくけど、ただの椅子じゃないぞ。
人間工学に基づいて設計された、身体にやさしい椅子なのだ。通販なんかで、よく見るヤツである。座ると自然に姿勢が前傾となって、肩や腰に負担をかけずにデスクワークに打ち込める、という触れ込み。北欧製で、値段は約十二万円。椅子にしては、じゅうぶんに生意気な価格だ。まさに女王様の玉座にふさわしかろう。
さて、その座り心地は?
椅子の底部がロッキングチェアみたいになってて、体重をかけるとググッと前に傾く仕組み……これが、この椅子の最大のセールスポイントである。ところが、使ってみると、どうにも不安定で、非常に心許ない気分になる。体重を膝で支えるシステムなのだが、その膝を置くクッションの位置が遠すぎて、ほとんど椅子からズリ落ち状態だ。
ハッキリ言いましょう。すげえ座りづらいです、この椅子。身体の不安定さが心にも影響して、とても執筆に打ち込める姿勢じゃない。この椅子に替えてから、シメキリがなかなか守れなくなったのは気のせいだろーか(気のせいだろ、それは)。
おかしいな。人間工学に基づいた設計のはずなのに……と、あれこれ理由を考えた結果、ハッと思い当たりましたね。
そーか、この椅子は北欧製だっけ。北欧人といえば、世界でもかなり身体のデカい人種である。それにくらべて私は、身長百五十三センチのチビ日本人。幼稚園児が大人の椅子に座ってるよーなもんじゃないか!
結局、この椅子は、北欧人の人間工学に基づいて設計された、北欧人の身体にやさしい椅子であり、日本人の身体には全然やさしくないのであった。
ガァ————ン!!!!
第一回目から、中村の買い物、大失敗!
服を買う時はサイズをチェックするクセに、椅子のサイズには無頓着であったのが、今回の私の敗因である。今度から、人間工学設計の椅子は、北欧の幼稚園から払い下げてもらおう。
だが、せっかく十二万円もしたのだからと、女王様は執念深くこの椅子を使っている。今現在も使っているので、例によって心が不安定になり、原稿がこんなに遅くなってしまった。
そのうえ、背もたれにもたれて電話をしてたら、思いっきり後ろに引っくり返って(ロッキングチェア・タイプだからね)、床に後頭部を強打するという事件も発生した。おいおい、ホントに身体にやさしいのかよ、この椅子!?
大いに疑問を残しつつ、次回の買い物で起死回生を謀る私である。さて、何を買おうかな!?