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正しい乙女になるために11

时间: 2020-10-28    进入日语论坛
核心提示:春の初めの乙女のコートは 春も暖かくなり、桜も満開になってしまうとよろしくない。丁度コートを羽織り電車に乗れば、窓硝子か
(单词翻译:双击或拖选)
 春の初めの乙女のコートは
 
 春も暖かくなり、桜も満開になってしまうとよろしくない。丁度コートを羽織り電車に乗れば、窓硝子からの日差しがほんのりと、下着を汗ばますくらいの春の初めがいとよろし。
 こんな微妙な季節は気づくとすぐに終わってしまい、また来年の春の初めを待たなければならないのです。朝はまだ寒く、顔を洗うのも非常に億劫《おつくう》、それでも冷たい水で顔を洗いみつあみをキリリと結んで、セーラー服の上に紺のダサいコートを着込むのです。僕はこの学校指定の紺のコートが大好きです。僕の通っていた学校には指定のコートはなかったのですが、その頃から既に僕は、冬にお目見えする紺のコートに眼をつけていました(中年のオヤジみたいだ)。中途半端な長さ、中途半端なAライン、レインコートのように素っ気ないコートは、ボタンを全部閉めて、蓑虫のように着るのがベストです。髪形は太いみつあみ、おさげ。素足(ストッキングは野暮ですよ)に白の短い靴下を履いて、靴はやはり指定の黒いストラップ・シューズ。首を亀のように不格好に縮めて、マフラーだけはちょっぴりお洒落なものを選んで、国鉄のホームに佇めば、これはもう乙女の定番スタイルです(私鉄より、やはり国鉄のホームなのです。JRなんて云ってはいけません。民営になったとはいえ、どことなく共産主義的な灰色のホームと赤茶けたレール。紺のコートの寒い春の乙女には、これが一番ハマるのです)。
 学生時代は「ダサい格好を極める」。これがハイレベルな乙女の在り方です。制服とは生徒を格好悪くみせようと計算して作られたものなのですから、スカートの裾を詰めたり、指定外のブラウスを合わせたりしてみても、そのダサさは決して克服されるものではありません。本当にお洒落に着こなしたいのなら、制服本来の持つ個性を最大限に活かす、つまりは思いきりダサく着ることが大切なのです。眼の悪い人はコンタクトレンズなんてよして、学校では太い黒縁の眼鏡になさるようお勧めしたいですし、鞄につけるキーホルダーも流行りのマスコットなどではなく、「学問成就」のお守りなぞのほうがひときわラブリーに思えます。
 重たそうなセーラー服の上に薄い紺のコートを着て、一人でつまらなそうに電車を待っている女学生。その姿はいつも僕の心を揺らします。花屋の店先では、三色スミレが黒いビニールの鉢に入って売られています。チープで可憐な野の花の鉢と、そんな乙女の姿が重なって、僕は春の詩人にでもなってしまったかのようです。四月は入学の季節ですね。新しく制服を着る貴方は、スミレのようにダサくあって下さい。そんな貴方を見つけたら、僕は小さな鉢植えを突然無理矢理、プレゼントしてしまうかもしれません。
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