人間にとって、一番大切なものは何だろうか。そう尋ねたら、「他の人間は知らないけど、俺にとっては髪の毛だよ」と、憮然《ぶぜん》とした顔で答えた友人がいた。
その気持ち、わかるよ。人間にとって大切なものは他にもあるんだろうけど、とりあえず欲しいのは髪の毛だったり胸の谷間だったりするんだよな。
世界には食べる物にも事欠く人々や難病と闘っている人々がいるというのに、髪の毛やオッパイが人より貧弱だって、それが何なんだよ、贅沢な悩みだ……と、非難する人はいるだろう。もちろんそのとおりなんだが、やっぱハゲたくないだろ、人は。
そんなワケで今回は、「ハゲたちの救世主、アメリカより登場!」の巻である。
薬の名前は、「プロペシア」。従来の毛生え薬と違ってヘアトニック・タイプではなく、なんと経口服用するタイプだ。口から飲むんだよ、鎮痛剤とか胃薬みたいにね。で、これがけっこう効くらしい。アメリカでは、かなり話題になってるそうな。
だが、よく効く薬には副作用がある。これって基本ですよね。問題は、その副作用の内容なのだが……これがねぇ、なんと男性機能の減退だっていうんですよ。要するに、インポだわね。まぁ、人によっては、それほど副作用の現れない場合もあるそうだけど。
考えてみれば、ハゲってのは男性ホルモンの働きによるものだから、それを治す薬の副作用が男性機能減退ってのは、なかなか理に叶ってる。「ふーむ、なるほど。こりゃ、ますます効きそうじゃわい」と唸りたくなるではないか。
が、感心してる場合ではない。インポってのは、ハゲに負けず劣らず、男にとって深刻な問題であろう。
ハゲをとるか、インポをとるか……「プロペシア」を服用する前に、人は重大な二者択一を迫られるワケである。これ、究極の選択だと思いませんか?
ハゲを治したい人の大部分は、やっぱ女にモテたいんだよね。特に若ハゲの人は、「自分がモテないのはハゲてるからだ」と、固く信じてるフシがある。しかしハゲが治って女にモテたとしても、インポだったら意味ないじゃん。
一方、いくら男性機能に自信があったって、ハゲてるせいで女に相手にされなきゃ、それはそれで宝の持ち腐れとゆーか、何とゆーか……ねぇ、どうして世の中って、こんなにうまくいかないの? 皆、もう少しだけ幸せになりたいだけなのにさぁ。
そんなワケで、このハゲの救世主「プロペシア」を入手した私は(ちなみに入手先は秘密ね)、この薬を飲んでくれる人を探すのに、えらい苦労をするハメになったのである。なにしろ自分じゃ試せないからね。髪の毛なら、分けてあげたいくらい豊富に生えてるし。
そこで私は、自分の父親に飲ませてみようと考えたのだ。若ハゲの知り合いはたくさんいるが、彼らがインポになっては気の毒である。だが父親なら、もう六十五歳だし、べつに構わないだろう(って、勝手に決めんなよ)。
ところが、なんとこの父親に、きっぱり断られたのである!
と、父ちゃん……まだ現役なのかっ!?
娘としてちょっとショックを受けたりしたが、理由は「ソレはともかく、他の副作用が怖い」という、至極まっとうなものであった。ま、昔から薬の嫌いな人だったからね。
ああ、よかった。ちょっとドキドキしちゃったぞ(マジに)。
で、仕方なく、若ハゲの人々に声をかけてみた。
「あのぉ〜、怒んないでね。ハゲの薬、試してみる気ない?」
彼らを傷つけないよう、恐る恐るの打診である。
すると……いましたよ。
「僕、インポになってもいいです! ハゲが治るなら何でもしますっ!」と答えた強者《つわもの》が。
私は一瞬、彼を抱き締めたくなったね。
そーか、T井クン。君はそんなに髪の毛が欲しかったのか。男性機能と引き換えにするほどに……(涙、涙、涙)。
こうして彼は、夢の毛生え薬を毎日飲んでいる。効果は三カ月後というが、果たして彼の頭に毛は生えてくるのか!? そして下半身の状態はっ!? 手に汗握る結果報告は、また後日……。
*さて、この人体実験の結果であるが、残念なコトにT井クンはいまだにハゲである。しかし下半身は元気だそうで、まぁ、何よりだ。やっぱ、男にとって大切なのは、髪の毛よりアソコだよ、T井クン。