先日、何気なく立ち読みしてた雑誌に、「碧洋のハート」なる商品の広告を発見した。
碧洋のハート……それは、大ヒットしたハリウッド映画『タイタニック』に登場する、大粒のブルーダイヤ(洗剤じゃありませんよ)の名称である。
ハッキリ言って、あの映画自体は、とてつもなくインチキ臭い駄作だと女王様は思っている。
なーにが命を賭けたラブロマンスだよ。しょせん、婆さんの自慢話じゃねーか。なんたって、ほぼ全編、あの女の一人称による追想シーンだからね。すべてが自慢タラタラのホラ話にしか聞こえねーワケよ。「私、昔はこーんなにモテちゃってぇ、うふ! 私のために命を捨てた男もいるのよねぇ」てな感じで、婆さん、もう言いたい放題。
誰か止めてやれ、調子乗り過ぎだぞ、こいつ!
なんといっても圧巻(映画のではなく、ホラ話の)は、タイタニックが氷山にぶつかる瞬間だ。婆さんの話によると、あの船が氷山にぶつかったのは、自分とディカプリオのキスシーンに船員が見とれて、氷山の発見が遅れたからだとさ。ワッハッハ、誰が信じるかよ、そんなヨタ話。自意識過剰を通り越して、もはや妄想だっつーの。
そりゃ映画ってのはフィクションですけどねぇ、婆さんの果てしなく妄想入った自慢話に感動するほど、女王様はウブじゃねーのよ。でも、世界中の人間はウブだったと見えて、あんなのに感動してやんの。あーあ。
しかし、だ。話はいきなり本題に戻るが、若き日の婆さんが得意げに首から下げてたあのダイヤ……「碧洋のハート」だけは、さすがの女王様も羨望の眼差しで見入っちまったね。
「ああ、なんて大きなダイヤなの!? 私だったら、ダイヤに目が眩《くら》んでディカプリオ捨てるな、確実に」などと、タメ息ついたものである。
男なんか、いくらハンサムでも、年は取るし屁はこくし、一生を捧げるほどのモンじゃない。でも、ダイヤは……そう、TVCMでも言ってるじゃないの。「ダイヤモンドは永遠の輝き」なのよっ! 永遠だぞ、永遠! この世に永遠に価値のあるモノなんて、ダイヤ以外にありますかってんだ。愛も不動産もエルメスのバッグも、いつかは値下がりするモノなのよ!
そんなワケで、通販の広告に「碧洋のハート」の文字を発見した私は、思わずハッと雑誌をめくる手を止めてしまったのであった。
あの燦然《さんぜん》と輝く大粒ダイヤが商品化されて手に入るっていうの!? いったい、お値段はいくらするのかしら? ってゆーか、その前に、そんなデカいダイヤ、買える人がいるワケ? この不況にあえぐ日本に!? な、なんと時代錯誤もはなはだしい、バブリーな商品!
だが、女王様はバブリーなモノが大好きな女である。特に、ダイヤと聞けば、こりゃもう無視するワケにはいかんでしょ。いや、私が無視しても、私の中に流れるマリー・アントワネットの血(そんなの流れてたのか、いつの間にっ!?)が黙っちゃいない。なにしろ、ダイヤの首飾りで身を滅ぼした大バカ王妃ですもの。
やはり、これは私が手に入れるべきダイヤだわ。そうよ、コンビニでこの雑誌を立ち読みしたのも、運命の巡り合わせに違いないわ!
胸をときめかせつつ、女王様は慌ただしく誌面に目を走らせ、商品の価格を確かめた。そして、一瞬、我が目を疑いましたね。
運命のダイヤのお値段は……なんと、三万円弱……であった。
おいおいっ! なんだ、このヒトをバカにした値段は! きょうび、ガラス玉でも、もうちょっとすんじゃねーの?
ま、よくよく考えてみりゃ、あれだけの大きさの本物のダイヤ、通販なんかで売るかっつーの。そりゃ、ニセモノに決まってますよ。だけどね、三万円って、あんた……。子どもがお年玉で買えちゃうぞ、碧洋のハート! ディカプリオも船の舳先《へさき》でズッコケるぜ、まったく!
いやぁ、本家本元の映画に輪をかけてインチキ臭く安っぽい便乗商品なのであった。まいった、まいった。それにしても、誰が買うんだ、このオモチャ?
もし、ホントにコレをつけてる人を見かけたら、ぜひ、女王様にご一報ください。