人間の顔にはな、狐型と狸型との二種類があるな。岩下志麻の顔、あれは狐型。団令子の顔、これは狸型。わかるだろうが。
会社で暇なおり、上役、同僚が狸か狐か、じいーっと観察してみるがいい。結構、おもしろいな。
わしは狐より狸のほうが何となく好きだ。なぜか知らんが、同じ人間をだますのでも狸のほうがやはり愛嬌があるらしいな。狐は本当に人間をだますが、狸はとぼけただましかたをするからな。
二年前、愛媛県のある農家でこういう出来事があったことを新聞で読んだ記憶がある。
その農家では、猫を沢山飼っていたそうだ。ある日、主人が縁側で昼寝をしていると、猫のようであるが、猫ともチトちがう声を出して自分の頭を通りすぎた奴がいた。目をさまして見ると、こいつが狸めでな。この狸、その農家の大きな厨《くりや》に半月ほど前から住みついて残飯を食っておったらしいが、猫声のまねをして家人をダマくらかしたらしいな。
家の主人は早速つかまえて、近所の小学校に寄付したとのことであった。写真も出ていて、キョトンとした目で檻の中にはいっている姿がうつっていて、愛嬌あったなあ。
やはり同じころ、鎌倉にも狸が出ていたなあ。これは鎌倉の普通の家にな、ある日、裏山から狸がおりてきて残飯たべているので、それから毎日、家人が残飯をおいてやると、今度は仲間と二匹で日参するようになってな。「チカゴロハ、キマッタ時間ニヤッテキテ、尾デ家ノ戸ヲタタキ、早ク飯ヲダセ、ダセト強要スルヨウニナリマシタ」と、その家人の談話が新聞にものっていたがなあ。
そのときもこれはいいと思い、願わくばその狸公二匹がいまも健在であり、小学校なんかや動物園などに寄付されず、いつまでも「早ク飯ヲダセ、ダセ」と現われることを願う次第である。
狸はいいなあ。わしは柿生(神奈川県)の山里に住むが、まだ野生の狸にはおめにかかっておらん。このあたりもいることはいるらしいがね。そのかわり、イタチ、野ウサギなどは散歩のおり、ちょくちょく見るの。