久し振りに実家に電話をかけたら、母親が情けなさそうな声で、こう言った。
「週刊文春、読んだわよ。ねぇ、あなた……むじんくんからお金借りてるって、ホントなの?」
しまった……!
私は受話器を握ったまま、宙を睨んで唸っちまったぜ。
調子に乗ってウッカリ忘れてたが、うちの親は『週刊文春』の読者であったのだ。
普段から娘の常軌を逸したムダ遣いに心を痛めつつ、それでも「印税の前借りなんてさぁ、この業界じゃ常識なのよ、常識」などという娘のタワゴトを信じて、「ま、仕方ないわね。特殊な業界らしいし……」と、無理やり自分を納得させてきた、善良で小心な母親。だが、彼女は知らなかったのだ。まさか娘が、サラ金まで利用してたとは……!
がぁ————ん!!!!
すいません、お母さん。バレちゃったから開き直って告白しちゃうけど、あんたの娘はTVCMでお馴染みの「ラララ、むじんくん」に二十万円借りて、毎月一万円ずつ返してる身の上なんですぅ。
しかし、これには深いワケがある。読者諸君、聞いてくれたまえ。女王様がむじんくんから金を借りるにいたった、愚かしくも情けない事情を……。
何度も言ってるコトだが、女王様は金持ちではない。収入はすべてアメックスの支払いに消え、預金通帳の残高は、常に限りなくゼロに近い数字を記録している有り様だ。そんなコトは、私を直接知らない世間の人々にすら知れ渡ってるはずである。
なのに、皮肉にも、私を直接知ってる友人たちは、その事実を認識してないのだ。目の前でパッパカと気前よく金を遣う私を見て、彼らは「なんだかんだ言って、中村、金持ってんじゃん」と勘違いしてしまうらしい。
で、こーゆーコトが起きる。ある日、親しい友人が、びしょ濡れの仔犬のような目をして、私に訴えるのである。
「ねぇ、ごめん。お金貸して」
「い、いくら……?」
その金額は、人によって十万円だったり二十万円だったりするワケだが、もちろん宵越しの銭は持たない女王様、そんな大金は預金通帳に入ってない。
先日もそのようなコトが起こり、女王様は友人になけなしの十万円を都合した。が、その数日後、今度は別の友人が、濡れた仔犬の目で、
「お願い。二十万円、貸して」
「うううっ……!!!」
女王様の鼻の穴が、ピクピクと痙攣《けいれん》した。本来なら、「ごめん。私もお金ないんだ」と正直に謝ればすむ話である。が、そこは見栄っ張りの女王様。「お金がない」のひとことが、どーしても言えない! ちくしょー、それが言えるんなら、私の人生、こんなに逼迫《ひつぱく》してねーよっ!
で、女王様は、どーしたか。
「いいわ、任せなさい!」
力強く請け合うや、翌日、速攻でむじんくんに駆け込み、二十万円借りてだね、さも自分の金であるかのような顔で、件《くだん》の友人に手渡したのであるよ。
「返済は、いつでもよろしくってよ。ホーホホホホッ!」
ああ……バカだ! すげぇアホンダラだ! 自分で書いてて自分にムカついてくるほど大バカ女だ、私はぁ——っ!
こーゆーコトを書くと、「もしかして、女王様って、いいヒトなんじゃ……」などと善意に誤解する人がいるかもしれないが、それは違う! 私は断じて、「いいヒト」なんかじゃねーよ。友人の窮状を見かねて、という心優しい理由からではなく、友人にケチとかビンボーとか思われたくないという見栄の一心で金を貸しちまうのである。
そして、友人から「ありがとう、助かったよ」と言われた瞬間の、頭がクラクラするほど甘美な優越感……ホホホホッ、私は天下無敵の女王様よ! 二十万円くらい、屁でもないわよ、おならプープーよ。どんどん借りてちょうだい、毎度ありぃ!
おい、えーかげんにせーよ。「毎度ありぃ」は、むじんくんのセリフだろっちゅーの!
そんなワケで、このままいくと、「ショッピングの女王」は間違いなく「キャッシングの女王」となるであろう。虚栄という名の不治の病で、自滅の道を一直線。このまま死んだら、葬式費用もない女王様だ。夫よ、すまん。葬式代は、むじんくんから借りてくれぇ!