そう、僕達はいつも機械の身体になりたかったのです。ロボコンのように、或いはウランちゃんのように、デフォルメされたデザイン的身体、野球選手よりアイドル歌手より、僕らは超合金のオブジェに生まれ変わりたかったのです。
時折一人で自分の掌を見つめます。関節には無数の皴《しわ》が走り、細胞の有機的質感は魚の鱗《うろこ》のよう。その余りのグロテスクさに、僕は吐き気をもよおします。そうなれば生命のメカニズムの全てがとても不自然で下劣なものに思われ、食事もままなりません。肉を噛み切り口中で咀嚼《そしやく》することを想像するだけで、気が変になってしまいそうです。「ロボットみたく、エネルギーをタンクに注ぎ込むだけなら、何とエレガントなことだろう」。世俗の象徴である肉体、食欲や性欲に激しい嫌悪感を覚える時、駅のホームで酔っ払いが大声で浮かれています。同級生はどんな話をしていてもすぐに異性の話と擦り替えます。汗の匂い、単純なリビドー、新陳代謝。グラマラスな現実に対し、僕は理不尽と知りつつ悪意と軽蔑の眼差しを投げつけてしまいます。
何時の日にか、僕達は夢みるマシンになれるのでしょうか。数式の如く明晰で、鉱石みたいに潔《いさぎよ》い、新しきポエジーで造られし生命体。それはバーチャルでもドラッグでもなく、イマジネーションで構築された結晶の姿。規則正しい世界観によって歯車は回り、弧を描く点は正確に始点へと帰結する。多くの人が追憶に失われた世界を形成したように、僕達は未来に逃避行しています。薔薇色の新世紀、そこで僕らは永遠の冬眠に入るのです。
留まろうとするDNAと、進化しようとするDNA。僕らは現実を蹴散らし、未来に向かうDNAに搭乗するのです。引き止めるお友達の手を払い、甘く囁く恋人の腕を振りほどき、僕らは出発します。完全なフォルムを手に入れる為(ソレワミライノイヴニナリ)、時間の果てを確かめる為(ワタシガワタシデアルクニニ)、乙女はいつでも冒険者なのです(ハロー、ナルキソス。ナゼナラキミワカミダカラ)。無臭のエロスは、プラスとマイナスの明解な化学反応なのかもしれません。
よく澄み切った冬の夜空、シリウスを見上げ、君も長旅の準備をしているところでしょうか。