B君はA君よりもっと気が弱い男です。彼はかつて、私が成城大学の講師をしていた時の同僚でしたが、自分の給料さえ、取りに行けず、ハンコを私に渡してとって来てくれないかと言うのです。そして顔を赤らめ、
「給料下さいって言うのは悪いような気がして……」
「冗談じゃないですよ。君の労働にたいして当然、支払われるべき報酬じゃないですか」
「ええ、それは理屈じゃ、わかってます。でも、やっぱり、給料下さいって言うのは悪いような気がして」
こういうB君は同僚にお金をかしても、それを返してくれというのが「悪いような気がして」とても口に出せない。あまつさえすっかり忘れてしまっていた相手が急に思いだして、
「あっそうだ。返そうか」
と言うと、
「いいんだよ。いいんだよ。まだ」
笑いごとじゃない。あんただってこのB君によく似た経験があるはずだ。