てなワケで、「美容指導センター」なる消費者団体まがいの怪しい団体名を名乗る女から、「気に入らなかったら送り返してくれていいから」という約束で、酵素ダイエット食品を送られるコトになった私である。
宅配便は数日後に届いたが、送り主は「美容指導センター」ではなく、電話で勧誘してきた彼女自身の個人名であった。
これもまた、不思議な話である。たぶん、何か法律の目をくぐる手段なのであろう。
箱を開けると、件《くだん》の酵素食品とともに数枚の書類が入っている。それを見た途端、
「なにぃっ!?」
私は目を剥いて怒鳴っちまったね。書類には、こう書いてあったのだよ。
「この度は、弊社商品をご購入いただきまして誠にありがとうございました。お客様のお支払い方法は、現金一括払いとなっております。下記の銀行の口座へお振り込み頂きますようお願い申し上げます」
ちょっと待てぇ! 何が「ご購入いただきまして」だ! いつ私が、こんなモノ買うと言ったぁっ!?
支払い期日は、なんと二日後。代金は、アッと驚く二十三万六千百円なり! ひどいなり、メチャクチャなり!
ちなみに請求元は、ミリオンヘルスという会社であった。初めて聞いたぞ、そんな名前。美容指導センターじゃなかったのかよ?
さて、ここまでやられたからには、私もウカウカしてられない。このままじゃ、強引に金を支払わされるはめになりそうだ。
まぁ、このコーナーの主旨からいえば、この商品を購入してホントに効くかどうか試してみるべきであろうが、二十三万円も自腹を切るほど女王様は裕福じゃないんでね。民よ、すまぬ。
私はさっそく電話を引き寄せると、同封されていた名刺(例の、あの女の名刺だ)の電話番号にかけたのである。
「もしもし、宅配便届きましたけど……」
「あら、届いたぁ?(オバチャン、すでにタメ口である)じゃ、ひとつひとつの酵素の説明をしましょうね。まず……」
「いや、その前にですね。請求書が入ってて、しかも支払い期日あさってなんですけど、これ、どーゆーコトですか? 私、購入の約束なんかしてませんよね」
「まぁ、そんな請求書が? きっと事務の子が間違えたんだわ。ごめんなさぁ〜い」
ホントかよ。いや、たぶんウソだな。十中八九、確信犯だ。
「でもね、とにかく商品の説明を聞いて。うちの商品は、ヨソの販売目的のダイエット食品とは違うんだから……」
「でも、おたくも販売目的でしょ?」
「まぁ、そうなんですけどね、うちは良心的なの。商品にも自信あるし」
「ヨソの会社だって、自信あるって言うでしょうね」
「でもほら、ヨソの会社は強引に売りつけたりするんで、いろいろと苦情が絶えないんですよね。その点、うちは……」
何をか言わんや、である。ここまで強引な売りつけ方をする会社、ヨソにはないと思うぞ!
オバチャンはしつこくネバったが、私は「買いません。送り返します」の一点張りで応じた。言いくるめられたら最後だもんね。そりゃもう必死でしたよ。
電話での攻防が延々と続き、ついに諦めたオバチャンは、
「わかりました。送り返してください。まぁ、あなたみたいにハッキリと断れる性格の人は、ヨソの強引な悪徳商法にも引っかからないんでしょうね。でも世の中、気の弱い人もいるから、うちは感謝されてるんですよ」
いやぁ、恨まれこそすれ、感謝はされてないと思うなぁ。なんなら得意の電話アンケート取ってみなよ、美容指導センター改めミリオンヘルスさんよ?
それにしても、オバチャンのしつこさ、まわりくどさ、押しつけがましさは尋常じゃなかったね。気の弱い人はホントに押し切られちゃうよ。私の場合、途中でマジに怒り出したのが功を奏したような気がする。
若い頃は他人に怒りをぶつけるのが怖かったけど、ちゃんと怒るコトも必要だよね、人間は……とか言って、日に日に獰猛《どうもう》になっていく女王様なのである。うちにセールスの電話かけてくるヤツは、猛犬注意だよ!
*この後、このダイエット食品会社からは、二回も同じ勧誘電話がかかってきた。二度目は「美容指導センター」ではなく「美容管理センター」とか名乗っていたが、たぶん同じ会社であろう。懲りねぇヤツらだ、まったく……。