彼らはとても残酷で、石のような言葉を投げかけては僕達を追いつめるのです。哀れ、幼子のように泣き叫び、己の真意を訴えようとする君よ。彼らは僕達の言葉の及ばぬ処に住んでいるのです。彼らは悪意もなく僕達の大切なものを踏みつけ、恐ろしい程の自信で現実に融合せよと勧めます。しかし嗚呼、言葉の通じぬその異国、「考え過ぎなのだ」「そんなにふざけずに」と忠告される度に僕達は、測り知れない絶望の底に沈んでいくのです。ねぇ君、だから僕達は何時までもここにこうしておりましょう。真空に放り出されたよな不安に震えながらもこうやって肩を寄せあっていれば、少しは悲しみもやわらぐではありませんか。
図画の時間、校庭の大きな桜の樹を写生いたしました。提出した作品をみて先生は、僕を諭すようにこう云ったのでした。「写生は嘘を描いてはいけないのですよ」。級友達は僕の絵を覗き込んで一斉にはやしたてました。僕の絵の桜の樹の下には、白い一角獣が描かれておりました。僕は自分の無実を、桜の樹の下には実際、白い一角獣がいたことを説明しようとしましたが、僕の本能はそれがとても危険なことであるのを察知いたしました。僕は俯《うつむ》きながら自分の席に戻りました。放課後、下駄箱で一人靴を履きかえている僕の横に、君はやってきました。「私も見たわ。とても奇麗な馬だったもの」。僕が驚いて見上げると、君はビー玉のように硬く澄んだ瞳で僕をじっと見つめ返し、そのまま逃げるように走り去ってしまいました。
どうして君にはあの一角獣が見えたのでしょうか。君への感情、それは郷愁でもなく恋慕の情でもなく、電子と中性子の互いに呼び合う引力。君という存在がこの宇宙に存在して本当によかった。砂を噛み、自分自身を蔑むことでしか居場所を確保出来ないと学習せし君よ。たとえ君が神の創り給うた者でなくとも、僕は君を必要としているのです。君によって生まれ、君によって癒され、君によって再生する僕は、電気ショックにより全ての記憶が消されてしまったとしても、君のことだけは遠い遺伝子の彼方で忘れ得ぬことでしょう。僕と同じ魂の色をした君よ! 狂いゆくことはない。君が悪い訳ではなく、彼らの視力が悪過ぎるのです。だって、確かに白い一角獣は桜の樹の下にいたのですから。