第一種は帰国後、やたらと会話のなかに英語を入れて使う手合いでしてな。
「グッド、モーニング、ジェントルマン。いや昨日は天気もベリ、ファインだから、ワイフとチルドレンをつれて大磯に行ったんだが驚いたねえ、また日本の米国模倣がはじまって、大磯ロングビーチなんてできてるんだが。あんなもんじゃありませんよ、ワイキキなんて。ぼくがワイキキに行ったときはね」
またか、と同僚たちはイヤな顔をするが当人一向お気づきでない。
「いや、その海のビューティフルなこと。そしてビューティ・ガールスの多いこと。日本みたいに海もきたなく、大根足の娘たちがウロウロしているのとちがうよ。全くビューティフルの一語につきるね」
「そうですか」
「そうだよ。そのビューティフル・ガールスの一人がつかつかと、ぼくのところに寄ってきてジャパニーズかときくんだな、イエスと答えると、ジャパンにぜひ行きたい。ちょっと一緒につきあってくれんかと……向うの女は積極的だからねえ。やりたいことしたいことはフランクだよ、フランク。日本の女とそこが違うな。一緒に泳いで、向うが言うんだな。ユー、キャン、スイム、ベリ、ウエル。オレ、答えたよ。サンキュー、ユー、オルソウ。それで意気投合しちゃって、あとはご想像にまかせるよ、ハッ、ハッ、ハ」
なにがご想像にまかせるだ。なにがハッ、ハッ、ハだ。第一、こういう連中は外国ではただオロオロ、キョトキョトしているだけで外国人の女性から偶然、話しかけられても顔面紅潮、男子七歳にして女子と席を同じゅうせずとばかりガタガタふるえ、イ…エ…ス、イ…エ…スというばかりなのだが、日本に戻れば、だれも知らぬが幸い、出まかせに、自分がもてたようなことを言うのである。
いるでしょうが、諸君のまわりにも。洋行がえりのこんなオッさんが。