いやぁ、例のダイエット食品を装ったクレゾール事件といい、某宗教団体が絡むといわれる純潔キャンディーといい、世の中、「タダより怖いモノはない」状態ですなぁ。
さて、普段から人並み以上に消費意欲の旺盛な女王様の元には、事件に発展しないまでも、かなり怪しげな勧誘電話が、ちょくちょくかかってくる。きっと私の知らないどこかで、「カモになりやすい消費者リスト」みたいなモノが出回っていて、その筆頭に私の住所氏名が記載されているのであろう。
先日も、見知らぬ中年女性から電話がかかってきて、
「中村さんのお宅ですね。私、美容指導センターの○○と申します」
「美容指導センター???」
「はい。最近、ダイエット食品と称して、通販などでさまざまな商品が売られてますけど、じつはそのほとんどが効果のない詐欺まがいの商品なんですよ。そこで私たちは、消費者の方に正しいダイエットの知識を持っていただくことと、そのようなインチキ商品を追放することを目的に活動してるんですよ」
ふーん……なんだか知らないけど、消費者団体のようなモノなんだろーか。だが、その中年女の、まるで隣のオバサンみたいに馴れ馴れしい猫撫で声が、長年カモにされ続けてきた私の警報装置に触れたのである。
この女、怪しい。消費者団体を装った、新手のセールスじゃないか?
「わかりました。でも、なぜ私にお電話を?」
「中村さんは今まで、通販などでいくつかダイエット商品を買ってらっしゃるでしょ? その後の経過のアンケートをね、取らせていただきたいんですよ」
やはり、何かのリストに私の名前が記載されてるようだ。ますますもって、怪しい。
私は、不信感もあらわな口調で問い返したね。
「美容指導センターとおっしゃいましたよね?」
「ええ」
「私、忙しくて手が離せないんです。折り返しお電話しますから、電話番号を教えてください」
「あら!」と、女は答えた。
「なんで、うちの電話番号を教えなきゃいけないんです?」
「だから、折り返し電話を……」
「いえ、こちらから電話しますから。何時頃ならいいですか?」
ほほう、電話番号を教えたがらないとは、もはや怪しさ百%。よし、引っかかったフリして、もうしばらく喋らせてみよう。
「あ、ところで、正しいダイエットの知識って何ですか?」
「そう、それなんですよ。そもそも肥満の原因とは人それぞれでね……」
女は、滔々《とうとう》と喋り始めた。
要約すると、ダイエット食品はその人の体質に応じて選ばなければ意味がない、と。ま、そーゆーコトだね。
「ですから、インチキ商品に引っかからないためにも、まず自分の体質を知らなくては。今から中村さんの体質を、私が|無料で《ヽヽヽ》診断してあげますね」
とても押しつけがましく、かつ胡散《うさん》臭い提案である。ここまで来たら、こいつが消費者団体じゃないコトは明らかだ。
これ以上、この女の話を聞くのは危険だが、文春のネタにはなりそうだぞ……そう思った私は、素直に無料診断とやらを受け、彼女の薦める「体質別酵素ダイエット法」の講釈にフムフムと耳を傾けたのである。
すると、「こりゃ、カモになりそうだ」と踏んだ彼女は、いよいよ最後の詰めに入ったね。ちなみに、その口調はますます馴れ馴れしくなっている。
「中村さん、あなたの体質じゃ、今までの方法で痩せるワケありませんよぉ。酵素を飲まなきゃねえ。酵素食品、送ってあげましょうか? 販売目的とかじゃなくてね、実物をお見せしたいの。ね、見てみるだけでも……」
「じゃ、サンプルでも送ってくださいな」
「あら、うち、サンプルないんですよ。商品、直接、送りますね。現物見て、嫌なら送り返してくれればいいから」
「いや、商品はいいから、パンフレットだけ送ってください」
「それはできないの。やっぱり現物見てもらわないと。ね、ね」
こうして、私はその怪しい酵素食品を送ってもらう約束をしたのだが……さて、その顛末《てんまつ》は、次号に続くのであった。