葉月里緒菜の写真集が売れている。羨ましい限りである。
やっぱ女に生まれたからには、美しさを武器にしたいものだよなぁ。「魔性の女」なんて呼ばれてみたいよ、一度でいいから。
しかし、今回のヌード写真集で話題になったのは、「葉月里緒菜は意外にも貧乳であった!」という衝撃の事実である。TVのワイドショーなんか見てると、ほとんどの人が、彼女の胸の小ささに驚いてるようだ。
なんだ、みんな、知らなかったの? 葉月里緒菜の胸が小さいコトくらい、私はとっくに知ってたぞ! みんな、葉月里緒菜に何を期待してたんだよ。困るなあ、もう……。
いや、正直に言おう。私も以前は、葉月里緒菜の「魔性の女」ぶりに騙されて、なんとなく胸の谷間の深そうなイメージを抱いていたのである。実際、ある雑誌のグラビアで見た彼女は、スレンダーな身体にセクシーなイヴニングドレスをまとい、しっかりと胸の谷間を見せつけていたのだ。
その写真を見ながら、「いいなぁ、葉月里緒菜。身体は華奢《きやしや》なのに、ちゃんと胸があるんだねぇ」と呟いた私に、「葉月里緒菜じつは貧乳説」を囁いたのは、当時、葉月里緒菜の付き人をしていた友人であった。
「葉月里緒菜って、ホントは胸が小さいんだよ。あれは、ニセモノのオッパイ、入れてんの」
「ええっ!? ニセモノのオッパイ!? なんや、それ!?」
驚きのあまり、ついつい関西弁になった私である。
もともと胸のない女が人並みに「胸の谷間」を作るのは、どんなに難しいコトであるか……私は、経験上、よーく知っている。
イタリア製の高価なブラジャーなども試してみたが、寄せても上げても、谷間なんかできやしなかった。まるで濃尾平野のように、起伏のない胸なのだ。
母親も祖母も人並みに胸があるのに、どうして私だけ? 顔も性格も父親似だとよく言われるが、もしかしたら胸まで父親に似たのだろーか? そんなワケで、胸の開いたイヴニングドレスなど、私は一生着られないものと諦めていたのだ。
ところが葉月里緒菜は、ニセモノのオッパイという秘密兵器によって、イヴニングドレスから堂々と胸の谷間をチラつかせているというのだ! その話を聞いた途端、私が何としてもその秘密兵器を手に入れたいと考えたのは、あまりにも自然な女心であろう。
「欲しい! どこに売ってるの、それ?」
「アメリカ製って聞いたけど、日本でも通販で売ってるよ」
なるほど。こりゃ買わないワケにはいかんでしょう。
そして数カ月後、我が家に宅配便が届いた。中身はもちろん、例のアメリカ製ニセ・オッパイだ(通販のディノスで発見)。
箱を開けると、肌色のゼリーみたいな材質(たぶんシリコン)のオッパイがふたつ、プルンプルンと震えながら並んでいる。
手に持つと、けっこうズッシリと重い。なんだか本物の胸の重量感に似ているような気もして、ちょっとうれしかったりもする。「胸が大きいから、肩が凝るのよねぇ」なんてセリフ、一度でいいから言ってみたかったのだ。うふふ、わずか八千円の出費で、今日から私も巨乳の仲間入り。
で、さっそくつけてみましたよ、葉月里緒菜のオッパイ。ブラジャーのカップの下のほうにニセ・オッパイを詰め込み、自分の胸を押し上げるようにすると……あら不思議! 柔らかい自然な胸の谷間が、たちどころに現れる(と、説明書には書いてあった)……はずなのだが!
なんとニセ・オッパイは私の胸をペチャンコに押し潰し、ブラジャーの上からプニュッとはみ出してしまったではないか!
凄《すご》い! 見るからに、ニセモノ丸わかり! むちゃくちゃカッコ悪いぞ、これ!
その恥ずかしさは、たとえるならば、ヅラをつけてるのが一目瞭然のオヤジに匹敵しよう。無理してヅラなんかつけないで、誇らしげにハゲてろ、と、日頃から私は密かに思っていたのだ。
だが、ニセモノのオッパイをブラジャーからはみ出させた私は、彼らを笑える立場にはない。
惨敗である。葉月里緒菜にも負けたが、なにより自分に負けた気分だ。世の中には、金で買えないモノがある。それは、幸せと胸の谷間と髪の毛なのだ。