この連載も四回目を迎えるわけだが、ここにいたって、ふと気づいたことがある。
これまで三回にわたって買い物をしてきたけれど、一度として満足できる商品に出くわしたことがない、という衝撃の事実である。
北欧製の人間工学椅子も、葉月里緒菜のニセ・オッパイも、ドイツの痩せるボディシャンプー(報告が遅れましたが、あれから私のウエストは、一ミリたりとも細くなっておりません)も、ことごとく私の敗北に終わった。すべて、ムダ金。ドブに捨てたも同然じゃい。
もしかすると、読者の皆様は、「なるほど。これは毎回、買い物に失敗する企画なのだな」などと、間違った認識を持っておられるかもしれない。
言っときますけど、違いますよ。私はいつもマジメに前向きに、期待に胸を膨らませて買い物をしているのだ。ところが運が悪いのか、見る目がないのか(たぶん後者だな)、たまたま失敗が続いてしまったのである。
その証拠に……ほら、今回は胸を張って宣言しちゃうぞ。女王様の買い物、四回目にして会心のヒットだ!
その栄えある商品は、アメリカ人がTVカメラに唾を飛ばして宣伝してた「衣類の強力シミ抜きSRX11」。どんな頑固なシミも、アッという間に消してしまうという魔法のシミ抜きなのである。
どうだ、怪しかろう。私も怪しいと思ったよ。最初はな。
ところで、皆様はご存じだろうか? 深夜、というより明け方に近い午前三時から四時頃、TVショッピングのゴールデンタイムがやってくることを?
多い日には四つの局でほぼ同時に通販番組をやっていて、やれ「一週間で見違える身体になれる健康器具」だの、「飛距離が驚異的に延びるゴルフボール」だの、数々の魔法のような商品を紹介している。
で、この中で特に私のお気に入りは、テレビ東京の「テレ・コンワールド」。毎回、インチキ臭い外人が登場し、恥ずかしくなるようなオーヴァーアクションで商品を誉め称える熱血通販番組だ。
「わーお! ジョン、信じられないよ! あの頑固なシミが真っ白だ! これは奇跡だよ!」
などと、たかがシミ抜きにいちいち両手を広げて目玉をむくアメリカ人を見るのが、私は大好きなのである。
脳天気な国だぜ、アメリカって。きっと、こんな愚にもつかない商品を騙されて買うバカが、世界一多い国なんだろうな……なーんて、鼻で笑って見ているうちはまだよかった。だが、何度も見ているうちに洗脳され、いつの間にかそのシミ抜きを試してみたくて仕方なくなる。気がつけばフリーダイヤルに電話してて、私もアメリカ人の仲間入りである。
ところが、半信半疑で注文したこのシミ抜きが、驚くなかれ、広告に嘘偽りのない優秀商品だったのだ。んもう、落ちる、落ちる、ホントに落ちる。
半年前から気になってたカーペットの缶コーヒーのシミ、二年前に白い襟にベットリとヘアカラーのシミがついたままのエルメスのジャケット。長年、私を悩ませていた悪夢のようなシミが、きれいに抜け落ちたのだ。
わーお、マイク! こいつは奇跡だぜっ!
特にエルメスのジャケットは、何軒ものクリーニング屋にシミ抜きを依頼し、どこからも匙《さじ》を投げられた涙の一着であった。それが、自宅でアッという間に真っ白に……シミ抜き業者は今まで、何をやっとったんじゃい。怒るで、正味の話(←横山やすし口調でお読みください)。
SRX11よ、君は恩人だ。シミ抜きの英雄だ。まぁ、あれがエルメスのジャケットじゃなかったら、私もここまで君に感謝しなかったと思うが。
そんなワケで、今や私はシミ抜きの伝道師と化して、SRX11の布教活動につとめている。
ところで、私が「テレ・コンワールド」で購入したもうひとつの商品……シェイプアップ器具は、現在、我が家の洋服掛けと化している。やはりボディライン関連商品は、本人の根気が試される分、奇跡が起こりにくいのであった。やれやれ……。